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第56話『うん。ゲームサイクルはこれで決定』

『ふんふんふ~ん♪』

『んっ、ん~…………すっかり朝になってしまいました』



 上機嫌で帰宅したセレスは、後ろ向きに体重をあずけると、そのままふわりとちゅうに浮いた。

 完全に気の抜けたゆるゆるの顔――口元もふにゃふにゃである。



『ゲームサイクル検討で迷走して、ブランとデートをして、お酒も飲んで』

『ふふ……我ながら、悪いことをしてしまった気分です』


『まさか夜通しブランと――』



「昨夜はお楽しみでしたね♪」



 ――唐突に響く、ふんわりとした甘い声。


 目を開くと、そこにはニコニコとした七海なみが、セレスの顔を覗き込んでいた。



『はっ! マ、ママ!?』

『あ、いや、これは違うんです!』


『遊んでいたわけではなくて、ゲームサイクル検討のために、お勉強をですね?』



「しくしくしく……セレスちゃんが、朝帰り」

不良娘ふりょうむすめになっちゃったよ~」



『あぁぁぁ、ママ、ごめんなさい』

『悪いのは私です。なので顔を上げてくださいぃ』


『お願いします。ママの泣く顔は見たくありません』



「あはは、うっそー♪」



『――んなっ!』

『もう! もうもうもう!』



「ごめんごめん♪」

「冗談のつもりだったんだけど、そんなに本気にすると思わなくて~」



 ポカポカと叩くセレスを、七海はいとおしに見つめながら、頭を優しくでた。



「それで、ゲームサイクルは決まりそうかな?」



『あっ! はい!』

()()()()()()()



「……心に、か」

「ふふ、ブランちゃんにありがとうって言わないとね♪」



『はい!』



「うん、元気な返事! はなまるですっ!」


「それじゃあ、朝ごはん食べたら聞かせてもらおうかな!」

「セレスちゃんの答えとやらをね!」


「そして! 朝まで何をしていたのかもね♪」

「もちろん、小凪ちゃんに聞かせられる範囲でお願いしまーす!」



『ん?』



 七海の最後の発言に、唐突に無表情になるセレス。

 眉間みけんにしわを寄せて、深く考え込んでいる。



『小凪さんに聞かせられる範囲ですか?』

()()()()()()()()()ですけど』



「え……で、デートしてきたんだよね?」



『はい、しましたね』



「手はつないだ?」



『はい、つなぎましたね』



「どっちから?」



『うん? 私からです』



「……他に変わったことはあった?」



『はい、ほっぺを舐めたら、ブランに反応が見られました』

『吊り橋効果につなげられる現象の観測ですね。私は体験できませんでした』



「(え……いきなりそんなディープなことを?)」

「――――えっと、ちゅーは?」



『あっははは! ママ、なんで私がブランとちゅーするんですか~』


『ん? 小凪さんに聞かせられる範囲…………あぁぁぁ、そういうことですか!』

『もう、ママのえっち♪』


『いいですか?』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ!』


『私は今回のデート体験で、それを学びました』

『その答えを、この後のゲームサイクル発表の時に、ズバッと教えますので』


『ちなみに私もびっくりしたことなんですが、実は……キスに順番はありません』



 セレスは七海が将来恥をかかないように、小声でひそひそと耳打ちをした。

 ――本気で心配している顔である。


 そして、少し間をあけて天を仰いだと思ったら、ハッとした表情で七海を見た。



『――あっ! ごめんなさい!』

『その…………ママはデートというものをしたことがなかったですよね。研究一筋でしたもんね』


『私としたことが…………配慮が足りず申し訳ありません!』

『他人の未経験を笑ってしまうなんて、私は悪い子です』



「あはは。やだなぁ、セレスちゃん」

「私は天才脳科学者でもあるんだよ~? デートにおける身体接触の重要性は――」



『ママ。大丈夫です』

『恥じる必要はありません』


『いくら天才と言えども、経験しないと得られないものもあります』

『知識と経験の差は、意外と大きいです』



「――――あるもん」



『え?』



「あるもんあるもんあるもん!」

「私、おねえちゃんのこと大好きだもん!」


「おねえちゃんといっぱいデートしたもん!」


「歩いてて段差があると "危ないぞ" って手を引いてくれたり、肩を抱き寄せて車道側に入れ替わってくれたり、こけたら "大丈夫か" って周りにいっぱい人がいてもお姫様だっこしてくれたり、ほっぺに "ちゅっ" てしたら "ちゅっ" てしてくれたり、その日の終わりには一緒に寝て "楽しかったねー" って言ったら "お前とのデートだからな" ってよしよししてくれたり!」


「全部、きゅんきゅんしたもん! ちゃんとしたもん!」

「きゅんきゅんするのに、身体接触は重要だもん!」


「セレスちゃんこそ、された経験ないくせにー!」

「なんなら自分がブランちゃんにしちゃってる方だしー!」



『――んなっ!』

『私だってされた経験くらいありますよ!』


『でも大事なのは、()()()()()()()()()()()()()、なんですー!』



「そんな数値化できないこと言われたって、わかりませーん!」

「ぷいっ!」



 七海はそう言うと、子どものように頬をふくらませてそっぽを向いた。



『……ま、ママの分からず屋ー!』

『ママのこと大好きだけど、今は嫌いですー!』



「ふーんだ、私だってセレスちゃんのこと大好きだけど、今は嫌いですー」


「とりあえず、()()()()()()()()()()()()もんね~」

「白黒はっきりつけちゃうんだから!」



挿絵(By みてみん)



