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俺の指圧がチートすぎる  作者: 佐藤謙羊
第2章 ハーレム修学旅行にイッてきます!
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20 愛の戦士タクミ

『わが国はじまって以来の珍事っ! 本来は殺されるために投入されていた、犯罪者が生き残ってしまいました! 例えるなら、トラの檻に放り込まれた生き餌の羊が、トラたちを倒してしまったということですっ! しかも王の判断で、その犯罪者が結闘の儀に参加することになってしまいました……こちらも前代未聞のことですっ! まだトーナメントが始まってもいないのに、波乱の予感がするぞぉーっ!』



 歓声に乗って、実況の弁も冴えわたる。

 やたらと俺のことを、犯罪者呼ばわりしてるのが気になるが……まぁいいか。


 立ち尽くしている俺のまわりに、この闘技場の係員らしきヤツらがやって来る。

 俺には目もくれずに、転がる死体の山を片付けはじめた。


 手やら足やらを掴んで、ズルズルと闘技所の端まで引きずっていく。

 端っこには落とし穴みたいなのがあって、そこまで引きずっていくと、蹴って穴に放りこんでいた。


 ……なんだありゃ……ゴミみてぇな扱いしやがって……。

 この国には、死者に対する敬意ってもんがねぇのか……。


 苦々しい思いで後始末を眺めていると、横からニュッと棒を突きつけられた。

 びっくりして後ずさると、そこにはラウンドガールみたいな格好をした高原族(ハイランド)の女が俺を見下ろしていた。



「タクミクン選手! 選抜勝ち抜きおめでとうございます! いまの心境を!」



 ニコニコ顔の女が、バトンみたいな棒に向かって喋ると……声は闘技場じゅうに響き渡る。


 この棒きれは『拡声棒』といって、魔力で声量を増幅して、スピーカから出すことができるものだ。

 簡単にいうと、マイクみたいなもんだな。


 どうやらこの女は、俺にインタビューしに来たようだ。

 せっかくだから、答えてやることにする。



「……あー、まず言っておきたいのは……俺はクーレ先……いや、クーレを襲っちゃいねぇ。何もしてねぇんだ」



「ええええっ!? 王女に夜這いしたのは、濡れ衣だとおっしゃりたいのですかっ!?」



 大げさに、ぱちぱちと目を瞬かせるインタビュアー。

 ありえない、というのが言外から伝わってくるほどの驚きようだった。



「証拠の真写が、今朝の朝刊にも載ったんですよ!? それでも濡れ衣だと!?」



 インタビュアーの言葉に、今度は俺が目をぱちぱちさせる。



「……証拠の真写だって?」



 真写ってのは眼球に映った風景を、魔力で……って、めんどくせぇな、ようは魔法を使って撮れる写真のことだ。



「えーっと、スタンドのほうに真写、出せますか? ……ほら、あちらをご覧ください!」



 インタビュアーは闘技場のスタッフに何かを呼びかけたあと、バスガイドのように手を掲げて示した。


 その先には闘技場の設備のひとつである、一枚岩のバックスクリーンがある。

 それはまあ、いいんだが……そこに映し出されていたモノが問題だった。


 何倍にも拡大された、真写……!

 それは全裸の俺が、ネグリジェのクーレ先生の上に、のしかかっているシーンだったんだ……!



「えええっ!?」



 俺は一瞬、度肝を抜かれてしまった。

 ……が、なにかがおかしいことに気づく。


 ベッドの上に横たわるクーレ先生は、抱きまくらみたいに俺を抱きしめている。

 その表情は嫌がっているというより、なんだか安らかだ。


 そして俺はというと、後ろ姿なので表情は見えないが、なんだか糸の切れた操り人形みたいにグッタリしてる。

 ……もしかして俺は、ウェナーに眠らされたあと、クーレ先生の寝室に連れて行かれて、裸に剥かれて……写真を撮られちまったのか?


 俺は頭の隅で、クーレ先生から聞いたことを思い出していた。



「……わたしね、寝てるときになんでも抱っこしちゃうクセがあるの。抱っこできるものがないと寝ぼけちゃって、抱っこできるものを探しちゃうんだ。この前なんか、お庭にある岩を抱っこしてたことがあったんだよ。だから、抱きまくらが手放せないの」



 聞いたその時は、どこまで抱っこ好きなんだよ、この人は……と呆れたもんだが、わかったぞ。

 この真写のクーレ先生も、俺と同じで眠らされているんだ……!


