21 結闘の儀、1回戦…vs千人隊長ガルトゥス
俺は完全に、『結闘の儀』のヒール役になっちまった。前の国とはえらい違いだ。
でも相手はむさくるしい野郎どもだし、まぁいいかと思い直し、闘技場じゅうの罵声を浴びる。
インタビュアーに拡声棒を返していると……スタッフらしき男どもがやって来た。
このダリス・バンディの闘技場では、参加者だけでなく関係者まで高原族だから、見上げるほどにデカいやつしかいねぇ。
まるで俺のほうが、小人になっちまったみてぇだ。
ハイラウトにいたときは巨人の気分だったが、それとは真逆の感覚。
男どもは俺のそばに来るなり、小宇宙人を見つけた特務機関みたいに取り囲んできた。
いったい何をされるのかと思ったが、
『タクミクン選手が繰り上げ参加となりましたので、いま手枷が外されようとしています!』
インタビュアーの一言で理解した。
ああ、そういうことか……と思っていたら、
『……異議ありぃっ!!』
と重々しい声が割り込んでくる。
まったく、次から次へと……今度はなんなんだ? と声の主を探すと、ソイツはVIPルームにいた。
『その手枷を外すのはまかりならんっ! 結闘の儀には、決まりがあったはず! 参加したときに持ち込んだ装備には、一切手を加えてはならぬと……!』
拡声棒を手に熱弁していたのは、昨日クーレ先生にセクハラを働いたゴルヌイだ。
なんでアイツがあんな所にいるんだ? と思ったが、そういえばアイツはダリス・バンディの王子だったんだ。
……王子っていうより、お頭って感じのビジュアルだが。
お頭からの異議を聞いた観客たちは、異例の判決に立ち会った傍聴人のように騒ぎはじめる。
「ってことは……ゴルヌイ王子はタクミクンに、手枷のまま参加しろって言ってんのか!?」
「いやいやいやいや、ありえねぇだろ……!」
「『結闘の儀』どころか、手枷して闘技に参加するヤツなんて、この国どころか、世界中さがしたってどこにもいねぇぞ……!」
「そんなの、殺されるために放りこまれる奴隷だけだろ……!」
「タクミクンが死ぬ様は、見てみたいが……あっさり死にすぎるんじゃねぇか……!?」
「それもそうだ! 手枷くらい外してやれよ……!」
「いや、俺はそうは思わねぇな! どうせ一回戦で死ぬんだ! 手っ取り早くていいじゃねぇか!」
「おおっ、そういえばそうだなぁ! どーせ罪人なんだし、いーじゃねぇーか! 罪人は罪人らしく、手枷したまま死ねっ!」
観客席は『外す』『外さない』で真っ二つに分かれているようだ。
俺の手枷を外そうとしていた男の手は、さっきから止まっている。
板挟みになって、どうすればいいのかオロオロしていた。
『これは……タクミクンの命運のかかった、重大な決断となります! もし手枷が外されなければ、タクミクンは名実ともに罪人としての参加となってしまいます! その先に待っているのは……捕虜に行うような、一方的な虐殺! タクミクンは公開処刑されてしまうことを意味しています!』
やたらと煽り立ててくるインタビュアー。
俺が、指をクイクイとやって呼んでやると、サッと拡声棒を口元に差し出してきた。
『あー、俺はべつに、手枷をしたままでもいいよ。ちょうどいいハンデ……いや、ぜんぜん物足りねぇか……でも他のヤツらには、無いよりはマシくらいのハンデになるだろ』
俺は拡声棒に向かって言いながら、まわりの男どもを手で追い払う。
ずっとそばにいられると、暑苦しくてしょうがなかったからだ。
『ええええっ!? 手枷がハンデキャップって……!? マジっすかぁ!?』
インタビュアーは我が耳を疑うように……というか、俺の神経を疑うように聞き返してきた。
俺は頷き返す。
『ああ。それにこういう状態で戦うのも、いい練習になるかと思って』
『れっ……練習っ!? み……みなさん、お聞きになりましたでしょうかっ!? タクミクン選手はこの結闘の儀を、練習と言ってのけましたぁぁぁぁぁっ!?!?』
直後、俺はさらなる怒声に飲み込まれる。
クレイジーを意味する放送禁止用語が、ピー音に邪魔されることもなく飛び交う。
もはや俺は、大罪人からただの頭のおかしいヤツになっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『さあっ……ついにやってまいりました! 開会前から話題をひとり占めしてきたクレイジーファイター、タクミクンの第1回戦です!』
