第48話『セレスちゃん……鼻血が止まりそうにありません』
七海の大きな声が、湯けむりとともに夜空にとけていく。
遠くで鳴き始める、虫の声。
柔らかく降りそそぎ始める、流れ星。
世界が彼女を癒すかのように、ただただ静かな時間が流れ始めた。
『――いやいやいや、演出!』
『演出まで作って、全力で癒されようとしないでください!』
「えへへ……ばれちゃったぁ~」
「新機能だよ~……ぷへぇ」
『もう。そんなに蕩けきって……』
『ママ、ちゃんと会議できるんですか?』
「できるよぉ~」
「いい? セレスちゃん」
「前に言ったと思うけど、私は科学者で脳科学は専門分野の一つなのね」
「効率よく "新作ゲームのジャンル決め" をするために温泉に入ってるんだよ」
『――はい。一応聞きましょう』
『続きを』
「お風呂に入ることで身体が温まり、ストレスが緩和されます。つまりα波が優位になっていてリラックス状態に入ります。リラックス状態に入ることで、フロー状態に入りやすくなります。フロー理論は、前におねえちゃんが説明してたね。そう。時間や場所を忘れるような深い集中状態のことです。これはゲームをしている時だけの現象じゃありません。ヒトはこの状態の時、創造的発想――いわゆるアイデア生成の能力が上がると研究にもあります。よって、創造的発想が重要になる今回の会議にはもってこいの状態となるわけです。疲れも回復できて、会議も捗る。超効率的な状態です。以上、証明終了」
※フロー理論=第4話参照
「あ、 "風呂" と "フロー" がかかってたね。あはは」
とろけ顔のまま、専門用語をスラスラ並べる七海。
その光景は、もはや "温泉セミナー" が開催されているかのようだった。
『またまた……最もらしいことを言って』
「ふふ。嘘だと思うなら調べてごらん」
「ふわぁ~」
『――』
『そんな……全部本当だなんて』
『う……姉である凪さんが小賢しい言い訳をするのは知っていましたが、ママは正論がくっ付いていて余計たちが悪いです』
『才能の無駄使いとは、まさにこのことです』
『はぁ……分かりました』
『ここで会議をしましょう』
「やたー!」
「小凪ちゃーん! お許しが出たから、泳ぐのやめてこっちにおいでー」
「うぇーい」
小凪はバシャバシャと泳ぎながら一直線。
七海の上にドカッと座り、湯しぶきがぱしゃんと弾けた。
「――!」
「お、おねえちゃんが! 一糸まとわぬおねえちゃんが!」
「密着……してるっ!」
「はぁはぁ……ウッ……ま、ママと思っていい、からね。えへ、えへへ」
「…………うん」
いつもなら拒否している小凪が、しおらしく返事をした。
七海の上から退く気配はない。
「――だrfだもうふぁwふぁsd!」
「セレスちゃん……鼻血が止まりそうにありません」
『止めてください』
『では、会議を始めます』
『まず、今出ている案を整理しましょうか』
「ズズッ……あ、セレスちゃん、ホワイトボード持ってきてるからそこに書いてってー」
『え、お湯から出るの寒いのですが』
「ごめんね……私、今……手いっぱい、胸いっぱいで動けなくて」
『はぁ……分かりました』
セレスは湯から出ると、タオルを巻きホワイトボードに書き始めた。
七海は依然鼻血を流しながら、にこやかにその光景を見ている。
「セレスちゃんセレスちゃん」
「タオル巻かなくてよくない?」
『コンテンツポリシーに抵触するのでー』
『センシティブ、ダメ、ゼッタイですー』
『……』
『はい! 書き終わりました!』
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【新作ゲームジャンル決め 案まとめ】
①小凪:RPG、格闘ゲーム
②セレス:恋愛ゲーム
③ヌル:ホラー
④エンプ:音ゲー
⑤ブラン:特になし
(クリエイターの顔が見えるゲーム)
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『うーん……書いてみたもののどうやって決めましょうか』
『マ……七海ちゃんはどれがいいと思います?』
「セレスちゃん。大事なことを忘れてるよ」
「ディレクターは、セレスちゃんだよ」
「なぁなぁ、ディレクターって聞いたことあるけど、結局どんな仕事なん?」
「小凪ちゃん、いい質問だね」
「セレスちゃん! 自覚が足りないようだから説明をよろしくね♪」
『うっ……すみません』
『ゲーム開発におけるディレクターとは、簡単に言うと "ゲームの方向性や仕組みを決める人" です』
『私が尊敬する人は……ゲームディレクターは "最後まで諦めない、諦めがとっても悪い人種" とも言ってましたね』
「ふーん」
「なんかさ……ヒーローみたいだな!」
小凪は、セレスが語るディレクター像に目を輝かせて反応した。
吸い込まれそうなその瞳に、セレスの胸の奥で何かが小さく鳴った。
