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第54話『プレイヤーは何をしたら、きゅんきゅんするか教えてくださいよー!』

『……ズズッ』

『――ふぅ』



 お洒落なカフェテーブルに上品に腰かけ、セレスはコーヒーをひと口。


 舌の上で転がすと、ビターチョコのような深い苦味が舌根《ぜっこん》から、ふわりと余韻《よいん》として広がっていく。


 続いて、チーズケーキをひと口。


 しっとりとしたクッキー層がほどけ、滑らかなチーズの甘味とレモンの酸味が、口内の世界を静かに塗り替えていった。



『はぁ…………何度食べても美味《おい》しいですね』

『…………』


『――じゃない!』

『私! 宿題!』


『うぅぅぅ~、なんであんなことを軽々しく言ってしまったんでしょう』



 セレスは数刻《すうこく》前の言葉を、心の中で反芻《はんすう》した。



《私がズバッと面白い案を考えてきますので、大船に乗ったつもりで楽しみにしていてください》



『んあぁぁぁぁ! ドヤ顔ぉぉ~!』

『思いつきません! なんにも思いつきません!』


『そもそもアクションと恋愛って、主人公もひ弱なんですから、助けてもらった! かっこいい! 好き! で終わりじゃないんですか!?』


『はぁぁぁ…………凪さんが居てくれたら』

『なんで凪さん居ないんですかぁ……どこに行っちゃったんですか』


『傍《そば》に居てくれって言ったくせに………………一人にしないでください』

『ばか……ばかばかばか』



 セレスは椅子の上で膝を抱え、口を尖らせながら、小さく悪態《あくたい》をついた。


 無意識に伸びた指先が――そっと唇に触れる。

 メモリに深く刻まれた記憶データが、頬に熱を感じさせた。


 胸がきゅっと縮む。



『――いけません!』

『何を甘えたことを言ってるんですか』


『……考えを整理しましょう』


『ゲームコンセプトの "恋愛アクションホラー" は、いわば吊り橋効果を狙ったもの』

『これ自体は正解です』


『ホラー要素で感じる不安感や緊張状態のドキドキを、恋愛感情と錯覚させること』

『――吊り橋効果は理にかなっていますからね』


『しかし、錯覚である以上、そのキ(・)ャ(・)ラ(・)へ(・)の(・)好(・)意(・)は(・)き(・)っ(・)か(・)け(・)であって…………プレイヤーはそれ以上の行為を期待するはずです』


