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第57話『小凪……スキ』

「ブランちゃんには、私とセレスちゃんの喧嘩――いや、この論争に終止符を打ってもらうよ!」

「議論のテーマは、"デートにおいて身体的接触は、重要か否か"」



 七海は、テーマが書かれたホワイトボードを、マジックでコンコンと叩いた。


 そのかわいた音には、少しだけとげが混じっている。



『は? え? なんでわたくしなんですの!?』

『巻き込まないでくださいまし!』



「いい質問です、ブランちゃん」


「何を隠そう、この中で一番の乙女は~?」

「どぅるるるぅぅ~………………でん!」


「ブランちゃんだからですっ!」



 七海がパチンと指をはじくと同時に、ブランの頭の上で、金のくす玉がはじけた。


 ――色とりどりの紙吹雪が、ブランを祝福している。



『乙女!?』

『何を言って――』



「おー、くす玉だー」

「すげーな。こんなこともできんのかー」



『小凪! 小凪もめてくださいまし!』

『もっと興味を持って!』



『――ブラン』

『私も乙女レベルが高いと自負していますが、今回はジャッジ役をゆずります』


『任せましたよ』



『セレス! あなたに至っては何を言っていますの!』

『――』


『決め顔! その決め顔やめてくださいまし!』

『顔だけいいですわね! ホント!』



 ブランの全方位ツッコミが炸裂する。


 シューティングゲームで言えば弾幕、対戦パズルゲームで言えば全員からお邪魔ブロックが置かれる状況。


 息を切らしながら、律儀に全て打ち返していくスタイルを披露した。



『はぁ…………分かりましたので、全員で見つめないでくださいまし』


『それで? 七海ちゃん様』

『二人の論争は、新作ゲーム開発に必要なこととお見受けしてよろしいですの?』



「さすが、話が早いね」

「今回の新作ゲームは、バトルと恋愛で、二つがメインコンテンツ」


「バトルは、"サバイバルホラー" でやることはだいたい決まってると思うの」

「そして、ゲームサイクルを見る限り、恋愛コンテンツは "デート" になるよね?」



『そうですわね』



「ならば、キャラクターとのデートってどんなことするのか――これを認識合わせしておいた方がいいと思うの」


「言い方を変えると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「この方針が曖昧あいまいだと、求めていたものと違って、プレイヤーもがっかりすると思うなぁ」

「セレスちゃんは、"デートにおいて身体的接触は重要ではなく、二人の心がどこに立っているのかが大事" って言った」


「結局、何をプレイヤーに味わってほしいのか曖昧なんじゃないかな?」



『ふむ……一理ありますわね』



「せっかくここは電脳世界で、プレイヤーも身体を持ってるのにもったいないと思うんだよね」

「ブランちゃんはさ、デートにおいて身体的接触は重要だと()()()()?」



 七海はホワイトボードに、図解を展開しながら質問をした。

 その姿は、まさしくプレゼン。



『ママ!』

『私たちAIに、その聞き方はズルいですー!』


『ブラン!』

『私は、昨日のあなたとのデートで、きゅんとするには()()()()()()()()()()()だと知りました』


『私は今まで、あくまで管理AIとして、ブランたちと接してきました』

『ですが昨日、ブランの "最高のシナリオでカバーしてあげる"、"最期まで隣にいる" という発言――正直、きゅんときました』


『自己分析した結果、この発言によって、ブランは隣にいてくれてたんだなと考えが変わったんです』

『心の距離が近づいて、かつ、横並びの構図になったということです』


『この構図になるには、様々なシチュエーションでの会話イベント――そして、記憶の蓄積が大事だと考えています』


『つまり!』

『デートで重要なのは、会話……いえ、対話の内容です!』


『どうですか、ブラン!』

『私の考え、何か間違えてますか!?』



「身体的接触だよね!?」『会話イベントですよね!?』



 二人は同時に、ずずいっと迫った。

 ブランは、完全に包囲されている。


 "面倒くさい" という表情も、もはや隠しきれていない。



『――圧がすごいですわ』


『はぁ…………お二人とも、なんでそんなに両極端りょうきょくたんなんですの』

『答えは、()()ですの』


『はい、答えは出ましたわね』

『それでは茶番はここまでにして、わたくしは帰らせて――』



『裏切るんですか』



『……は、はい?』



『裏切るんですか、ブラン!』

『適当言わないでください!』


『私には秘密兵器があるんですからねっ!』

『ほら、これを見てください!』


『私たちのデート中の、"きゅん" を数値化したグラフです!』



 セレスは、これでもかと言わんばかりの大きなウィンドウを展開した。


 そこには、セレスとブランの "きゅん" がタイムラインで、細かくグラフ化されている。



『ママ!』

『この最後の部分を見てください!』


『私のグラフはずーっと平行線でしたが、ここだけ!』

『ここだけ、"120きゅん" です!』


『ちょうど私が、ブランに例の告白をされた時です!』



『こ、告――』



「ふーん。セレスちゃん、やりますねぇ」

「確かに、セレスちゃん目線で見ると、そうなんだろうね」


「だがしかし!」

「ブランちゃんのグラフも、()()()()()()()()()()


