表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
104/424

アルマク



翌朝。


灰鷹は港町を後にし、星詠みの神殿があると伝えられる北東の山脈へ向かっていた。


雪は膝まで積もり、吐く息は白い。


吹きつける風は容赦なく体温を奪っていく。


「くそっ……。」


レオンが肩をすくめる。


「剣を振るより、この寒さの方が厄介だ。」


リシアは苦笑した。


「だから皆さん、防寒具を何枚も重ねていたんですね。」


アイラは雪原へ視線を落とす。


「この大地では、寒さそのものが命を奪う。」


「蒼嵐とは、戦い方まで変えなければならないわ。」


ガルドは歩みを止めない。


「気を抜くな。」


「この静けさは、安心できる静けさじゃない。」




昼過ぎ。


街道を外れ、山道へ入った頃だった。


雪の上に巨大な足跡が残っている。


一つだけではない。


何頭分もある。


しかも、人の胴ほどもある大きさだった。


レオンがしゃがみ込む。


「……でかいな。」


ガルドも足跡を見つめる。


「熊だ。」


「それも普通の熊じゃない。」


ベスは周囲を見渡す。


森は静まり返っている。


鳥の鳴き声すら聞こえない。


その静けさが、かえって不気味だった。




その時。


ドォン――


遠くで何かが倒れる音が響く。


全員が一斉に武器へ手を掛けた。


ズシン……


ズシン……


重い足音が近づいてくる。


雪をかき分け、姿を現したのは巨大な熊の魔物だった。


白銀の体毛。


岩のように盛り上がった筋肉。


黒曜石のような鋭い爪。


その巨体は、ガルドの倍近くもある。


「来るぞ!」


レオンが大剣を構える。


熊は咆哮を上げることなく、一気に距離を詰めた。


その速度は巨体からは想像できないほど速い。


ガルドが剣で受け止める。


ギィンッ!!


重い衝撃が山へ響く。


「力が強い!」


ガルドが踏ん張る。


ベスは横へ回り込み、剣を振るう。


しかし。


ガキンッ!


刃は厚い毛皮へ弾かれた。


「硬い!」


アイラの矢も毛皮を浅く裂くだけ。


熊は腕を振り上げる。


巨大な一撃が雪原をえぐり、大量の雪が舞い上がった。


「散れ!」


ガルドの声で全員が飛び退く。


息を整えながら熊を見据える。


蒼嵐の魔物とは違う。


この大地で生き抜くために進化した怪物だった。




その時だった。


ヒュウ……


冷たい風が山頂から吹き下ろす。


熊の動きが止まった。


鼻先を上げ、何かの匂いを嗅ぐ。


次の瞬間。


巨熊は低く唸ると、一歩、また一歩と後ずさる。


そして踵を返し、雪煙を上げながら森の奥へ走り去っていった。


「逃げた……?」


レオンが目を丸くする。


ガルドは剣を下ろさない。


「違う。」


「何かを恐れた。」


全員が周囲を見回す。


しかし、そこには誰もいない。


静寂だけが雪山を包んでいた。




山の尾根。


一本の老木の上。


白銀の毛並みを持つ巨大な狐が、静かに灰鷹を見下ろしていた。


尾は一本。


その金色の瞳は、戦いではなく、旅人たちの心を見極めるように細められている。


やがて白狐は風とともに姿を消した。


誰一人、その存在に気付くことはなかった。


灰鷹の知らぬところで。






















北の守護者は、静かに継承者を見定め始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