俺は実況を聞きながら、バックスクリーンを見上げていた。
プロジェクターのように映し出されているのは、『結闘の儀』のトーナメント表。
トーナメントには俺を含めた16名の参加者がおり、俺は並びの最後尾にいた。
俺の前のヤツらはすでに戦いを終えており、7名が二回戦進出を決めている。
この表だけを見ると、なんか悪役だけを集めた格ゲーみてぇだ。
その筆頭であるゴルヌイは、ちゃっかり二回戦へと勝ち上がっている。
『タクミクンの相手に、不足は全くありません! 相手はあのクレイジー・ファングと呼ばれた千人隊長、ガルトゥスですっ!』
俺に浴びせられる罵声とはまったく違う、ヒーローが現れたような歓声が闘技場を包む。
手を挙げて応えながら、悠々と入場してくる男……たぶんガルトゥス。
上半身は羽根みたいなのがいっぱいついた肩当てのみで、あとは裸。下半身は革パン。
背中にデカイ剣をクロスさせて担いでいる。
もちろん身体はマッチョでデカい。ゴルヌイほどじゃねぇが、2メートルはゆうに越えている。
近づいてくると、入道雲みてぇな影が俺を覆った。
「……おっとぉ、踏み潰しちまうところだった。俺んとこのガキよりチビだから、気づかなかったぜ」
わざとらしい仕草で立ち止まり、挑発してくるガルトゥス。
せっかくなので、やる前にちょっと話をしてみることにする。
「俺んとこのガキよりチビって……お前、子供いるのか?」
「あぁん? 何言ってんだテメェ……!? 大勢いるに決まってんだろうがぁ!」
無意味にデカい声で、怒鳴りつけてくるガルトゥス。
それにしても格好といい、態度といい、DQN丸出しだなぁ……千人隊長って、けっこうな地位なんじゃねぇのかよ……。
俺は、呆れながらも話を続ける。
「大勢の子供、か……どうせ全部、無理矢理なんだろ?」
「あーん? それがどうしたぁ! 欲しいものがあれば、力ずくでモノにする……! それがダリスの男の誇りだぁ!」
「はぁ……そうか……お前は誇りとか言って、女たちの尊厳を踏みにじってきたんだな……」
「なぁに言ってんだ、テメェ……? 女に尊厳なんて、あるわけねぇだろ……! あるとしたら、そうだ……! まさに俺様に踏みにじられるためにあるんだ……!」
「そうか、だったら奇遇だな。お前みてぇな外道の誇りは、俺に踏みにじられるためにあるんだよ」
「て……テメェみたいなチビが踏みにじれるのは、何もねぇよ……!」
『おおーっとぉ!? 両者、開始前から睨み合い、激しい火花を散らしております! それにどうしたことでしょうか!? タクミクンの眼光が、別人のように鋭くなっています! 一体なにがあったのでしょうっ!?』
チャチャを入れてくる実況。
俺はガルトゥスの肩越しにある、バックスクリーンをチラ見した。
全面に、俺の顔のアップが映し出されている。
うーん……そんなに別人みてぇな眼になってるかなぁ……?
そういえば同じようなこと、スジリエにも言われた気がする。
『そろそろゴングなので、きっとタクミクンも死期を悟ったのでしょう! この結闘の儀を賑わせた彼とも、お別れの時間が近づいてまいりました! なんといっても相手は千人隊長! ダリス軍でも最強に位置する実力者で、ゴルヌイ王子と並ぶ優勝候補なのです!』
「うおおおおーっ! やれーっ! やっちまえーっ! ガルトゥスさまーっ!!」
「あの必殺技を、また俺たちに見せてくれよぉぉぉっ!!」
「この国の男たちを侮辱した、タクミクンに思い知らせてやってくれぇぇぇぇぇっ!」
「死体の片付けがいらねぇくらいにミンチにしろおっ! この闘技場の地面に、血肉を染み込ませてやるんだぁっ!」
「そうだそうだぁ! 未来永劫、闘技者たちに踏みつけられる苦痛を味あわせてやれぇーーーっ!」
ゴングを前に、観客たちもかなりヒートアップしている。
席にはもう誰も座っておらず、ライブみたいにオールスタンディングだ。
『さあっ……いよいよゴングですっ……! この結闘の儀の歴史に、間違いなく残る一戦!! 一瞬たりとも……見逃すなぁぁぁぁぁぁっ!!!』
……ゴオォォォォォォーーーーーーーーーンッ!!!
荘厳な重金属の音が、闘技場に鳴り渡る。
それとほぼ同時に振り下ろされる、太刀を見上げたまま……俺は思っていた。
……ゴングっていうより、鐘の音みてぇだな……と。
次回、タクミvsガルトゥス!




