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俺の指圧がチートすぎる  作者: 佐藤謙羊
第2章 ハーレム修学旅行にイッてきます!
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19 奴隷戦士タクミ

『いきなりですが始まりました、繰り上げ選抜っ! ターゲットである罪人たちは、さっそく逃げ惑っておりますねぇ! それはそうでしょう、処刑と違って、あっさり首をはねられたりはしません! ひとたび捕まれば、じっくり指を切り落とされ、しつこく骨をすり潰され、永遠とも思われる地獄の苦しみを味わわされてしまうのです!』



 陽気な声で、物騒な言葉を並べ立てる実況。



『おおっ!? 罪人の中でただひとり、逃げずに立ち尽くしているのがいますねぇ! みなさま、真ん中にご注目ください!』



 そいつはどうやら俺のことのようだ。

 観客席じゅうの注目が、一斉に俺に集まる。



『やたらとちびっこい罪人がいるのにお気づきでしょうか? 彼は平地族(グランドラ)のタクミクン! 本来は結闘の儀に参加予定だったのですが、昨晩クーレ王女に夜這いを働いたため、捕まってしまったそうです! 欠員が出たのはそういう理由だったんですねぇー!』



 「ええっーーーっ!?」と会場中に響き渡る、驚きの声。

 テレビのバラエティ番組みてぇだ……と思っていたら、ヤジが飛んできた。



「なんだぁ!? クーレ様に夜這いするたぁ、ふてぇ野郎だ!」



平地族(グランドラ)チビのくせして、なんてヤツなんだ!」



「おーい、飛び入りのヤツら! どうかあのチビの生皮を剥いでくれっ! この国で高原族(ハイランド)の女に手ぇ出したらどうなるか、思い知らせてやるんだ!」



 飛び交うヤジのなか、飛び入り参加の男たちが、牛みたいに土煙をあげて走ってくる。

 その視線は……赤い布でも見ているかのように、俺に固定されていた。


 反対側から乱入してきた男たちも、捕まえた罪人たちを血祭りにあげていたが、途中で放り捨てて俺に向かってくる。


 どうやらこの闘技場では、観客の支持が全てのようだ。

 観客の反感を買っている俺を倒せば、強力なアピールになると思ったんだろう。


 そのあたりは、古代ローマのコロシアムと同じだな……と思いつつ、ふと見上げる。

 すると、観客席をブチ抜いて作ったVIPルームみたいなのに目を奪われた。


 なぜ気になったのかというと……狂ったよう暴れている、ウエディングドレス姿の女がいたからだ。



「……タクミくんっ!! タクミくぅぅぅぅんっ!! 逃げたんじゃなかったのっ!? いやあああああーーーーーーーーーっ!! 逃げてぇぇぇぇぇぇーーーっ!!!」



 ……クーレ先生だ。

 隣には、きのう謁見場で会った王や女王もいる。



「いやっ! 離して! タクミくんのところに行くのっ!! おねがい、離してぇぇぇっ!!」



 ごっつい衛兵たちに押さえられてもなお、叫ぶのをやめないクーレ先生。

 メガネはすっかりズレて、胸の開いたドレスからこぼれ落ちそうになっているのに、おかまいなしに身体をよじらせている。


 あんなに取り乱している先生を見るのは初めてだ。

 でもおかげで、事情はだいたい飲み込めた。


 昨日の夜……ウェナーが俺の部屋を訪れ、クーレ先生の指示とやらで逃がそうとしてきた。

 しかし断ると、ウェナーは俺を眠らせてきた。


 おそらくその後、俺が寝ている間に夜這いの罪をでっちあげたんだろう。

 あの取り乱しようから考えて、俺をハメたのはクーレ先生じゃねぇ。


 ウェナーか、それとも別の黒幕がいるか……。



「俺が一番乗りだっ! 死ぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」



 俺の思考は、野太い声で遮られる。

 直後、風切音とともに振り下ろされた蛮刀を、寸前でかわす。


 ドゴンッ! と足元の土がえぐられた。



「……まったく、そんなに慌てんじゃねぇよ……!」



 俺は身体を翻し、軍勢みたいな人波に突っ込んでいく。


 くらったら空き缶みてぇにペチャンコになりそうなハンマーや、かすっただけで身体の一部がすっ飛んでいきそうな太刀を、踊るようにすり抜ける。


 こういう乱戦で狙うべきは、ただひとつ。

 広範囲に届く武器を、持ってるヤツだ……!



