06 弾丸の嵐
「な……なんだよ……マジになってんじゃねぇよ……きめえんだよ……」
俺の睨みを受けたチャラ男は、一歩後ずさる。
無言のまま一歩、距離を詰めなおすと、
「ひ……ひっ……!? く、来るなっ!?」
あっさりと強気の仮面が剥がれた。
チャラ男は後ずさりながらサーベルを投げ捨て、腰のホルスターから短銃を抜こうとする。
装飾でゴテゴテなので途中で何度もひっかかり、挟まった服ごとビリッと引っこ抜いていた。
「コイツが見えるか!? 『クーゲル』だ! 超イケてんだろ……!?」
ボロ布が付いていて台無しだったが、チャラ男は俺に銃を向けた途端、余裕を取り戻した。
「へへっ、ビビっちまって、声も出ねぇってか。コイツは名銃『ティアドロップ』……! コイツの前では、どんなヤツでも涙を流すんだ……!」
そして聞いてもいないのに、銃の自慢話を始める。
「男の頭に突きつけてやりゃ、どんな大男でもひざまずいて、泣きわめいて命乞いをする。そして女には、コイツの先っちょでアソコをほじくってやんだよ……そうすればどんな女でも、よがり泣く……!」
本当に下ネタ好きだな、コイツ。
「さぁ、来いよ……! そしたら二匹とも、泣かせてやっからよぉ……!」
挑発的に差し伸べられた手が、クイックイッと動く。
来るなと言ったり、来いと言ったり……忙しいヤツだな。
呆れた俺は、シャラールみたいに鼻息を返してやった。
「フッ……やっぱりお前は、男の風上にも置けねぇヤツだな……。モノに頼らねぇと、女ひとり満足させられねぇなんてな……。俺なら指一本で、コイツを天にも昇る気持ちにさせてやれるぞ……なぁ?」
俺は、腕の中にいるシャラールに同意を求めたが、「なに言ってんのコイツ」みたいな顔をされてしまった。
しょうがないので、腰に回しているほうの手で、ツボを押してやる。
「そうだよな? ……なっ?」 ぐいっ
「あんっ!?」 びくんっ!
可愛い声で返事をしてくれた。
思わず出てしまった声が恥ずかしかったのか、シャラールは真っ赤になりながら手で口を押さえる。
チャラ男はというと、銃口がぶれるくらいに怒りに震え上がっていた。
「……ぐぎぎぎぎ……! 俺をここまでナメやがったのは……お前が初めてだぜ……! 炎に包まれて……踊りながら死にやがれっ!!」
ヤツの引き金にかけられた指が、ゆっくりと動く。
しばらくして、判決を下す木槌のような音とともに、撃鉄がおりる。
銃口から炎が噴出する様を……俺は儚い線香花火のように眺めていた。
バシイッ!!
刹那、発射された魔法弾は、俺の右手におさまっていた。
正確には、飛んできた弾を俺がキャッチしたんだ。
魔法弾というのは薬莢の形をしているんだが、薬莢自体は発射後に燃え尽きる。
だから銃口から出てくるのは純粋な魔法のみ。炎の弾丸なら、火の玉が飛んでくるようなもんなんだ。
だから、俺の右手にある……青い魔法猫、『ディスペルシャ』のヒゲが織り込まれているグローブで……受け止めることができるんだ……!
ちなみに左手は、物理攻撃の効かない赤い鳥……『アブソーバード』の羽根が編み込まれてるんだが、いまはシャラールによって封じられている。
「な……なにっ!?」
俺の曲芸じみた弾丸キャッチに、腰を抜かしそうな勢いで後ずさるチャラ男と、ざわめく観衆。
「だ……弾丸を、受け止めたぞ……!?」
「くらったら、火だるまになるはずの弾なのに……鋼鉄の鎧や盾でも、延焼して大変なことになっちゃう弾なのに……!?」
「でもあの人、片手で握りつぶしちゃったよ……!?」
「ゆ、夢でも見ているのか……!?」
俺は恐れおののくような声を聞きつつ、チャラ男に向かって歩いていく。
「どうした? 泣かせてくれるんじゃなかったのか?」
「ひいいっ!? く、来るな、来るな、来るなぁぁぁぁっ!!」
化け物でも見るかのような怯えきった顔で、銃を乱射するチャラ男。
……ダン! ダン! ダァンッ……!!
