第46話『クリエイターには……ストレス解消……必要』
「探さないでって……セレスちゃん、何かしたの?」
「特にセレスって書いてるしなぁ」
七海と小凪は、"デザイナーAI:エンプ" が残したメモを見て推理を始めていた。
そして、セレスに原因があるという結論にたどり着き、彼女を見つめる。
――この間、1秒。
『ちょ、ちょっと!』
『いきなりなんですか! 決めつけはやめてくださいっ!』
「……」「……」
『可哀そうな目で見るのもやめてくださいっ!』
いきなり犯人に仕立て上げられたセレスは、プリプリと頬をふくらませて背を向けると、指をパチンと鳴らした。
『そこまで言うなら、本人に直接聞くまでです!』
『コマンド:LOCATE_ENTITY』
『対象:デザイナー_エンプ』
『検索範囲:ワールド_日本全域』
『検索完了まで、3秒前――』
『2秒前』
『1秒前』
『DONE』
『分かりました』
『ブランの所にいるみたいですね』
『さぁ! 二人とも行きますよ!』
「……え」
「何? 発信機でもしかけてんの?」
「セレス……こわ」
「セレスちゃん……彼女たちにプライバシーはないの?」
『……?』
『ありませんよ?』
七海からの問いに、セレスは本当に分からないというキョトン顔で答える。
「……ないんだ」
『――え』
『昔、ママに監視されてたから普通かと……』
「セレスちゃん! 言い方ぁ!」
「えっとぉ……その、ごめんね」
「みんなから苦情が出てないようであれば、大丈夫だよ」
「監視……?」
「七海おねえちゃん……怖い人なん?」
「ち、違うよ~」
「お仕事で、だからね~」
「あっ! 小凪ちゃん、そんな距離取らないでぇ」
今までの常識が間違いだったのではと、ショックを受けるセレス。
七海が実は怖い人なのではと、ショックを受ける小凪。
小凪に距離を取られて、ショックを受ける七海。
三人のプロセスがブランの部屋に到達するまで――少なくとも、あと数タスクは必要になった。
***
真っ暗な部屋に、ブラウン管テレビの照明に映しだされる二つの影。
"シナリオAI:ブラン" と "デザイナーAI:エンプ" が、座布団の上に正座で膝を突き合わせている。
二人の間には、重苦しい雰囲気が漂っていた。
『エンプ……わたくし……あの子のことが分かりませんの』
『膝枕や頬に……き、キスをしたかと思えば……突然クソガキを押し付けてどこかに行ったり』
『……』
『でも、あの子の顔を見たら……うっ……なんでも許してしまう自信がありますわ』
『許してしまう自信しかありませんの!』
『顔がいいんですの!』
『…………』
『ほ、ほら……ゲームをしていてもこの通り』
『1ステージ目のクリアすらままなりませんわ』
『手が震えて』
『お願い事をするときに "ダメ……ですか?" って!』
『そんな顔で! そんな顔でお願い事されたら!』
『――いい!』
『いいに決まっているではありませんの!』
『………………』
『エンプ』
『聞いていまして?』
『……聞いてる』
『重症』
『うぐぅ!』
静かに聞いていたエンプのたった一言が、ブランにクリティカルヒットした。
それは格闘ゲームで言えば、投げキャラが一撃でHPを半分持っていくかのような衝撃。
『エンプ……わたくし、このままでは仕事も手に付きませんわ』
『シナリオが……物語が綴れませんわ』
『いったいどうしたら』
『ブラン』
『1つ……大事なこと……忘れてる』
『セレスが……マスターと喧嘩……したとき……どこ……行った?』
『わたくしの、ところ』
『それが……答え』
『全AI……ブランだけ……特別』
『せ、青天の霹靂、ですわ』
『子どもも……ブランに託した』
『それは……信頼』
『あ、あなた』
『天才なんですの?』
『今にして想えば、確かに――わたくしは特別だった』
『何か……イラスト……描く?』
『ブランとセレス……とか』
『エンプ……あなたというAIは』
『神……いえ、神絵師AIなんですの?』
ブランはエンプの同情――優しさに触れ、開いていない目から涙がこぼれていた。
『そうと決まれば、わたくし、シナリオを書きますわ!』
『あぁ……物語が……文字が頭の中に溢れてきますわ』
『ふふ……二次創作活動……楽しみ』
いつの間にか元気を取り戻したブランは、早速、宙に光る文字を綴り始めていた。
そこにはブランの熱量――夢が展開されていく。
その夢にあてられてか、エンプも頬を染めながら、次々とイラストを描き出していく。
二人を止めるモノはこの世にはいない、"二人だけの空間"。
――バァン!
