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バル  作者: 隣の猫
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カンパヌラ



忘却の渓谷に、静かな朝が訪れていた。


霧はゆっくりと晴れ、柔らかな陽光が木々の隙間から差し込む。


試練を終えたベスは岩にもたれ、静かに息を整えていた。


少し離れた場所では、巨大な魔狼が灰鷹を見守るように腰を下ろしている。


ガルドはゆっくりと魔狼の前へ歩み出た。


「……試練は終わった。」


「知る資格は得た。」


「話せ。」


魔狼は静かに目を閉じ、小さく頷いた。


「……よかろう。」




「遥か神代。」


「世界の外より”虚無”が現れた。」


「虚無は命を喰らい、大地を蝕み、世界そのものを終わらせようとした。」


誰も口を挟まない。


「神々は虚無を滅ぼすことはできなかった。」


「ゆえに、その力を四つへ分かち、それぞれ異なる大陸へ封印した。」


アイラが息をのむ。


「四つの……封印。」


「そうだ。」


「そして、それぞれの封印には神代より使命を託された守護一族が存在する。」


魔狼は静かに続けた。


「我ら魔狼一族は、この忘却の渓谷の封印を守る者。」


「北には北の守護一族。」


「西には西の守護一族。」


「東には東の守護一族。」


「それぞれが、神代より封印を守り続けてきた。」




ベスは静かに口を開く。


「一つ、聞いてもいいか。」


「何だ。」


「あなたたちは……フェンリルと同じ存在なのか。」


魔狼はゆっくりと首を横へ振る。


「違う。」


「我らは魔狼一族。」


「神代より封印を守る使命を託された守護一族だ。」


「フェンリルは我らとは根源から異なる。」


「神より古き時代を生きた、世界でただ一柱の始祖。」


「我らは眷属でも血族でもない。」


「ただ、その意思を継ぐ継承者を見極める使命を受け継いできた。」


ベスは左腕の獣爪へ静かに視線を落とす。


セグの最後の言葉が胸によみがえった。


『その力に、お前自身の意味を与えろ。』


フェンリルとは、それほどまでに特別な存在だった。




レオンが腕を組む。


「だったら、どうして俺たちを試した。」


魔狼は静かに北を見つめる。


「北の封印に異変が起きた。」


その一言で空気が張り詰める。


「北を守る守護一族は、今なお封印を守るため戦っている。」


「しかし、その力だけでは支えきれなかった。」


「封印は……。」


魔狼はゆっくりと言葉を続ける。


「半ばまで解かれている。」


誰も声を出せなかった。


リシアは胸元で手を重ねる。


「そんな……。」


アイラは地図を握る手に力を込めた。


ガルドだけが静かに問いかける。


「それが、この渓谷とどう繋がる。」


「封印は互いに呼応する。」


「北の封印が揺らいだ時、この地の封印も共鳴した。」


「そして我らは悟った。」


「継承者を探さねばならぬ時代が来たことを。」


「だから、お前を試した。」




ベスは白銀の剣を見つめる。


「……俺には、まだ分からない。」


「継承者なんて呼ばれる資格が、本当にあるのか。」


魔狼は静かに頷いた。


「迷う者ほど前へ進める。」


「己を疑わぬ者は驕る。」


「だが、問い続ける者は歩みを止めぬ。」


「答えは旅の果てで、お前自身が見つけるものだ。」


ベスは小さく頷く。


「……分かった。」


その瞳には迷いがあった。


だが、もう復讐だけを見つめる少年ではなかった。




ガルドが最後に尋ねる。


「北の封印は、どこにある。」


魔狼は迷うことなく答える。


「海の彼方。」


「氷霧大陸。」


「《星詠みの神殿》の地下。」


「そこで北の守護一族は今も戦っている。」


静かな風が渓谷を吹き抜けた。


魔狼はベスを真っ直ぐ見つめる。


「継承者よ。」


「急げ。」


「半ばまで解かれた封印は、永くは保たぬ。」


「北の守護一族だけでは、もはや限界だ。」


ベスは白銀の剣の柄を強く握る。


「必ず行く。」


その一言に迷いはなかった。


忘却の渓谷で終わったのは試練だけ。
























世界を巡る、本当の旅が今、始まろうとしていた。

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