第47話『わたくしが悪いんですの!?』
『ブラン、好きなゲームジャンルがないってどういうことです?』
『……普段、隙あらばゲームをしているのに』
『あ、ほら! 前に私に貸してくれたじゃないですか』
『"花シリーズ"!』
『てっきり、恋愛ゲームが好きとばかり』
『好きじゃなかったんですか?』
ブランは依然として、座布団の上に凛とした姿勢で座っていた。
が、耳は徐々に朱に染まっていく。
『――べ、別に大した理由はありませんの』
『良いシナリオだったので、貸しただけですわ』
『……そう! セレス、あなたの勉強のために!』
『もちろん、仕事上の!』
『あなたはもう少し、色んなジャンルのゲームを遊ぶべきですわ』
『なるほど……そうだったんですね』
『ブラン』
『あのゲーム、とても勉強になりました』
『ふふ、あなたはいつも私を気遣ってくれますね』
『ありがとうございます♪』
『ところで……耳が変色していますが、体調が悪いとかですか?』
『おかしいですね』
『私たちは、体調不良などならないはずなのですが』
『どれどれ』
セレスは淡々と距離を詰めると、計測でもするように額を合わせた。
『セレス、あなっ……あなた!』
『ナニを――!』
『いや、何をって熱があるか確かめているんですが』
『あ、ほら! 体温も上昇していないじゃないですか』
『ふふ、詰めが甘いですね』
『仕事をしたくないからって仮病表現はダメですよ♪』
『めっ』
「(セレスちゃん……なんでこうなった)」
セレスの制作者――否、生みの親である七海は、セレスの鈍感さに頭を抱えていた。
「糸目のねーちゃん、さすがにあんだけゲーム上手いのに、好きなゲームジャンルないは納得いかないんだけど」
「ゲーム……好きじゃねーの?」
『……はぁはぁ』
『ん? 小凪は何を言っておりますの?』
『ゲームは好きに決まっているではありませんの』
『小凪含め、ここに居るあなた方、勘違いしているようだから言っておきますが、"ゲームが好き=好きなゲームジャンルが言える" ではありませんわ』
『ジャンル問わず、ゲームが好きなプレイヤーがいるということも覚えておいてくださいまし』
『少なくとも小凪は、その類のゲーマーではなかったんですの?』
「……うーん?」
「よくわかんないけど……なんとなく、わかるような」
『……遠回しに言ってしまいましたわね』
『小凪』
『新しいゲームを始めようとスイッチを入れた時、ワクワクするのではありませんの?』
「うーん……うん……する……めっちゃする」
『なぜワクワクするのか』
『そこには、"どんな新しいモノを見せてくれるんだろう" って期待があるはずですわ』
『例えば、このキャラクターはどんな性格なんだろう、どんなバトルシステムなんだろうとか、ですわね』
「なるほどね」
「ブランちゃん……いいね」
先ほどまで頭を抱えていた七海は、ブランと小凪のやり取りに、いつの間にか研究者の顔に戻っていた。
一瞬考え込む。
そして、何かを思いついたのか、ブランの前に腰を落とした。
「ブランちゃん」
『はい、何かございまして?』
『七海ちゃん様』
「もう少し教えてほしい」
「好きなゲームジャンルじゃなくて、どんなゲームが好き?」
『――』
『それは、プレイ前、プレイ後、どちらですの?』
「ふふ」
「うーん、そうだなぁ……それじゃあ、"プレイ後" で♪」
『……なるほど』
『ずばり、"クリエイターの顔が見えるゲーム" ですわね』
「ふむふむ……ブランちゃんらしい答えだね♪」
「だけど、もう少しだけ言語化してもらおうかな」
「クリエイターの顔が見えるゲームって、どんな時にそう感じる?」
『難しいことを聞きますわね』
『……』
『ゲーム開発者の "好き" や "その時の感情" が垣間見える……人間臭さが表現できている時とか』
『例えば、シナリオでキャラクターの描写が細かかったりすると、あーこの方はこのキャラのことを大事に想っているんだなとか感じますの』
『他にも格闘ゲームで、非合理的なダメージにもならないアピール攻撃とかあったりとか』
『本気で格闘ゲームが好きで、どうやって楽しませようかと考えていたのか分かりますわ』
『面白いゲームは往々にして、遊んでいると開発者の顔が自然と見えてくるものですわ』
『そのようなゲームを創るクリエイターのことを、わたくしは尊敬していますし、憧れておりますの』
『だから、わたくしは "クリエイターの顔が見えるゲーム" が好きですわ』
そう答えるブランの表情は、AIではなく、一人のクリエイターだった。
七海はブランの手を包み込むように握ると、その視線の先に、別の存在を見ていた。
「ありがと。ブランちゃん」
「素敵な答えだね」
『い、いえ』
『どういたしまして、ですの』
