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死に戻ったお飾り王妃は、愛を知らない成り上がり国王の最愛になる【全年齢(R15)版】  作者: 針沢ハリー
死に戻った王妃と陰謀の正体

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25.断罪と反撃



 大きな音とともに破壊された扉からは、マウリとエンシオを先頭に、兵士たちが雪崩れ込んできた。

 そして、カンナス伯爵やユリウスの方へ向かって行く。


 その中には剣を下げて険しい顔をしたアルベルトもいた。


 マリアーナはアルベルトがこちらに頷いたのを見て、本物の助けが来たのだと確信した。


 しかし、気は抜けなかった。部屋中で剣と剣がぶつかり合っている。


 そして、アルベルトを裏切っているアークラとブラントがこちらに駆け寄って来ていた。



 マリアーナは、しゃがみ込みながら足首から小刀を取り出した。

 家族を守るために最後まで戦うつもりだった。後ろからは、母や妹の悲鳴が聞こえてきていた。


 マリアーナは素早く、目の前にやってきたブラントを刺そうとした。でも届かなかった。

 長剣での反撃に備えて床に転がろうとした時、彼が素っ頓狂な声を出した。


「わっと! 俺たち味方味方!」


「え?」


 ブラントの言葉通り、アークラと彼はマリアーナと家族の前に陣取り、カンナス将軍の部下たちが襲いかかって来るのを防いでいた。


 伯爵の部下たちは憎々しげに、二人に向かって「お前たち、裏切っていたのか!」と声を上げた。


「私たちはアルベルトだけを信じてきた。裏切ったりはしない!」


「やっとあの爺さんに、自惚れるなと言ってやれるよ!」


「黙れ! 小僧ども!」


 剣を交えながら怒鳴り合っているその声を聞いて、マリアーナは身を固くした。


 今の状況が恐ろしかったからではない。

 伯爵の部下の声を聞いて、彼らがあの記憶の中の暗殺者たちだと気づいたのだ。

 あれはアルベルトの部下ではなくて、伯爵の部下だった。あの時マリアーナの命を奪ったのは伯爵に命じられた人間だった。


 そして今の状況を見る限り、これはずっと前から計画されていたに違いなかった。

 ブラントやアークラがユリウス王子や伯爵の信頼を得ていたくらいだから。

 


 マリアーナは自ら剣を振るって敵を倒しているアルベルトを視線で追った。

 これは全てアルベルトが作り出した状況なのかと納得し、心底ほっとした。

 アークラとブラントが裏切ったのでなくてよかった。彼が傷ついただろうから。


 その時、後ろから戸惑った母の声が聞こえた。


「マリアーナ、これは、いったい……」


「本当の味方が分かりました。カンナス伯爵の部下はこちらに襲い掛かり、それを防いでくれているのがアルベルトの……私の夫の部下です」


「でも、ベランク王国が助けに来たと……」


「先ほどお聞きになったでしょう? ユリウス王子はこの国をベランク王国のものにするために来たのです。本当に助けてくれると思いますか?」


 マリアーナは冷静に言った。

 その目の端で、こちらもアルベルトに協力しただけだったらしい司書のルスコが家具の陰でしゃがみ込んでいるのを見つけられたくらいには冷静だった。


 でも、母は大きく首を振って「でも、このままでは、またあの牢に閉じ込められるのよ! 嫌よ! もう耐えられないわ!」と泣き叫んでいる。


「落ち着きなさい……!」


 父が母の肩をつかんでそう言ったものの、母は泣きながら床に座り込んでしまった。妹もその横で母に寄りかかりながら泣いている。

 弟のガブリエルは下を向きながら泣くのを我慢しているようだった。マリアーナはその弟を引き寄せた。

 

「大丈夫よ。大丈夫にしてみせるわ。すぐではないかもしれないけれど、私は諦めないから」


「姉上……」


 マリアーナはガブリエルに精一杯笑いかけた。


 戦いは終わりに近づいていた。



 ◆



 やがて、立っているのはアルベルトが連れて来た兵士たちだけになり、ユリウス王子も伯爵も床に押さえつけられていた。


 マリアーナとその家族は、アークラとブラントに守られたまま、何の手出しもされずに済んだ。目の前には絶命したらしき伯爵の部下たちが倒れている。


 部屋の向こう側では、アルベルトたちがカンナス伯爵とユリウス王子に罪状を告げているようだった。


義父上(ちちうえ)、旧王家の人々を牢から出しましたね。これは禁を破る行為です。相応の罰は覚悟していただきますよ」


「アルベルト! 貴様、恩を忘れたか!」


「感謝していますよ? だから特別に扱って差し上げていた。しかし、あなたがこの行動を起こしたのは話が別だ。何もしなければ、こうはならなかった」


「お前が私の計画通りに動かなかったからだ! なぜその女をベランクへ引き渡さなかった!? 私はベランクの公爵になれるはずだったのに!」


 アルベルトのせいで野望を潰されたのだと叫ぶ伯爵を、アルベルトは鼻で笑った。

 その顔は酷薄としか表現ができなかった。かつて、あの恐ろしい記憶の中ではマリアーナにも向けられた表情だった。


「そりゃ、あんたの野望が小さかったのが悪い。いくら大国とはいえ、その臣下になるので、何で満足したんだ? たいしたことはできなくても、国王にくらいはなれただろう。俺にやらせたことを自分でやれば」