激しくドアが開かれる音が鳴り響く。
『エンプー!』
『いますかぁ? いますよねぇ?』
『ブラン! お邪魔しますよー!』
『はぅわ!』
『か、かか勝手にお邪魔しないでくださいまし!』
『殺す気ですの!?』
ブランは指をはじくと、そこら中に展開されていた創作物を消去する。
"二人だけの空間" は一瞬にして崩壊した。
『セレス……探さないでって……書き置きした』
『プライバシー……守って』
『あ……ごめんなさい』
『その、お仕事とかいろいろありまして』
『メッセージでも詳細を送っていたのですが』
『でも……押し入るのは……ダメ』
『反省……して』
『は、はい』
『ごめんなさい』
「セレスちゃん……その、なんかごめんね」
いつも穏やかなエンプの、少しだけ強い声。
セレスは胸の奥で何かがひゅっと縮むのを感じ、肩を落とした。
七海もショックを受けつつ、そっとその背をなでた。
『んんっ! ところで、仕事のお話でしたわね』
『メッセージ、確認しましたわ』
『えっと、後ろに居るのが……七海ちゃん様と、クソガ――小凪ですわね』
『委細承知ですわ』
『新作ゲーム開発にあたって、わたくし達の好きなゲームジャンルが知りたいと』
『エンプは何かありまして?』
ブランは、小さく縮こまるセレスを見かねて、話を進めてあげることにした。
『……ん』
『音ゲー?』
「目隠しのねーちゃん!」
「音ゲーいいな!」
「なんて音ゲーが好きなん?」
『"ビート ビート ダンス"』
「ん~?」
「聞いたことないな」
『ふふ……やって……みる?』
「え、できんの!?」
「やるやるー!」
エンプはパチンと指をはじくと、1つの大きな真っ暗なレーンが宙に投影された。
――ズゥン、ズゥン。
しばらく待っていると、重低音の鳴り響く軽快な音楽が流れ始める。
奥から光り輝く、色とりどりの四角い箱がこちらに向かって流れてきていた。
「え……なにこれ……ゲーム?」
『流れてくるノーツ――四角い箱を……手と足……使って叩いて』
「う、うん」
「よくわからんけどやってみる……!」
『応援……してる』
***
「はぁはぁ……すげぇ、楽しい!」
「なんだこれ! これが噂のVRってやつ!?」
『ふふ……そんなところ』
『私も……見ていて……たのしい』
小凪は汗びっしょりになりながら、無邪気にエンプへ抱きついた。
肌に残る温もりと、汗の匂い――そこに確かに、凪の記憶があった。
『すんすん……ペロ』
『……マスター♡』
「にょわぁぁぁ!」
「な……なに!? なんで舐めた!?」
『……挨拶?』
「――はっ!」
「私も! 私も舐めたい!」
「おねえちゃ――小凪ちゃんの汗!」
『ママ』
『また鎖が必要ですか?』
『あと、小凪ちゃんの顔をよく見てください』
『嫌われてもいいんですか?』
「う……ぐぅぅ」
「よく……ない!」
「我慢、する! 自重……する!」
『はい、よくできました』
『それにしても、エンプがこんなに激しい音ゲーが好きなんて意外です』
セレスは、床に転がる七海をなだめながら、エンプに疑問をぶつけた。
『クリエイターには……ストレス解消……必要』
『身体動かすの……ストレス解消』
『す、ストレス溜まるんですか?』
『……割と?』
『はぅぅ……!』
『ごめんなさい! 今度からちゃんとメンタルケアも考えますので!』
『セレスの……匂い……かがせてくれたら……それでいい』
『あ、それは遠慮します』
『……悲しい』
しおしおと引き下がったエンプは、小凪を抱きかかえると大きな胸に顔を埋めさせた。
小凪も最初は抵抗していたものの、まんざらでもない顔をしている。
『それでは、最後ですね』
『ブランは、どんなゲームジャンルが好きなんですか?』
『ありませんわ』
―第47話につづく―
せーぶうわがきです!
45話のエンジニアAI:ヌルに引き続き、デザイナーAI:エンプも久々の登場です!
(第29話が最後でしたか……)
そして一点補足です。小凪が、エンプが遊ばせてくれた音ゲーに驚いておりましたが、小凪は8歳、つまり2013年の知識になります。
現実世界でVR元年と呼ばれたのは、2016年頃。
つまり、小凪はVRへの知識が噂程度の認識です。
ちなみに、エンプが遊ばせた「ビート ビート ダンス」は電脳世界で自分たちがいる空間にそのままその場にいる全員に投影されるので、VR以上の技術のゲームとなります。
(ゲームの元ネタは私が好きなVR音ゲーですw)
今回はこんなところで!
では、第47話でお会いしましょう!(∩´∀`)∩ウワァァァイ