スローモーションで撃ち出される、赤い弾、青い弾、黄色い弾。
火炎弾、氷結弾、電撃弾か……と俺は心の中でつぶやく。
バシッ! バシッ! バシィィィツ!!
弾けるような音とともに、三連射を受け止める。
「う……ウソだっ! ウソだっ! ウソだあああああっ!? 魔法使いのババアから奪った銃が、効かないなんてっ!? 百人の兵士相手でも、これがあれば負けなかったのに!! ありえねぇ!! ありえねぇんだよぉぉぉぉっ!!」
とうとう泣き出すチャラ男。
駄々っ子みたいに顔をイヤイヤと振って、涙と弾を撒き散らす。
雨のように迫りくる色とりどりの弾をさばきながら、俺は「いや、効かなくはねぇよ」と内心思っていた。
身体に当たれば、他のヤツらと同じように火だるまになるし、凍りつくし、痺れる。
見切って全部止めてるから何ともないだけなんだが……実をいうと、それすらも俺本来の能力じゃねぇんだ。
『バレットタイム』……覚醒系のホルモンを刺激して、弾丸ですら遅く見えるようになるツボを押してるんだ。
「う……うそ……弾が……シャボン玉みたいに……ゆっくりに……見える……!?」
俺の隣で、キツネにつままれているような声がする。
さっき、シャラールにも同じツボを押してやったんだよな。念のために。
俺は、パニック気味のチャラ男に対し、じりじりと距離を詰めていく。
その最中、ガンガン飛んでくる弾のうち、いくつかを手ではたいてチャラ男の手下どもに当てた。
手下どもはチャラ男を援護するべく、ステージにあがろうとしているのだが……俺がはじいた弾に当って次々と燃え上がり、凍り付き、痺れていく。
チャラ男がそれに気づいて、撃つのを止めたらヤバかった。
さすがに大勢と接近戦をしながら、弾丸を受け止めるのはハードすぎるからな。
「や……やめっ! 撃つのをやめ……ギャアアアアアアアアアアアーッ!?」
「でないと、近づけませ……ウワアアアアアアアアアーーッ!?」
部下たちも懇願しているのだが、恐怖に煽られたチャラ男の耳には届いていない。
俺は、ボスが次々とパスしてくれる弾丸を、さらに雑魚にパスしてやった。
ステージの下は、魔法弾を受けた雑魚どもが苦しむ姿で、地獄絵図のようになっている。
ダンスをさせられていた参加者はすでに避難しており、遠巻きに戦いの様子を見ていた。
「す……すごい……魔法弾を跳ね返して、他のヤツに当てるなんて……!」
「あんな戦い方、見たことねぇぞ!?」
「そりゃそうだろ! あんなこと出来るやつ、この世にいるか!?」
「いねぇよ! でもあそこにいるだろ!! 弾丸をお手玉みたいに軽々と扱ってる、とんでもねぇヤツが!!」
「見た目はさえない少年みたいなのに、弾丸が効かないって……どんな超人だよ……!?」
ステージの端まで追い詰められたチャラ男は、とうとう足を踏み外して転落した。
これでようやく大人しくなるかと思ったが、
「ウギャアッ!? う……うわあああああっ!? ま、ママァーっ!!」
四つん這いのまま逃げ出した。
無駄なあがきを……と思っていたのだが、
「な、なによアイツ!? 異様に逃げ足はやいわよ!?」
シャラールも目を剥くほどのスピードで、ダンス会場から逃げ出すチャラ男。
野犬狩りから逃れる野良犬さながらだった。
「このままじゃ逃げられちゃうわよ!? なんとかしなさいよっ!!」
シャラールから急かされて、俺は頭をフル回転させる。
追いかけてもいいんだが、二人三脚状態で追いつけるとはとても思えない。
街にいる人に呼びかけて、捕まえてもらうのは……ダメだ、相手は銃を持ってるキチだ。
もはや……俺じゃどうしようも……いや、まてよ。
名案を思いついた俺は、背中のリュックにくっつけてあったアーチェリーを取り出し、シャラールに差し出した。
「これで……ヤツを撃つぞ!」
次回、決着!
シャラールがついにデレるので、ご期待ください。




