70 ハードスケジュール
ホテル内に出店しているグルメ食堂のレストランでの昼食を非常に満足したエリン達は食事の後にローグの街を見て回ることにした。
リュウはこの後いろいろとやらないといけない事があるので案内はナターシャにお願いした。
リュウは明日の会合の昼食の段取りをしなくてはいけないのでグルメ食堂のオフィスへと赴いた。そこでパトリシアと軽く打ち合せをした後に今度はモノローグへと足を運んだ。
グルメ食堂のオフィスに居た時間はほんの十分程度だったのでパトリシアは少し不満気味であったが、リュウはこのあともスケジュールが詰まっていたのでまた近いうちにと言いながら足早に去って行った。
モノローグ本社ビルではなく、職人達のいる工房へと向かったのだ。
特に事前告知をしていた訳ではないが、リュウの顔を見つけた職人達が集まってきた。職人達のリーダーであるモノローグ工房の社長であるジャンもその中にいた。
リュウは海底トンネルの計画図のプロットアウトをクラリスにしてもらい、出来上がった図面を持って工房の職人達を集めた。
考えている計画を職人達に話し、実現が可能かどうかをいくつかの技術別に得意とする職人達とやりとりを行ったのだ。
結論としては今や高層ビルを建設できる程の技量のある職人達だ。不可能と言う筈がない。但し、実際にトンネルを掘るのは地下2500メートルとなるので酸素の供給や安全策などを考えなくてはならない。魔法で出来る部分はやるのだが最終的には職人技で人の手を加えないといけないのはいつの時代でも同じだ。
社長のジャンに人や材料の手配を進めておく様に伝えた。正式には明日、領主達の承認を経てなのだが、リュウにはあまり時間がないので先行して指示しておくのだ。
『伯爵様、また新しい取り組みですね。いつも予想を遙かに超えるものをお考えなので度肝を抜かされますよ』
『今回はかなり大規模な工事となる。これが成功すれば今まで交流が出来なかった南の大陸と行き来が出来るんだ。偉業と言ってもいいくらいの重要な仕事だぞ』
職人達もリュウの計画を聞いて俄然やる気になっている。
そして、職人達が南の大陸との交流で一番期待している事と言えばやはりドワーフとの交流だろう。伝説の鍛治職人であるドワーフと会えるとあっては張り切らない訳にはいかないのだ。
ここにいるとリュウは時間を忘れてしまいがちだ。職人達と技術的な話をしはじめると中々止まらなくなる。だが、今日はこの後も予定が詰まっているので又の機会とする事に。
モノローグ工房を出て次に向かった先が軍の施設だ。
リュウは各拠点を移動するのでなく転移をして瞬間的に移れるので時間的なロスがなく今日みたいな移動の多い時には助かる。
軍の作戦会議室へと足を運んだ。そこには軍務大臣と軍の任務で各国に偵察に出ていた諜報部隊のクリフと紅部隊のユリンが席に着いていた。
『遅くなってすいません。いろいろとやらなくてはいけない事が多くて』
まずはリュウは大臣に待たせてしまった事を謝った。
『いや、無理もない。今朝方まで南の大陸に居たとタイラ伯爵がこうしてこのローグに戻っているだけでも奇跡と言えよう』
『はい。今回は使節の客人も一緒なので何かとやることが多くて。明日の会合の段取りをしていました』
『まあ、ローグはもとよりこのマキワはタイラ伯爵あってのもの。誰も伯爵が時間に遅れたとて怒る者はおるまい』
『お言葉に甘えさせていただきます。時間も無いので手短にさせてもらいます。
今回の偵察任務での各国の動向についての報告と今度の対応についてです』
『それではイスタスを偵察した私から報告させていただきます』
先ずはガゼフ帝国と敵対する国、イスタスに向かった諜報部隊長のクリフが報告した。
『イスタスとガゼフ帝国の争いはここ数か月休戦状態にありました。理由としてはガゼフ側の国境付近の防衛線が後退したことにあります。イスタスとしても不毛な戦いは避けたいため追従することはしなかった様です』
『やはりガゼフとしては両国相手は厳しいのでマキワに集中させたという訳か。それでイスタス内で魔族に関する不穏な動きはなかったか?』
『はい、魔族らしき者の気配を見つけることが出来ませんでした。イスタス内では戦争を終結させたい勢力が強くなっており、停戦協定を結ぶための交渉人をガゼフ帝国に送っているとの情報もありました』
『なるほど。それでイスタスではマキワに対してどういうスタンスなんだ?』
『それに対しては情報がないと言うよりもイスタス民にとってマキワは関心の無い国という感じでしょうか。隣国ではないためマキワの存在を知る者が少なく話題になっておりません』
『わかった。クリフ、いろいろとご苦労だった。それでは続いてユリン、ランドワープ王国の動向はどうだった?』
ランドワープ王国の偵察をしてきたユリンが答えた。今日は軍務大臣も同席しているのでいつもの砕けた口調でなくちゃんと部下が上官に行うものだ。
『こちらも特に不穏な動きはありませんでした。ただ、貴族社会が強く農民達は重税に不満を持っており、反乱が近いうちに起きるかも知れません』
『内乱の兆しか・・・魔族に付け入られるとしたらそこかも知れないな。主導者とかはいるのか?』
『いくつかの大地主が集まって準備をしているという情報を得ました。時期についてはわかりませんが、賛同者の集まり具合次第かと思われます。現状まだそれほど多くは集まっていないみたいです』
『そうか。だが、内乱が起きたら隣国であるマキワに難民が流れ込んでくる可能性はあるな。ランドワープとの国境付近の警備を強化する様に指示しよう。
ユリンもご苦労だった』
『それにしても伯爵様。我々が偵察に出ている間にマキワでは魔族の侵攻を受けていたと聞きました。大変な事態に不在にしており歯がゆいばかりでした』
『私もみんなの事が心配で居ても立ってもいられなかったよ』
クリフが魔族の侵攻を偵察地で聞き何も出来ないことに憤りを感じていたのだ。
ユリンも家のみんなの安否が心配だった。
『まあその件はローグの皆の協力で解決できて幸いだった。
これからは南の大陸との交流が始まる。諜報活動も南の大陸も対象となるので今まで以上に活躍してもらう事になるのでよろしく頼む。具体的な活動については明日の会合で承認後に決めていくつもりだ』
リュウはまだ情報の少ないドワーフや獣人族の領域について情報収集を行う予定でいた。渡航できるのがトンネルが開通してからなのでまだ少し先の話となる。
軍での報告内容をまとめてリュウはギルドへ向かった。