「こ……コイツ!? 当たらねぇっ!?」



「悪いね、おたくらの武器、よけやすくて助かるよ」



 俺は律儀に相手してやった。



「くそっ、あっちに行ったぞ! ネズミみてぇにちょこまかしやがってぇ!!」



「ネズミかよ、せめて猫って言ってくれよ、俺ぁ猫のほうが好きなんだ」



「どけっ! この鎖分銅で、ブッ潰してやるっ!!」



「おっ……いいねぇ。いい武器だ、ちょっと借してくれよ」



 俺は、運動会の大玉ころがしにも使えそうなくらいの巨大な鉄のカタマリを、頭上で振り回している男に向かって走る。

 滑り込んで足の間をくぐり、背後に回り込むと、腰と首筋のツボを連続で突く。


 手首が拘束されてるから、やりにくくてしょうがねぇが……なんとなかった。

 分銅を振り回していた男は、逆に分銅に振り回されるみたいにグルグル回りはじめる。



「え……っ!? あ、あああっ!? ま、まわるっ!? 身体か勝手に……!?」



 綱引きにも使えそうなくらいのぶっとい鎖が飛んできたので、俺はしゃがんでかわした。


 ……これは、俺が集団戦闘においてよくやる、いわゆるコンボというやつだ。


 『マリオネット』のツボで手の動きを操り、『ダンシング』のツボで脚の動きを操る……『マリオネット・ダンシング』……!

 このふたつのツボを突かれた者は、本人の意思に関係なく踊り続けるんだ……!



「てめえっ!? 鎖分銅を横に振り回すんじゃ……ぎゃああっ!?」



「やめろっ……ぶつかる……うわああっ!?」



「ま、巻き込まれるぅぅぅっ!?」



『お……おおーっとぉ!? 乱入者のひとりが、突如として鎖分銅を他の参加者めがけて振り回しはじめたぞぉ!? これはきっと、獲物を独り占めしたいがための裏切り行為だーっ!!』



 実況が煽ってくれたおかげで、俺を殺すために団結していたヤツらの関係にも、ヒビが入る。



「くそっ! こうなりゃテメェからやってやるっ!!」



「よぉし、やっちまえ! って、なんで俺を狙うんだよっ!?」



「うるせえ、この闘技場に、敵も味方もあるもんか!!」



 マンガのケンカみたいに、砂埃のなかで同士討ちを始める野郎ども。


 こりゃ楽でいいや、と俺は少し離れた所で観戦させてもらう。

 たまに俺に気づいて飛び出してくるヤツがいたが、指先ひとつで眠らせてやった。



「お、おいおい、アイツら、なにやってんだ!?」



「罪人ほったらかしで、同士討ちをはじめるなんて……!」



「タクミクンは俺たち観客みてぇに、ノンビリ見てるじゃねーか!」



 観客たちはすっかり呆れている。

 俺は乱戦に背を向け、観客席に向かって、まぁまぁとなだめてやった。



「あ……あの余裕しゃくしゃくの態度……ムカつくぜぇ……!!」



「全員テメーを殺したがってるのに、なんでそんなに余裕でいられるんだよっ!?」



「おいっ!! 誰でもいいから、タクミクンをやっちまえよーっ!!」



 なんだよ……せっかく落ち着かせてやろうと思ったのに、逆に俺のヘイトがあがっちまったじゃねぇーか。

 まったく……どいつもこいつも原哲夫タッチのごつい面してるクセに、器が小せぇなあ。


 心の中で毒づいていると、俺の背後がだいぶ静かになった。

 振り向いてみると……ひとりだけになった男が、剣を杖がわりにして立っていた。


 あたりは死屍累々。残った男も身体じゅう血まみれで、立っているのもやっとのような虫の息だ。



「ハァ、ハァ、ハァッ……! の、残るは、テメェだけだ……!」



「……ああ、もう終わったか、ごくろうさん」



 俺は男の元に歩いていって、いたわるように肩をポンと叩いた。

 すると男がよりかかっていた剣が、男自身の手によって、どこかにスポーンとすっ飛ばされる。


 せっかくの剣を手放すなんて……と思うところだが、実は俺が肩のツボを突いて、剣を手放させたんだ。



「え……ああっ!?」



 自分の身に何が起こったのか、わからない様子の男。

 次の瞬間、唯一の支えを失って前のめりに倒れてしまった。


 ……ズダァン……!


