47 恋人キスごっこ
俺は夜の公園でキスするカップルみたいに……マーメイズいちのギャルと、お互いの唇を貪りあっていた。
瞼を彩るアイシャドウを見せつけるように、うっとりとした薄目をするアネモス。
両腕を俺の首の後ろにまわし、腰をむっちりとした太ももで挟み込み……全身で俺を感じるようにしがみついている。
『お前……このカッコウで抱きつくのが好きなんだな』
するとアネモスは、ニッコリと微笑んだ。
『へへ……こーやってフツーのオンナノコみたいに、アチュラチュなコト……してみたかったんだよねー!』
アチュラチュ……?
意味を尋ねてみたかったが、それよりもやらなきゃいけねぇことがある。
『よし、みんな……そろそろ御褒美は終わりだ。戦いの続きをするぞ』
こういう場合、本当は唇を離すべきなんだが……離したら息ができなくなっちまうので、俺はそのままの体勢で言う。
……マーメイズたちは見事、ボートの海賊たちを退治した。
その御褒美をせがまれて、俺は彼女たちとひとりずつ『恋人キスごっこ』をしていたんだ。
いままで呼吸をするためにさんざんキスをしてたのに、それとこれとは別らしい。
俺はトップアイドルたちをひとりずつ順番に、腰を抱き寄せて身体を密着させた。
手を恋人つなぎで絡めあわせ、愛をささやきながら……甘い口づけを交わしたんだ
それはそれで良かったんだが……そろそろ戦いに戻らねぇと、またボートがやって来ちまう。
しかし彼女たちはまだ足りないらしく、すかさず四方向からブーイングを飛ばしてきた。
『えー、まだいいじゃん! もう一周イチャイチャしようよぉー!』
『さんせーい! アンコール! アンコール!』
『アルコール! アルコール! 旦那様とのキスって、酒みてぇにやめられねぇよ! ……酒飲んだことねーけど!』
『アンコール! アンコール! いつもファンの方からアンコールされる立場なので、楽しいです……!』
こぞって手拍子されて、俺はしょうがなく要求を飲む。
『あー、わかったわかった。じゃあ……ちょっとだけ仕掛けをさせてくれないか? それが終わったらまたしてやるから』
『仕掛けって……なあに?』
代表して尋ねてたきたミューティに、俺は答える。
『ヤツらを同士討ちさせて、沈めあってもらうんだ。まあ、ちゃちゃっとやってみせるから、適当な海賊船まで運んでくれるか』
新妻のように、『はいっ、旦那様!』と素直な返事をするマーメイズ。
よっぽど早く続きがしたいのか、四人の人魚はあっという間に近くの海賊船まで俺の身体を運んでくれた。
『お前らはここで待っててくれ、すぐ戻るから。たまに海賊が落ちてくるかもしれねぇけど、前みたいにボコボコにしてやってくれよ』
俺はマーメイズの肌からひさしぶりに離れ、海の中から浮かび上がる。
ぷはっ、と海面に出ると、海賊船の上は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「おい、なんだ!? なにが起こったんだ!?」
「ボートが次々と爆発したうえに、乗ってたヤツらも沈んじまったぞ!?」
「もしかして、サメか!? サメにやられたのか!?」
「いや、ボートを爆発させるサメなんているかよ!」
「他になにがあるってんだよ!? 魔法か!?」
「いや、このあたりの海域は魔法封じの結界が張ってあるって、摂政のヤツが言ってただろうが!」
やっぱり、摂政から差し向けられた海賊だったのか……。
なんてことを思いつつ、俺は海賊船の船体をよじ登っていた。
俺が常に身につけているグローブ。その右手側には、魔法猫であるディスペルシャのヒゲが織り込んである。
これは魔法攻撃を跳ね返せる他に、こうやって壁に張り付ける能力もあるんだ。
船体の横にある砲門のあたりまで登りつめたところで、船体めがけてひとさし指を突き立てる。
……バコォォォンッ!!