『はい……ヒーローです♪』
「――ふふ」
「それじゃあ、ヒーローを目指すセレスちゃん♪」
「ゲームジャンル決めの続きをお願いしまーす」
『うぐっ……頑張ります』
『うーん、まずは可能性が低いものから除外していきましょうか』
『ワールド:中国はMMO』
『ワールド:アメリカはFPS』
『RPGは、MMOとセットのようなものなので除外しましょう』
『差別化優先で』
『格闘ゲームは、基本的にPvP』
『プレイヤーの実力の依存度が大きいので、ゲームに参入する敷居が高いです』
『課金で、その実力差を埋めてしまうと、不平不満につながりやすいので売上も上げにくいです』
『こちらも除外で』
※PvP=プレイヤー対プレイヤー
『音ゲーは、小凪さんも楽しめていたように、身体を使うタイプなら直感的なので集客性は良さそうですね』
『売上も、プレイヤーが着る衣装などを売ればある程度売れます』
『こちらは残しましょう』
『次にホラーですが――』
「ちょっと待ったー!」
「えっと……よろしくって言ったのに、お話の途中で割り込んでごめんね」
淡々と考えを繰り広げていくセレスに、七海は待ったをかけた。
『あ、ごめんなさい。何かマズかったですか?』
「いや、何か決めごとをするときに、消去法で答えを出すのは全然問題ないよ♪」
「でも、何か新しいモノを生み出そうとするときに、消去法は革新的な発想が生まれにくいの」
「だから、ポジティブなアプローチ法はどうかなって」
「……あと、小凪ちゃん、ポカンってしちゃってるし」
「セレスが何言ってるか……わ、わかってたしぃ」
『なる、ほど……突っ走ってしまってましたか』
『小凪さん、ごめんなさい』
『それで、ポジティブなアプローチ法というと……いいものから選んでいくということでしょうか』
「うーん、今回はちょっと違うかな!」
「ブランちゃんがなんて言ってたか、思い出してみて」
『"クリエイターの顔が見えるゲーム" が好き、ですか?』
「そう!」
「さっきも言ったように、ディレクターはセレスちゃん」
「つまり、今回のゲーム開発において、セレスちゃんの意思決定が強く反映されるよね」
「言い換えると、セレスちゃんの顔――好きが一番見えやすいんじゃないかな」
「ここをプレイヤーに感じさせるのって、とても大事なことだと思うの」
「セレスちゃんが一番尊敬する人は、どんな態度でゲーム開発してた?」
『……』
『えへ、えへへ』
『あ、ごめんなさい……ニヤニヤしながら、です』
『言いたいことは分かります』
『でも、私が好きなジャンルは恋愛ゲームです』
『恋愛は男女問わずのジャンルなので、プレイヤー数は集めることはできるかもしれません』
『ですが、売れるものが少ないので、運営型のゲームでは売上を上げづらいと考えています』
『今回の勝利条件は、プレイヤー数・売上ともに1位になることだったはずです』
「いや、うーん……まぁ、そうだよねぇ」
「セレスちゃんが言ってることも分かる!」
「でも、セレスちゃんの "好き" を入れながらの打開策があると思うんだよね」
「きっと、おねえちゃんなら――」
核心をつきながらも、理想を語る七海。
理想を理解しつつも、現実を語るセレス。
二人の議論は、妙案を出せないまま膠着状態に陥っていた。
――そんな二人の身体に、ちょんちょんと小さな手が触れる。
「なぁなぁ」
「1つに絞らないかんの?」
『え?』「ん?」
「いやだから、ヌルが好きって言ってた "ソウル・ハザード" は、ホラーとFPSだし」
「エンプが遊ばせてくれた "ビート ビート ダンス" も、音ゲーと運動だろ?」
「もう一回言うぞ?」
「ゲームジャンルって1つじゃないといかんの?」
―第49話につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
さてさて……え?今回でゲームジャンル決まると思ってた?
冒頭本筋以外で長すぎじゃね?
……(´・ω・`)
う、どうしても!どうしても七海ちゃんの学者としての変態シーンを書きたくてぇ。
才能の無駄遣いをしているところを書きたくてぇ。
小凪ちゃんと密着してる七海ちゃん書きたくてぇ!
……欲望の赴くままに書いてしまいました。
許してください!大事なシーンも放り込んでるんです!(´・ω・`)←ホント?
というところで、次回いよいよゲームジャンルが決まる……と思いますので、皆さんどんなゲームジャンルになるのか楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!
では今回はこの辺で!
第49話でお会いしましょう!
(皆さんが応援してくださったおかげで、この度、日間9位をいただきましたー! これからも頑張っていきますので、引き続きセレスたちをよろしくお願いいたします!)