 静まり返った闘技場に、男の身体が地面に打ち据えられる音だけが響く。


 皆、言葉を忘れたかのように静まり返っていたが……ごくりっ、という実況者の喉を鳴らす音が、沈黙を打ち破った。



『こ……これは……大変なことになってしまいました! 飛び入り参加者は全滅、最後に残ったのはなんと、罪人のタクミクンです……! 結闘の儀の決まりによると、身分にかかわらず最後に立っていたものが勝者となります! が……罪人は前代未聞っ! このダリス・バンディの国の歴史においても、初めての出来事ですっ……!!』



 闘技場内を、どよめきが支配する。



「そ……そうだ……! ワシは長いあいだ、この闘技場でいろんな戦いを見てきたが……罪人が生き残るだなんて、初めてのことだ!!」



「罪人はいつも真っ先にやられちゃうもんなぁ!」



「だったらなんで、アイツは生き残れたんだよ!?」



「ただ、運が良かっただけだろ!!」



「繰り上げ選抜の勝者は誰になるんだ!? まさかあのタクミクンか!?」



「まさかそんな! アイツは罪人なんだぞ!? そんなヤツが『結闘の儀』に参加するなんて、ありえねぇよ!」



「でも普段の闘技場は、罪人でも当たり前に戦ってるじゃねぇーか!」



「どんな理由があれ、最後に残ったヤツ……一番つええヤツが一番になるのが、この国の掟だ!!」



「そうだそうだ! それに俺は、タクミクンが『結闘の儀』でブチ殺される様を見てぇ!」



「お……俺もだ! あのスカしたヤツが、臓物を引きずり出されてどんな表情になるか、見てみてぇ……!」



「まったくだぜ! 処刑なんかで終わらせてたまるかよ! 俺はタクミクンを支持するぜ!」



「いくらアイツでも、『結闘の儀』の参加者には勝てねぇよ! タクミクンを出せぇーっ!!」



「そぉーれっ! タクミクン! タクミクン!! タクミクンっ!!!」



 そして巻き起こる、俺コール。

 いままで何度か声援を受けることはあったが、こんなに嬉しくねぇコールは初めてだ。


 男臭くて暑っ苦しいし、なんたって俺を応援してるわけじゃなくて、死に様が見たくて言ってるんだ。


 ひとり嫌な気持ちになっていると……急にピタリと声がやんだ。

 観客はみな、VIPルームのほうに注目している。


 立ち上がったオッサンが、静まれとばかりに手をかざしていたんだ。

 知らないオッサンだったけど、身なりからしてすぐに権力者だとわかった。


 たぶんアイツが、ダリス・バンディの王なんだろう。

 VIPルームでも最上段に座っており、クーレ先生の父親であるダリス・フェミナの王より上の位置にいる。


 この闘技場の全権を持つであろう王は、集まった民に向かって高らかに叫んだ。



「……力こそが、すべて!! このダリス・バンディの、建国から現在まで貫いてきた理念であり、なによりも尊重されなければならぬ、すべての(いしずえ)……!! 照らし合わせて考えれば、最後に残ったのが罪人であろうとも、力がある者であれば勝者とするのが道理となる……!! かくいうワシも、奴隷から身を立て、この国の王となった……!! よってタクミクンを勝者と認め、『結闘の儀』への参加を認めるものとするっ……!!」



 しばしの沈黙の後、どわわあああーーーーーっ!!! と湧き上がる場内。

 宣言を終えた王は、阿修羅みたいな厳しい表情で俺を見下ろしていた。

次回、愛の戦士が闘技場に降り立つ…!

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