05 ダンスパーティ優勝、そして……
噴水のまわりを回遊魚のように、一定の方向に向かって踊り続ける若い男女たち。
その間をぬって、俺はシャラールをリードする。ふたりのダンスのはじまりだ。
つないだ両手を広げて優雅に回ると、シャラールの金色のツインテールがなびき、フェアリーテイルのような燐光があとを引いた。
「わぁ……きれい……」
「なんて、華麗で優雅なの……」
「誰……? この街の人じゃないよね……?」
「きっと、どこかの貴族のお嬢さんよ……」
周囲の羨望のまなざしが集中する……といっても、話題の中心はシャラールだ。
まぁ、コイツは容姿端麗が多いとされる森林族のなかでも、群を抜くほどの美形だからな……無理もねぇか。
俺だって、未だにコイツに直視されるとドキッとするし……こうしてダンスしてるときも、まるで妖精の王女みたいなオーラがある。
「……あら、アンタ、なかなかやるじゃない」
長い耳をピコピコさせながら、楽しそうに踊りあそばされる王女様。
身に余るお褒めの言葉をいただいた。
「まだまだこれからだ……そらっ」
俺は華奢な腰をぐっと抱き寄せて、さくらんぼのように色づき始めた頬に、顔を寄せる。
意図を察したのか、シャラールはイナバウアーみたいに身体を大きくのけぞらせた。
そのまま仰向けになって、空を泳ぐかのように……地面から両足を浮かせるシャラール。
支えとなるのは、腰に回している俺の手だけ。
ちょっと間違えば背中から地面に叩きつけられる、危険な大技だ。
でもそれが効いたのか……それまでヒソヒソ話くらいだった周囲の声が、歓声へと変わった。
「ええっ!? うっそぉ……!」
「街のダンスで、あんなすごい技が見られるなんて……!」
「男のほうがちょっとでも間違えば、大怪我するぞ……!」
「きっと男の人を、信じてるのよ……!」
「ああっ、素敵……! お互いを心の底から信じあっている……本当のパートナーなのね……!」
「わたしも、あんなパートナーがほしい……!」
もはや踊ることも忘れて、俺たちのダンスに見とれる参加者たち。
それは主催者であるボスも同じだったようで、瞳孔の開ききった目で俺たちを凝視している。
ヤツは最初は、成金趣味っぽい金色の椅子にふんぞり返って眺めていたのだが……俺たちのダンスで前のめりになり、ついには興奮が抑えきれない様子で立ち上がっていた。
「すっ……すげええええええええええーっ!! マジ、マジやばくねぇぇぇぇぇぇっ!?」
やたらハイテンションで叫んだあと、
「はいっ、決まりぃーっ!! そこのペア、優勝っ!! マジ優勝っ!! もう、ぶっちぎりで……!! おい、こっちあがってこいよ!!」
指をクイックイッとやって、俺たちを呼ぶ。
シャラールはまだ踊り足りないようだったが、俺はなだめつつステージの上にあがった。
なんたって俺たちは踊りに来たわけじゃなくて、ダンスにかこつけてボスに近づくのが目的だったんだからな。
ステージで俺を迎えてくれたのは、他のペアからの盛大な拍手と、ボスのチャラ男だった。
「スゲーよマジで! 超イケてんじゃん! ……兄ちゃんのほうはまぁ、あんまりイケてねぇけど……」
俺を頭のてっぺんから足のつま先まで、品定めするようにジロジロ見るチャラ男。
金髪のウルフカットに、黒いジャケットを着ているホストみたいなヤツだ。
……なんでこういう人って、先の尖った靴を履きたがるんだろうね?
でもそんな格好しているのに弾帯とガンベルトを巻いていて、腰にサーベルを差しているのがアンバランスだ。
俺のファッションチェックを適当に終えたチャラ男の興味は、シャラールに移る。
「こっちのギャルは超イケてんじゃん! このダンパはさ、俺のセフレ兼ダンスパートナーを探すためにヤッてんだよね! アンタならセフレどころか本命にしてやんよ!」
言うなり、ぐいとシャラールの腕を掴んだ。
その瞬間、脊髄反射のような罵倒が、ギャルマウスから飛び出す。
「誰がアンタなんかと! アンタなんか、本命どころか大穴以下よ! その汚い手を離しなさいっ! でないとその脚へし折って、出走停止にしてやるわよっ!!」
こんな時のシャラールは、実に語彙が豊富だ。
でも、チャラ男には効かなかった。むしろ喜ばせてしまったようだ。
「おおっ!? うぃーねぇー!? じゃじゃ馬ほど、乗りこなす楽しさがあるってもんだ! 無理矢理またがって、こう……!」
さっきからチャラ男は、シャラールの腕を力ずくで引っ張っているのだが……シャラールの手は俺とくっついているので、抱き寄せられずにいる。
そうとも知らずに、下ネタとともに夢中になって腰を振っていた。
しばらくして、ようやく気づいたようだ。
「……って、何やってんだよ!? 手ぇ離せよ、オイ! ……もしかしてウケ狙いかぁ? スベってんだよ!」
「俺は、なんにもしてねぇよ……」
俺は、くっついて離れないほうの手の指を、ワキワキさせながら続ける。
「でも残念だったな、コイツはどうしても、俺から離れたくないんだってよ」
そして奪い返すように、シャラールを引っ張って抱き寄せる。
「きゃっ」と小さな悲鳴とともに、チャラ男の手を離れて俺の胸に飛び込んでくるシャラール。
「それに、あいにく俺も……コイツを離す気はねぇんだ」
俺の胸の中で、息をのむ声がする。
「えっ……ええっ!? た、タクミ、あああ、アンタ、いきなりナニ言って……そりゃ、アタシだって……でも……心の準備が、まだ……」
俺の胸の中で、うろたえる声がする。
「って、そうじゃない! い、いや……そ、そうよ! アンタみたいな種馬に乗るくらいだったら、たとえ貧相でも、タクミのほうがまだマシよ!! で、でも、本当はどっこいどっこい……どんぐりの背比べなんだからね!!」
シャラールはひとりでアタフタしたあと、よくわからない罵声を浴びせた。
その言葉がよっぽどショックだったのか、チャラ男の日焼けした顔はみるみるうちに赤くなっていく。
さっきは怒らなかったのに、俺と同レベルだと言われて怒るだなんて……失礼じゃねぇか?
「この俺が、こんなキメぇの以下だとぉ!? ビッチがぁ! 死ねよっ!!」
なおも唾を飛ばしながら罵倒するシャラールに向かって、一歩踏み込んでくるチャラ男。
俺はとっさにシャラールの身体を下がらせ、半身で覆うようにしてかばった。
シャキィィィィィーーーーーーーーーーーンッ!
直後、チャラ男のサーベルが一閃する。
俺の頬から、パツンと弾けるような音がした。
そして、あたたかくてどろりとした感触が、アゴを伝う。
斬られちまったみてぇだ……だがそんなことは、どうでもいい。
俺は、ヤツを視線で殺すつもりで、ギロリと睨みつける。
「……テメェ……思い通りにならねぇ女を斬ろうとするだなんて……男の風上にも置けねぇヤツだな……!」
次回、ラブシュート炸裂!