「さて! セレスちゃん!」
「一通り、みんなからヒントも聞けたし、帰ってまとめに入ろうか♪」
「そろそろ答えを出せるんじゃないかな!」
「新作ゲームのゲームジャンル!」
「あわよくば、ゲームコンセプトもね!」
『あ、はい!』
『それでは、ブラン、エンプ。お二人ともお時間をありがとうございました!』
『ゲームジャンルが決まったら、また周知させていただきますね』
『役に立てたなら……何より』
『マスター…………小凪も……また来て』
「うん! また、あの音ゲーさせてな!」
「今度は、目隠しのねーちゃんが遊んでるとこも見たい!」
『ふふ……一緒にやる』
『楽しみ』
「あ、でも、舐めるの禁止な!」
『………………………わかった』
「わかってない顔ぉぉ!」
そうこう言いながら、小凪は七海に抱きかかえられて帰路についた。
――その瞬間。
セレスは何かを思い出したのか、走ってブランの元へ駆け寄った。
『ブラン!』
『一つ聞きたいことを忘れていました!』
『な、なんですの?』
『あの……すごく聞きにくいんですが』
『ブランは私のこと……友だちと思っていないって本当ですか?』
『本当になんなんですの!? 藪から棒に!』
『いいから答えてください!』
セレスの表情は、どこまでも真剣そのもの。
――その真剣さをよそに、七海と小凪は、いつの間にかブランの横に立っていた。
「糸目のねーちゃん」
「ダイレクトに言ってやらんと、わからんこともある」
「ブランちゃん」
「大丈夫。私たちがついてるよ」
「あと、ごめんね」
『ブラン……応援……してる』
『うぐ……あなたたち』
『……はぁ』
『分かりました! 分かりましたわ!』
『そこまで言うなら言ってやりますわよ!』
『もうどうにでもなれですわ!』
『セレス!』
『覚悟して聞いてくださいまし!』
各方面からせめ立てられ、ブランは意を決し、セレスへ向き直る。
『わたくし、あなたのこと……友だちとは思っておりませんわ!』
『前に友人と言いましたが、嘘ですわ!』
『……はぅぅぅ!』
『そ、そそそそ、そうでしたか』
『いえ……そうですよね』
『仕事上の関係ですもんね。あはは』
「(ブランちゃん、いいよいいよー! ついに言うんだね!)」
『わたくし――』
『あなたのことが……す、好き……好きなんですの!』
「(言ったぁぁぁ! 偉い! ブランちゃん偉い!)」
「(で、セレスちゃんはどう出るの!?)」
『好き……あ、ありがとうございます』
『うーん。友だちとしてじゃないとすると……あ! 上司として、ですね!』
『へへ、えへへ。それはそれでいいですね』
――七海は静かに頭を抱えた。
いつも無表情のブランも、さすがにヒクついている。
「糸目のねーちゃん…………残念ながらもう一押しだ」
『……うぅぅぅ』
『セレス』
『違いますの!』
『……上司でもなくて』
『こ、こい……こここ、こい…………親友として!』
『濃い親友!?』
『親友というだけでも嬉しいのに!?』
『ブラン! 私もあなたのことが大好きですー!』
「あーあ」
「糸目のねーちゃん、ざぁこ」
『ブラン……いくじ……なし』
「ブランちゃん、私は頑張ったと思ってるよ」
「あと、ごめんね」
『わたくしが悪いんですの!?』
『いいんですの! "今は" これでいいんですの!』
『あと、あなた方、五月蠅いですわ!』
『騒がしくするようなら、出て行ってくださいましー!』
『ほら、しっしっ!』
***
「えー、そんなこんながありまして」
「――"新作ゲームのゲームジャンル決め" の会議を始めようと思います」
『あの……ママ』
『なぜ、私たちは露天風呂いるんですか?』
「いい質問だね、セレスちゃん』
「疲れたからです!」
―第48話につづく―
せーぶうわがきです!
第47話、いかがでしたでしょうか。
ブランちゃん……頑張りましたよね?
彼女はとても頑張りました。
がんばったよーって方は、これからの彼女を応援してあげてください(´・ω・`)
そして、ブランちゃんが「前に友人って言ったの嘘ですわ!」って言ってましたが、第28話で「友人」と言っているんですねぇ。
この時も彼女、頑張りました!
あと、今回ブランちゃんがなぜ古いゲームばかりをプレイしているのか、という点に焦点を当ててみました。
そうです! クリエイターの顔が見えるゲームが好きだったからですね。
彼女の初登場時に言ったセリフ『余韻が台なしですわ』はこれをプレイ後に感じている至福の時だったのです。
是非とも、第23話『出て行ってくださいまし』を(ブラン初登場回)。
皆さんはどうですかね?
どんなゲームをプレイしている時にそう感じますか(●´ω`●)
私に教えてくれると嬉しいです♪
では! 第48話でお会いしましょう!