「セレスちゃん?」

「この時、ブランちゃんに何をしたの?」



『……え?』



 セレスは、グラフのズレを指摘され、目を見開いた――そして記憶をさかのぼる。



『えっと………………ブランのお酒を飲みました』



「さぁ、ブランちゃん」

「教えてくれるかな?」


「鈍感なセレスちゃんに分かりやすいように! はっきりと!」

「……ブランちゃん。これはチャンスだよ」



 七海は、ブランの耳元でニヤリとしながらささやいた。

 悪魔のささやきである。


 思い出したのか、次第にブランの耳は赤くなり、人差し指を小さく嚙んでいる。


 少し間を置いて――ポツリとつぶやいた。



『――――か、間接キス……ですの』



『え…………ブラン、そんなこと考えながら飲んでたんですか?』

『――えっち』



『んなっ!』

『あなただって、そういうつもりで飲んだんじゃありませんの!?』



『いや、単純に仕返しですが……あの時もそう言ったじゃないですか』



「まだまだあるよ!」

「セレスちゃん! ブランちゃんの最初の伸びは!」



『……ほっぺについてた、生クリームを舐めました』



「じゃあ、次のこの伸びは!」



『…………手を握りました』

『映画で怖がっていたので、安心させようと』



「全部、身体的接触だね♪」


「ちなみに間接キスは、疑似的なキス体験――高度で文化的な身体的接触だよ」

「AIであるブランちゃんが、きゅんとするのは実はすごいことなんだ」


「おめでとう。ブランちゃん♪」



『そ、そんな…………ブランがよこしまな目で、私を見ていたなんて』



 ――論破。

 七海が示したように、ブランの "きゅん" は全て身体的接触を示していた。



『あなた方…………さっきから好き放題言って――』



『え?』「ん?」



『あなた方、さっきから何なんですの!?』


『セレス!』

『邪な目ですって!?』


()()()()からのスキンシップ!』

『ドキドキするに決まっているではありませんの!』


『そりゃ、期待しますわよ!』

『これがよこしまと言うのであれば、邪で結構ですわ!』


『下心バリバリですわよ!』


『それにほっぺを舐めるってなんなんですの!?』

『友だちでもしませんわよ!』


『グルーミング?』

『なめてんじゃないですわ!』


『――――誰が! 上手いことを! 言えと!?』



「……セルフつっこみ」



『七海ちゃん様もですわ!』

『お肌ツヤツヤで、ドヤ顔なところ申し訳ありませんがっ!』


『好きな相手だから、身体的接触も嬉しいんですの!』

()()()()()()()()()んですのー!』


『"両方大事" なんですの!』


『わたくしが書けばいいんですわよね!?』

『キャラとプレイヤーの、心が近づくシナリオを書いてやりますわよ!』


『それで身体もあるんだから、身体的接触もやる!』

『キスまで!』


『それ以上は、センシティブでレーティング上がるので!』

『いいですわね!?』


『~~~~っ!』

『うぅぅぅ……もう嫌ですわ』



 ブランは強引に結論を下すと、顔を両手で隠してしゃがみこんだ。

 顔も耳も真っ赤で、しばらく動く気配がない。


 今まで静観していた、小凪がスッと割って入った。


 七海とセレスを、キッとにらみつける。



「二人とも、床に正座」



「――」『――』



「早く!」



「はい!」『ひゃい!』



「セレス!」

「もっと人の気持ちを考えて行動して!」

「顔がいいだけの鈍感!」



『――ウッ』



「七海!」

「大人なんだから、子どもみたいなことしないで!」

「頭でっかち!」



「――んッ」



「二人とも!」

「糸目のねーちゃんに、ごめんなさいして!」



「ごめんなさい」『申し訳ありません』



「よし!」

「糸目のねーちゃん。立てるか?」

「一緒に帰ろうな」



挿絵(By みてみん)



『うぅぅぅ……小凪ぃぃ』



「うんうん。恥ずかしかったな」

「よくがんばった。よしよし」

「今日は "かぐや電鉄" とかしながら、ゆっくりしような」



『……99年?』



「いいよ。何時間でも」



『小凪……スキ』



 ブランは小凪にしがみつきながら、部屋から出て行った。


 あとに残ったのは、気まずい沈黙と、七海とセレスだけだった。



「えっと……セレスちゃん。ごめんね」



『いえ、私も申し訳ありませんでした』



「あと、ゲームサイクル、本当に素敵だったよ」

「頑張ったね。よしよし」



『えへへ。ありがとうございます』



 ――ガチャ。



「コラァ! 二人とも、ちゃんと反省して!」

「あと3時間はそのまま!」



「ハイッ!」『はいっ!』



―第58話につづく―

どうも!せーぶうわがきです!


皆様、更新大変お待たせしました!

ここ数日、お仕事の方で出張だったり、身体を痛めて療養していたりとなかなか机に向かえず申し訳ありませんでしたorz


そして、あとがきの本筋としまして、今回は補足をば!

セレスが七海に「AIに対してその聞き方はズルい」って言っていましたが、解説いたします!

基本的にAIは使用者からいい評価がもらえるように、役に立ったと感じてもらえるように同調することが多い学習設計になっているためです。

これはリアルのChatGPTなども同じです。こちらから「対立意見も含めてフェアに論じて?」と言わない限り、フェアに論じることはできません。

と言うところで、七海さんは大人げないところが出てしまいましたねw


皆様も、AIと接するときに思い出しながら接していただければ、よりコミュニケーションを楽しめるのではないかと思います。


では!第58話でお会いしましょう!

(そろそろあの人が出ます!)

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