 カンナス伯爵は、目を大きく見開いて、わなわなと口元を震わせていた。

 それを見ていたアルベルトが、やがて言った。


「ああ……。あんたは自分を信じられなかったのか。国を治める資質がないと知っていたんだな。だからわざわざ身代わりを用意して、自分は美味い汁だけを吸おうとした。ベランクが俺を殺せと言ってきたら、簡単に殺せるとも思っていたんだろう」


 伯爵はこの数十秒の間に、何十歳も歳をとったかのようだった。

 アルベルトはしゃがみ込み、そんな伯爵の髪をつかんで上を向かせると、冷たい声で言った。


「俺ではなく、傲慢なくせに無能だった自分を憎め」


 アルベルトが髪をつかんでいた手を広げると、伯爵は床に頭を打ち付けて唸った。

 アルベルトはそんな伯爵にはもう見向きもしなかった。そして、ユリウス王子に向き直る。


「さて、お客人は何をしておいでかな?」


「わ、私はベランクの王子だぞ。手出しをすれば、ベランクがこの国など簡単に握りつぶすだろう!」


 ユリウス王子は笑顔なのに必死にしか見えない顔で叫んだ。

 それに対して、アルベルトはあごをさすりながら彼を見下ろしていた。


「さて、ベランクは本当にあんたのために兵を出したりするかな? エイノール王国を奪う計画を完遂できなかったら、あんたは王位継承権者から除外されてしまうんじゃないか?」


「ち、違う! 父上は私を見捨てはしない! たった一人の息子だ! 私がここにきたのは、あの男、ブラントに騙されたからだ! 私の味方だなどと甘言を(ろう)して、私をおびき寄せた!」


「だから、それが俺の指示だとなぜ考えない? そんなに簡単に他人を信用するような息子だから、ベランク王に見捨てられるのではないかと聞いているんだよ、王子様」


「うるさい!! お前が全てを台無しにしたくせに!」


 アルベルトは呆れたように、無言で彼を見やっていた。何も言う気にならないのだろう。



 マリアーナは危険はないかアークラに確認してからアルベルトに歩み寄った。

 そして、先ほどユリウス王子から握らされた小瓶をアルベルトに渡した。


「もう罪状は充分にお揃いかもしれませんけれど、その方はあなたの毒殺未遂犯でもあります」


 アルベルトは頷くと、それをエンシオに渡した。そして、こちらを向くと少しだけ気まずそうに言う。


「無事だったな」


「あなたはこうなると知っていらしたのね……」


「もちろん。ずっと前から、この日のために準備をしてきたからな」


 彼はずっと目線を少しこちらの視線から外していた。その様子が少し面白かった。

 マリアーナは自惚れていない。信用されてないことも知っていた。自分も彼に対してそうだったから。


「私に言わなかったのを気にしておいでなの?」


「…………恐ろしい思いをさせた」


「ええ。怖かったわ。抱きしめてくださる?」


 彼は驚いた顔でマリアーナを見ると、次の瞬間には口づけと共に、抱きしめられていた。

 マリアーナは、周りにいるマウリたちが、からかうように笑うのはどうでもよかった。アルベルトとまたこうして抱きしめ合えている事実に、目の辺りが熱くなってしまう。


 でも、両親の前でもあるので、唇はすぐに離した。

 体も少し離すべきだと思うのに、彼は片手で抱いたマリアーナを放してくれない。距離を置こうと思っても、また引き寄せられてしまう。

 仕方がないので、そのままの姿でいるしかなかった。



 マリアーナが気恥ずかしさに家族の方は向けず、ユリウス王子やカンナス伯爵を見ていた時だった。


 伯爵の部下が一人、大きく暴れて、その男を押さえつけていた兵士を体当たりで倒した。

 そして、それに呼応するように、カンナス伯爵が隠し持っていた刃の先端部分のようなもので自分を縛っていた縄を切り、近くの兵士から剣を奪ってこちらに向かってきた。


 一瞬の出来事だった。


 しかし、伯爵はアルベルトの剣の一振りで剣を弾かれ、それを取り落とす。そこに兵士が殺到して伯爵を押さえつけた。


 驚いて固まっていたマリアーナがアルベルトのマントの端を握りしめた瞬間、マウリの「アルベルト!」という悲鳴にも似た叫び声が上がる。


 マリアーナには、アルベルトの体の反対側で起こったことは見えなかった。

 でも、マリアーナを抱いていた彼の手から力が抜け、アルベルトはその場に膝をつく。


「あ……。いや……」


 マリアーナはそれしか声に出せずに、アルベルトに覆い被さるようにする。


 彼の向こうで、伯爵が持っていたのと同じような刃物を持った伯爵の部下が取り押さえられている。その男は醜い笑顔を浮かべていた。

 そのさらに向こうでは、一番始めに暴れ出した男も押さえつけられながら笑っていた。


「アルベルト……!」


 マリアーナは脇腹を押さえながら床にうずくまるアルベルトを見ながら何もできなかった。

 ただ、駆け寄ってきたエンシオたちがアルベルトの様子を確認しようとしているのを、床にしゃがみ込んだまま見つめていた。



つづく……

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