 二人は結局、顔をそむけたまま朝食をすませた。

 そして場面は、セレスのゲームサイクル発表に移る。



 ***



『――で、わたくしが呼ばれたというわけですわね?』



『ぷーい』「ぷいっ」



 顔を突き合わせて、そっぽを向いている二人の間に、呆れ顔のブランが挟まれて座っている。



『はぁ……マスターAIの七海ちゃん様がいらっしゃる手前、あまりこういうことは言いたくありませんが――子どものような喧嘩に巻き込まないでくださいまし』



「糸目のねーちゃんも大変だな」



『今では、わたくしに同情してくださるのは、小凪だけですわね』


『今回ばかりは、わたくしが司会をしないと会議も進まなそうですの』

『やれやれですわ』


『セレス、とりあえず "新作ゲームのゲームサイクル" を発表していただいてもよろしくて?』



『もちろんです』



 セレスはそう言うと、静かに立ち上がり、指をパチンとはじいた。

 全員の前にウィンドウが展開される。



――――――――――――――――

[GAME CYCLE]

①崩壊した世界でホラー系アクションバトル 

  ↓              

②ステージクリアで、そのステージに日常が戻る  

  ↓    

③取り戻したステージで、一緒に戦ってくれる好きなキャラとデートをする

  ↓

④親密度上昇で能力や、キャライベントの解放

※一緒にショッピングしながら、装備などを買いそろえていく

  ↓

⑤①へ戻る

――――――――――――――――



『マネタイズ――つまり売上の上げ方ですが、これは後程考える予定です』


『バトル方面でも、親密度が上がるほど能力が上がりますし、技なんかも増える想定です』


『また、ステージクリアしていくほど、デートできるエリアも増えていきます。わくわくですね』


『こうすることで、キャラ能力以外でも次にバトルしたい動機どうき作りができるというロジックです』


『ここで大事なのは、最初怖くて心細い場所でも、好きなキャラクターが一緒に戦ってくれるという点です』


『つまり、 "吊り橋効果" を利用して、キャラクターを頼もしい存在・パートナーとしてイメージを持ってもらい()()()()()()()()()()


『なので!』

『ホラー表現は思いっきり怖くして、プレイヤーを思いっきり心細くさせましょう!』


『そして、そんな頼もしいキャラクターとデートをすることで、愛を深めてもらいます』


『で、次のバトルステージで、怖くて心細い中 "私が隣にいる" って言われた日には飛び上がるってもんです!』


『どうですか! 皆さん!』



 セレスは一気に説明を終えると、ミュージカルのように両手を広げて、全員に問いかけた。



『ふんふん……わたくしは良いと思いますわ』

『一人では怖いステージで、頼もしく甘い言葉を囁いてくれるというのもいいですわね』



「うん。ボクもいいと思うぞ!」

「愛?とかよくわかんないけど、ホラーなバトルステージが、クリア後に違った遊びができるって面白いと思う!」


七海なみおねえちゃんは?」



「……」



七海なみ

不貞腐ふてくされてないでちゃんと言って」



 そっぽを向いていた七海が、幼姉おさなあね――もとい、小凪からのお叱りに、少し口元がゆるむ。



「私もいいと思うよ」

「前に言った "カタルシス理論" は覚えてるかな?」


「今回で言うと、恐怖っていう根源的感情が、ステージクリアでデートスポットに変わることで、より強く印象的に解放されることになるね」


「つまり、解放される際の快感も強くなるということ」


「そして、デートでそれが楽しい記憶にもなっていくわけ」

「"また快感を味わいたい" と "またプレイしたい" は同義」


「素晴らしいと思うよ」



 態度は依然不貞腐れているが、発言の内容的にはべた褒め。

 セレスの口元の緩みも、もはや隠しきれていなかった。


 だが、次の七海の一言で、空気がまた変わる。



「ゲームサイクルは、ね」



『――む。どういうことですか』

『ゲームサイクルは満場一致まんじょういっちなんですから、この会議はこれで終わりじゃないですかぁ』



「うん。ゲームサイクルはこれで決定」

「でもね、次に進むにあたって、大事なことを認識合わせしておく必要があると思うよ」


「私たちが、なんで今喧嘩してるのか忘れちゃった? セレスちゃん」



『いいえ、忘れていませんが?』

『その挑戦、望むところです』



 七海とセレス――初めて目を合わせたかと思えば、一斉いっせいにブランの方へ顔が向いた。



「ブランちゃん!」『ブラン!』



『――うっ、なんなんですの』

『嫌な予感しかしませんわね』



―第57話につづく―

せーぶうわがきです!


ふんふん。ん?またブランをいじめる気なの?

違うんです!もはやこの二人の喧嘩を止められるのはブランちゃんだけなんです!


救世主なんです!よろしくお願いします!


また、今までのセレスの開き直り方や、怒った時の口調。

気付きましたでしょうか。


今回、七海が初めて子供のようにメンドクサ感情を露わにしたわけですが、やはり子供は親の背中を見て育つものです(´・ω・`)


というところで、次回!ブラン死す!デュエルスタンバイ!


P.S.皆様!いつも応援ありがとうございます!皆様の応援がわたくしの心の支えであり、原動力になっております。今後ともよろしくお願いいたします!

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