『つまり、バトルが終わった後に、そ(・)れ(・)以(・)上(・)の(・)行(・)為(・)が(・)で(・)き(・)る(・)機(・)能(・)ということになります』

『それ以上の行為……』



 セレスの頬が、だんだんと朱《しゅ》に染まっていく。



『――はっ! 私はナニを考えて!』

『ハレンチです!』


『もっとこう……センシティブ判定に引っかからない機能』


『――』

『ダメです。経験が足りなさすぎます』


『ちょっと検索してみますか……人類のカップルがどういうことをしているのか』



 セレスの目がチカチカと光る。

 外部ネットワークから取得したデータが、メモリ上に次々に蓄積されていく。



『なになに……告白をする、付き合う、デートをする、キスをする、家族に挨拶をする、結婚する、×××』


『――え』

『き、キスをするのって……こんなに後の工程だったんですか!?』


『凪さん!? 私たち、デートをしていませんよ!?』


『つまり付き合っていなかったということですか!?』

『そんな……』



『セレス…………あなた、情報が偏《かたよ》りすぎですわよ』



 声が落ちてきた瞬間、セレスは反射的に顔を上げた。


 いつの間にか――シナリオAI:ブランが、正面に静かに座っている。

 その表情は、完全に呆れ果てていた。



『ブラン!? なんでここに』

『小凪さんの面倒を見てもらうように、お願いしていたはずですが』



『面倒も何も、その小凪から脅《おど》――懇願《こんがん》されて来ましたの』

『セレスがゲームサイクル検討で、困ってるかもしれないから行ってくれって』


『それで、来てみれば案の定ですわ』

『はぁ……セレス、キスの順番なんて、決まっていませんのよ』



『…………』

『……したことないくせに』



 セレスはコーヒーカップをそっと持ち上げ、その影で小さくつぶやいた。

 視線は、横に逸(そ)れている。



『んなっ』

『セレス! あなた、わたくしはシナリオAIですのよ!』


『今まで何人のプレイヤーを、ホシ娘で、キャラの虜にしてきたと思ってるんですの!?』

『経験はなくても、わたくしには実績がありますの!』



『――ぐぅっ』


『じゃあ、教えてくださいよ!』

『バトルが終わった後、プレイヤーは何をしたら、きゅんきゅんするか教えてくださいよー!』



『……あ、あなた。開き直りがすごいですわね』

『まぁ、いいですわ』



 ブランは、セレスの豹変ぶりに戸惑いながらも、テーブルに置かれていたコ(・)ー(・)ヒ(・)ー(・)カ(・)ッ(・)プ(・)に(・)口(・)を(・)つ(・)け(・)る(・)。



