69 謁見
リュウ達を乗せたエレベーターは18階のゲストルームのあるフロアへと移動した。みるみる上に上がっていくにつれ周りの建物や景色が小さくなっていく。初めてみる景色にエリンやメアリーは唖然としていた。
ナターシャも新しい官邸に来るのは初めてで、この上階からの景色を見るのも当然初めてなので彼女も驚きの顔で景色を眺めている。
『この領主官邸はローグの市街を一望できるんだ。ローグの街中のどこに居てもこの建物が見えるので、ここを目印にすれば迷うことはない』
『あなたが来てからまだそれ程も経っていないのに、この街の変わり様は私の生きた500年で最大のものだわ』
ナターシャは今まで変化が殆どなかったこの世界の生き証人の様なものだ。それがこの短期間でこれだけ変化をもたらすとは思ってもいなかったのだろう。
『いや、まだ序の口なんだけど。まだやろうとしていることの半分も出来てないんだ』
『あなたの住んでいた世界ってそれ程進んでいたって事ね』
『まあ、文明が発達しているから幸せとは限らないさ。自然と共存できる環境がないと環境破壊へと繋がり世界の破滅へと向かうからね』
リュウは自分の世界で起きていた温暖化や化石燃料の枯渇、砂漠化などの諸問題は解決していなかったことを思い出していた。
エレベーターが18階へと着き扉が開いた。
18階は迎賓用のフロアであるため装飾もそれ用となっている。
床は毛足の長いカーペットが敷かれている。色はエンジ色だ。
扉の向こうでは執事が待っていた。
『ようこそお越しくださいました。主人がお待ちしております。どうぞこちらへ』
仰々しい挨拶の後、方向転換をした執事は一行を領主の待つ部屋へと案内した。
執事がドアを開けるとゲストルームで待っていた領主が現れた。
『ようこそ、マキワへ。遠路遥々お越しいただきました。私がマキワ領主兼国王のケヴィン・マグワイヤーです』
領主の名前、そんな名前だったんだな。リュウは普段領主としか呼んでいなかったため名前を失念していた。
『お初にお目に掛かります。エルフ族長老の孫娘のエリンと申します。両親が別の集まりに遠方へ出ているため、長老の命で私が使節としての役を賜りました』
『はじめまして、国王様。精霊の森の守り人、フェアリーのメアリーと申します』
『ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私は今まで人の種族の来訪しかありませんでしたが、エルフとフェアリーの方が来られるとは思いもよりませんでした。さあ、どうぞ、そちらへお掛け下さい』
領主はエリン達をソファーへと案内した。
ソファーは柔らかい革でできた高級なものだった。座り心地もフワフワしており、エリンは持って帰りたいと思ったくらいに座り心地を気に入っていた。
メアリーは座る椅子がないと思ったらリュウがメアリー用に小さな椅子を作っており、エリンのテーブルの斜め前に椅子を置き腰かけた。
メイドがそれぞれのテーブルの上に紅茶とケーキを用意した。
『どうぞお召し上がり下さい』
領主に勧められるがままに用意されたケーキを口にした。
『!?これ、すごく美味しいです。こんなに美味しいものは初めて食べました』
『お気に入っていただけた様で何よりです。このケーキはローグの名産となっています。タイラ伯爵のところで作られているのですよ』
ケーキの味も驚いたが、ケーキがリュウの会社で作られているという事にも驚いた。このローグに来て全て見る物がリュウに関わっているみたいでリュウの偉大さを見せられた様な感じだった。
『気に入ってもらえたのなら後でいろんな種類のケーキを届けましょう。
それで、領主様。今回の来訪については先にお伝えさせていただいておりますが、南の大陸でも魔族の不穏な動きが出ております。
今回は何とか対処が出来ましたが、今後全てが防げるとは思えません。今まで北と南の大陸は交流することが物理的に不可能でしたが、今後は流通や交流のためにお互いが行き来し、魔族に対しても団結して対処をすることが必要と感じております』
『うむ、婿殿・・タイラ伯爵から報告があった時には非常に驚いた。我々にとって南の大陸とは未知なる世界と同様だったのでな。しかし交流が出来るのであればすばらしい事だ。
それで、タイラ伯爵。交流するとしても南北間の海流があるのは存じておろうが、如何にして行うのだ?』
『はい、簡略に申しますと地下にトンネルを掘って大陸間を繋げるものです。私の居た世界では現実的な手法でした』
『トンネルとな・・・想像がつかないのだがタイラ伯爵が自信を持って言うのであれば実現可能なのであろう』
『南の大陸からの使節の方も来られていますので今後の外交も含めて明日にでも主要者会議を開催できませんでしょうか』
『そうだな。皆の意見を聞いて進めるといいだろう。わかった。私から連絡をしておこう。時間は・・・そうだな、昼食会も兼ねてお昼としよう』
『承知しました。それでは昼食のランチはグルメ食堂の方で腕によりをかけた品を用意いたします』
『おお!それは楽しみだ。宜しく頼む婿殿』
一行は領主への挨拶を済ませると迎賓用の宿泊施設へと案内された。
宿泊施設は官邸の3階部分となっている。1階から3階はホテル施設となっており、宿泊のみでなく、飲食店や洋品店など多くのテナントが入っている。
『ねえねえ、さっきグルメ食堂って言ってたけど、それって何?』
エリンが先程の会話で疑問に思っていたことをリュウに聞いた。
『ああ、グルメ食堂とはこのローグで一番人気のレストランだよ。レストランだけでなく、食材や調味料も売ってるぞ。帰りにお土産として買っていくといい』
『そして、そのグルメ食堂のオーナーも伯爵なのよ。ホントどれだけ幅広く手を出せば気が済むのかしら』
『ええ?そうなの?もしかして私ってとんでもない大物に立候補してたの?』
エリンがローグでのリュウの活躍ぶりを知って少し尻込みをしていた。
明日の昼食までは自由時間なので好きに行動することにした。
ちなみに今の時間は昼食の少し前だ。ホテルのチェックインを済ませた後でホテル内にあるグルメ食堂で昼食を取ることにした。
リュウは話が大袈裟になるといけないので変装をしてお忍びで店に入った。でないとパトリシアが飛んで駆け付けてくると思ったからだ。
ホテル内に出店している店だけあってエルフやフェアリーといった見たこともない種族が来店してもキチンと接客するあたりは流石だ。
とはいえ、一見での来店だと不都合があるといけないのでリュウの名前で紹介状を作って渡していたからというのもあるのだが。
みんなそれぞれの品を注文して食べたのだが、あまりに美味しくて体の細さに似合わずお替わりを注文していた。
エリンもメアリーも大満足だった。明日はこれ以上の物が食べれる事に大いに期待した。