 バックスクリーンに注目していた観客から、さらなるヤジが飛んでくる。



「クソ……! 新聞で見たときも、ムカついてビリビリにしちまったが……! こうしてデカいので見ると、なおさらムカつくぜぇ!」



「クーレ王女は、俺たちのあこがれの女なのに……! それをあんな平地族(グランドラ)のガキが……!」



「てめえっ! 殺しても殺し足りねぇよっ!」



「テメーが死体になったら、こっからションベンぶっかけてやるからなぁ!」



「俺は野良犬をたくさん連れてきて、身体を食わせてやらぁ!」



 知性のかけらもない、野蛮な罵声が俺に投げつけられる。


 なぜコイツらはこの真写を見て、おかしいと思わねぇんだ……?

 明らかに不自然だろ……!? ったく、マジで脳まで筋肉なんじゃねぇの……!?


 俺はこれ以上弁明しても無駄だと思い、話題を変えることにした。

 拘束された両手でインタビュアーから拡声棒を受け取り、VIPルームのほうを見る。


 VIPルーム内にいるクーレ先生は、椅子に縛り付けられたうえに猿ぐつわを噛まされていた。

 敵地でもないのに、囚われのお姫様みたいになっている。



「……おい、クーレ! 窮屈かもしれねぇが、もうちょっとだけ待っててくれ!」



 俺に呼びかけられたクーレ先生は、釣り上げられた魚が突然暴れだすみたいに、身体を激しくよじらせはじめる。

 なにか叫ぼうとしているみたいだが、口を塞がれているので全然言葉になっていない。



「あー、まあ落ち着けって、そこでゆっくり俺が勝ち上がる様を眺めてればいいさ。……なんたってこの結闘の儀に優勝すりゃ、晴れて俺は、お前を嫁にできるんだからな」



 俺は縛られた手を、天をつくように高く掲げ……ボディビルダーみたいなポーズで、両腕を観衆に見せつける。



「クーレ、お前を……! この腕のアザの、十個めに加えてやるからな……!」



 俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに、



『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?!?』



 局地地震が襲ったかと思うほどの大叫喚が、闘技場を揺らした。



『なっ……なんとっ!? 大罪人タクミクンは、九つものアザを持っていましたぁ!! しかも……あの輝き……タトゥーではありませんっ!! 本物ですっ!! タクミクンはあの若さで、真の愛を九つも手にしているとは……信じられませんっ!!』



 別に驚かせるつもりはなかったんだが……実況は大興奮している。

 観客席のヤツらにいたっては、漏らしそうなほどに仰天していた。


 九つもアザがあるのは、珍しいことなのか? と思っていたら、



『このダリス全土の男性のアザを、すべて合計しても……四個しかありません!! 現在の国王ですら持っていない、たいへん希少なものです!! それをあの少年は……この国のすべての男を上回るだけの愛、しかも倍以上の数を……たったひとりで持っているというのです……!!!』



 俺は唖然とした。この俺ですら九個持っているものを、この国の男たちは……あわせてもたったの四個だと……!?

 この国の男尊女卑っぷりは、ウェナーから聞いて知っていたが……まさかここまでとは……!!



「う……うそだ……! うそだうそだうそだうそだ……うそだあああああっ!!」



「信じねぇ……信じねぇぞ、俺は絶対……!」



「あんなへなちょこ野郎に、アザがあるだなんて……! しかも、九個も……!」



「あんな童貞丸出しのヤツにあって、なんで俺にはねぇんだよぉぉぉ!?」



「くそっ……! 殺せっ! 絶対に殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!」



 ヤジの殺意に、嫉妬が混ざる。

 俺がこの手の感情を受けるのは、前世も含めて生まれて初めてのことだった。


 なんていうか……くすぐってぇ……! でも、イヤなカンジじゃねぇ……! 

 むしろ嬉しい……! いままでに感じたことのない感覚……これが優越感ってヤツか……!?


 俺は調子に乗って、観客席に向かって叫ぶ。



「ハハハハハハハ! 今日ここにいるキミたちは運がいい! 愛の戦士である俺の戦い……その伝説の1ページを、後世に語り継ぐことができるんだからな! 俺の戦いを見て、真の男とは……真の愛を貫くとはどういうことなのか、しかと見るがいい! ハハハハハハハハ!」



 火に油を注ぐように、野郎どもの絶叫と口汚い罵りが止まらなくなる。

 ちょっとやりすぎたかな、と思ったが、どーせ味方はクーレ先生しかいねぇんだ、別いいか、と思い直した。

次回、『結闘の儀』1回戦!

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