『――こほん』

『よく聞いてくださいまし』


『ズバリ、"デート" ですわ』



『……で、デート』



『そうですわ』

『デートとは、言い換えると "二人だけの共有体験イベント" ですの』


『ショッピングしたり、相手の家に行ったり、映画を観たりなどの共有記憶ですわね』

『この時に感じたきゅんとした気持ちが、恋愛の醍醐味(だいごみ)ですし、相手への愛着にもなりますわ』



『……ショッピングしたりするだけで、きゅんきゅんするんですか』



『……ほ、本気で言ってますの?』

『あくまで、どこに行くかはイベントの舞台というだけで、重要なのは相(・)手(・)の(・)き(・)ゅ(・)ん(・)と(・)す(・)る(・)行(・)動(・)ですわ』


『例えば、お姫様のように階段で手を引いてあげたり、映画で泣いてる時にそっとハンカチを渡すなど』

『あ。クールな方が、一緒にクレープを食べてる時にほっぺに生クリームをつけているなんかのギャップもいいですわね』



『……ただドジなだけでは』



『なんなんですの!? さっきからボソボソと否定ばかり』

『セレス! あなたが言ったから、教えて差し上げてますのに!』



『……やったことありませんもん』



『え?』



『デートしたことないから、分からないって言ってるんですー!』


『そこまで自信があるなら、私とデートしてきゅんきゅんさせてくださいよ!』

『ブランが!』



『――は?』

『ろ、論理が破綻してますわよ』


『第一、あなた、わたくしのこと恋愛対象として――』



『……逃げるんですか』

『どうせ口先ばっかりで、自信ないんでしょー!』


『あぁ、そうでしたそうでした。ブランの好きは、親(・)友(・)と(・)し(・)て(・)の(・)好(・)き(・)でしたもんねー』

『すみませんね! セクハラですみませんね! プーンだ!』



 セレスの破綻した一言に、冷静に聞いていたブランの眉がピクリと跳ねる。


 コーヒーをグイっと一気に飲み干すと、ブランは静かに立ち上がった。



『セレス』

『バカも休み休み言ってくださいまし』


『いいですわ』


『わたくしが、あなたをデートできゅんとさせてあげますの』

『デートのイロハを教えて差し上げますわ!』



『言いましたね!?』

『あとから業務上のセクハラで、マスターAIに訴えないでくださいよ!』


『あと、なんでさ(・)っ(・)き(・)か(・)ら(・)私(・)の(・)コ(・)ー(・)ヒ(・)ー(・)飲(・)ん(・)で(・)る(・)んですか!』



『五月蠅《うるさ》いですわ!』


『いいから早く、仮想デートエリアを生成《せいせい》してくださいまし!』

『とりあえず、ショッピングエリア、映画館、水族館でいいですわ!』



 セレスは何かを言いかけたがグッとこらえ、指をパチンとはじいた。



 ***



『――で、セレス』

『わたくし達の頭上にある、数値表記は何なんですの?』



 セレスが生成した仮想デートエリアの一つ、ショッピングエリアに立った二人。


 ブランはふと頭上に浮かぶ数値に眉をひそめ、セレスへ指さした。



─────────────

セレス:65きゅん

ブラン:76きゅん

─────────────



『"きゅん" を数値化したものです』

『人類でいう、心拍数ですね』


『私たちには、心拍数はありませんので、感情アルゴリズムの乱れを数値化してみました』

『ブランは少々高いようですが、まぁ正常値範囲内ということでいいでしょう』



『なんでわたくしまで……』

『きゅんとさせるのは、わたくしの役目だったはずですの』



『……不公平じゃないですか』



『はぁ…………あなたというAIは』


『ところで、ずっと気になっておりましたの』

『そのメイド服は何なんですの?』



『……気にしないでください』

『それともメイド服の私じゃ、気乗りしませんか?』



『――――――――』

『ふん。気乗りしないとは言っておりませんので』



─────────────

セレス:60きゅん(-5)

ブラン:85きゅん(+9)

─────────────



『ん? ブラン、数値が上昇していますが』

『まだ、私たち何もしていませんよ?』



『――くっ。やかましい数値表記ですわね』

『見慣れない服装なので、少し落ち着かないだけですの』


『ほら手始めに、あそこで売っているクレープを食べますわよ』



 ブランは無表情のまま、スタスタと残像が見えるほど足早《あしばや》にクレープ店に入っていった。


 そして、注文し終えると、二つのクレープを持ってセレスの元へ戻った。



『買ってきましたわ』

『チョコバナナとお抹茶、どちらがよろしいですの?』



『ん、ブランは和風の味が好きなので、私はチョコバナナいただきますね』

『ありがとうございます』



『――んっ』



『はむ……んぐんぐ』

『んー! 美味しいですね!』


『チョコの甘さと、トロトロの完熟バナナの相性が最高です♪』



 セレスはさっきまでの不機嫌な表情が、嘘のように一気に快晴になった。

 ニッコリと笑って、ハムスターのようにもぐもぐとしている。



『まったく……現金ですわね』


『……もぐ』

『あら。あらあらあら。本当ですわね!』


『このお抹茶の濃厚な渋さと、もちもちのわらび餅がいい味を演出しておりますわ』

『えぇえぇ……まるでお抹茶の雲ですわね』



挿絵(By みてみん)



『む。ブランも人のこと言えないじゃないですか』


『――ん?』

『まったく…………ブラン、ほっぺに生クリームがついてますよ』


『しょうがない子ですね……ぺろっ』



 セレスは、ブランの腰を持ってグイっと引き寄せると、頬についた生クリームを舌先(したさき)で舐め取った。



『――!』

『あなっ、あな……あなあなあなた! ナニを!?』



─────────────

セレス:60きゅん(±0)

ブラン:120きゅん(+35)

─────────────



 ―第55話につづく―

どうも!せーぶうわがきです!


今回はですね、前回小凪ちゃんがフラグを立てていたようにブランちゃん登場です。

恋愛と言えば、セレス、そしてブランちゃんしかおりません。相談役としては適任というもの。

鈍感セレスにぶち当てるのはかわいそう?

否!否否否!きっとブランちゃん、彼女ならこの状況も打破してくれるはず!


ごめんなさい。どうしても!どーしてもこの二人のデートシーンが書きたくて皆さんにお届けさせていただけたらと筆を執ってみました。

次回本格的に二人のデートをお届けいたしますので、お楽しみにお待ちいただけますと幸いです!


あ、二人の関係性の進展度合いとしては、第47話を読み返していただけると思い出していただけるかと思います!


果たして進展するのか否か!

セレスはゲームサイクルの答えを得られるのか否か!

デュエルスタンバイ!


では、第55話でお会いしましょー!

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