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バル  作者: 隣の猫
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シェラタン



翌朝。


吹雪はすっかり止み、雪山には静かな朝が訪れていた。


昨夜の戦いの跡が、雪原にはっきりと残っている。


倒れた雪熊の王。


深く刻まれた爪痕。


そして、そのすべてを一瞬で終わらせた白い軌跡。


ベスは静かに雪原を見つめた。


「あれほどの力……。」


ガルドも頷く。


「この山を守る者だ。」


「だからこそ、あの雪熊たちは恐れたんだろう。」


誰も異論はなかった。




身支度を整えた灰鷹は、再び山奥を目指して歩き始める。


雪を踏みしめる音だけが響く。


しばらく進んだその時。


開けた雪原の中央に、一頭の白狐が静かに座っていた。


雪よりも白い毛並み。


朝日に照らされて輝く一本の尾。


黄金色の瞳は、穏やかに灰鷹を見つめている。


その姿には昨夜感じた圧倒的な威圧感はなく、ただ神々しい静けさだけがあった。


ガルドはゆっくりと頭を下げる。


「昨夜は助けられた。」


「礼を言う。」


白狐は何も答えない。


ただ静かに、その黄金の瞳を細めた。




その時。


「……かわいい。」


小さな声が聞こえた。


リシアだった。


彼女は白狐を見つめたまま、優しく微笑んでいる。


「耳も……しっぽも、すごくきれい。」


レオンは思わず笑う。


「リシアらしいな。」


アイラも口元を緩めた。


「怖がるどころか、見とれてるもの。」


リシアは少し照れながら頷く。


「昔から狐が大好きなの。」


その言葉を聞いた白狐は、不思議そうに首をかしげた。




やがて白狐は静かに立ち上がる。


ゆっくりと歩き出し、リシアの前で足を止めた。


誰も動かない。


白狐はしばらくリシアを見つめる。


そして、そっと鼻先を差し出した。


「……触っても、いいの?」


恐る恐る伸ばした手が、白い毛並みに触れる。


ふわり。


雪のように柔らかく、ひんやりとした感触だった。


「わぁ……。」


リシアの表情が、子どものように輝く。


白狐は嫌がる様子もなく、静かに目を閉じた。


その穏やかな姿を見て、灰鷹の面々から自然と緊張が解けていく。


ベスは小さく笑った。


「どうやら……気に入られたみたいだな。」




白狐はゆっくりと身を離す。


そしてベスへ視線を向けた。


黄金の瞳には、確かな意思が宿っている。


次の瞬間。


澄んだ女性の声が、一行の心へ静かに響いた。


「ようこそ、継承者。」


誰も口を開いていない。


それでも、確かに聞こえた。


ベスは驚きながら周囲を見渡す。


「今の声は……。」


ガルドは静かに頷く。


「あの白狐だ。」


白狐は穏やかな眼差しを向けたまま、静かに語りかける。


「私は、この北の封印を守る者。」


「あなたたちを待っていました。」


その声には威圧も冷たさもない。


長い年月を見守り続けてきた者だけが持つ、優しさと気高さがあった。


白狐はゆっくりと踵を返す。


「ついて来なさい。」


「神殿は、もうすぐです。」


白銀の尾が風に揺れる。


灰鷹は顔を見合わせ、小さく頷いた。


そして北の守護者の後を追い、雪山の奥へと歩き始める。
























その先には、第二の封印が眠る――星詠みの神殿が待っていた。

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