ツボを突かれた壁がウエハースのように砕け散り、大きな風穴があいた。
ちょうどいい大きさの出入り口ができたので、そこから船内へと躍り込む。
薄暗い砲室の中には、冷蔵庫の裏のゴキブリみてぇに大勢のDQNどもが蠢いていた。
男子校の運動部の部室を数倍ひどくしたような、すえた男臭さが鼻をつく。
さっきまで、アイドルたちの柔肌の香りに酔いしれてたから……あまりのギャップに鼻がビックリして、曲がっちまいそうだ。
「なっ……なんだテメェは……!? ぎゃあああああっ!?」
俺は腹立ちまぎれに、手近なDQNの襟首を掴んで海に放り捨てた。
そして品定めをするように、残った奴らを見渡す。
「……うーん、想像してたより数が多いな……ちょっと減らすか」
「てめぇっ!? いきなり乗り込んできて、何言ってやがるっ!?」
「かまわねぇ、やっちまえーっ!」
腰からサーベルやナイフを抜き、手斧や棍棒などを手に手に飛びかかってくるDQNども。
俺はピーターパンのように壁の穴ギリギリに立ち、迫り来るヤツらを流れ作業のように海に落としていく。
『バレットタイム』があれば、こんなチンピラの攻撃をよけるのは簡単だ。
ゆるやかなナイフの一撃をサイドステップで楽々とかわし、すれ違いざまに足をひっかける。
アクビの出るような棍棒の一撃をスウェーしてかわし、バランスを崩したところを腕を掴んで送り出す。
土俵際で「おっとっと」と踏みとどまっていたら、後ろ足でケツを蹴り上げてやり、落ちないようにフチを掴んでぶら下がっていたら、その手を踏み砕く。
「くそっ! この狭いなかで、なんでカスりもしねぇんだ!?」
「のらりくらりと逃げまわりやがって!」
「一気に行けっ! 数の力で押し出してやるんだっ!」
示し合わせたように、数歩後ろに下がるDQNども。
腰を落とし、ラグビーみたいなスクラムを組む。
呆れるくらいバレバレの体勢をとったあと、
「落ちやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
イノシシ小屋から逃げ出すイノシシのような、必死な形相のタックルで突っ込んでくる。
俺はその様子を、直前まで頭を掻きながら眺めていた。
まぁたしかに、砲室内には逃げ場はねぇけど……。
外のほうにはいくらでもあるんだよなぁ……。
インパクトの直前、俺は壁の穴から身を投げる。
フチを掴んで、頭上を通り過ぎるイノシシどもを見送った。
「ははっ! そんなに慌てなくても、海は逃げねぇよ……! でも、人魚には気をつけろよ~!」
船体を傾けるほどにドボドボとこぼれ落ちていく、海の豚たち。
船がだいぶ軽くなったところで、俺は懸垂のようにして船内へと戻った。
後ろのほうからは、さっそく人魚の餌食になっているヤツらの悲鳴が聞えてくる。
「あ~あ、だから、人魚には気をつけろって言ったのに……お前らはああなりたくないよな?」
俺は背後の悲鳴を親指で示しながら、残った二匹のDQNに近づいていく。
「ひ……ひいいいいーーーっ!? なんだコイツ……なんなんだよコイツ……!」
「よっ……寄るなっ……! 寄るなバケモノっ……!」
どいつもこいつもすでに腰を抜かしており、水たまりの跡を引きずりながら這い逃げている。
壁際まで追い詰めたところで俺はしゃがみこみ、二匹の首根っこをガッと掴んだ。
「ぎいっ!」「ひいいっ!?」
「……ちょっと協力してくれねぇか? 軽~く砲撃してほしいんだ」
「ほ……砲撃だとぉ!?」「だ、誰が、てめぇなんかに協力を……ぎゃあっ!」
「頚椎……首の骨をちょっとだけイジった。ほんのちょっとだけな。お前は息が苦しくなってきただろ? そっちのお前は腕に焼印を押されてるみたいな痛みがあるはずだ」
「かっ……くはあっ!?」「ぐっ……ぎぎぎぎぎぎぎぃっ!?」
酸素が足りない金魚みたいに口をぱくぱくさせるDQNと、苦悶の表情で腕を押さえているDQN。
「ここからさらに頚椎を刺激してやると、どうなるかわかるか……? お前は完全に息ができなくなって、お前は首から下が一生動かなくなるんだ……!」
「「ひぐっ……!? ひいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」
二匹はまるで双子みたいにソックリな動きで、涙をドバッと溢れさせ、首を振り回しはじめた。
もう、DQNならではのカラ意地は品切れのようだ。早ぇな。
「じゃ、それぞれ一発ずつ、お仲間の船に弾を撃ち込んでくれるか? 停泊してるから当てるのは簡単だろ?」
それから少しして、
……ドォォォォーーーーーーーーーーンッ!! ズドォォォーーーーーーーーーーンッ!!
船体をビリビリと揺らす、号砲の二連発を背にしながら……俺は海へと飛び込んだ。
ザブンと着水するなり、人魚たちから襲いかかられたので、慌てて「俺! 俺だよ!」とジェスチャーした。
すかさず我先にと抱きつき、唇を重ねてくる、俺のかわいい人魚たち。
俺は約束していたとおり、恋人のキスを再開する。
海上では、砲撃の音がやまなくなっていた。
予想以上にあっさり仲間割れをし、お互いの船を攻撃しはじめたようだ。
『……俺、海戦って見たことねぇんだよ、せっかくだから見てみようぜ』
俺はマーメイズと連れ立って、海戦がよく見える場所へと移動する。
海上では、さっきまでは意気投合していたDQNどもが……お互いの砲撃でミンチになり、ダーツ銃でハチの巣になり、サーベルで首を斬り落としあい、火炎瓶で火だるまになったりしていた。
それはまるで、殺し合うチンパンジーのような、滑稽なショー。
こっちはほとんど何もしていないのに、海賊船は一隻、また一隻と沈没していく。
そのおかげで手持ち無沙汰になった俺たちは、たっぷりと『恋人のキスごっこ』をすることができた。
次回、海賊たちのボスが…!?
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓




