68 二人の使節
結局、クラリスと今後の対応について話をしていたリュウは一睡も出来ずに翌朝を迎えた。仕方がないので養仙桃を食べて体調に影響が出ないようにした。
朝食を済ませた後、エルフの長老への挨拶を済ませてローグへ帰還した。
長老からは見聞を広めるためと今後の交流を視野に入れてエリンを連れて行って欲しいと懇願された。フェアリーのメアリーも同行を希望しており、2人を共に連れて行くことにした。
リュウは今後、北の大陸と南の大陸を海底トンネルで繋ぎ、交流をもたらすという目的があるため、早い段階から親睦を深めておく事はメリットがあると感じたからだ。
但し、エリンにおいてはローグ内でリュウの妾を希望しているということは一切口にしない様に釘を刺している。クリスや重鎮の耳に入ると最悪不敬罪に問われる恐れがあるからだ。エルフから使節という役割であることを認識して行動する必要があるのだ。
リュウにしてみればこれ幸いだった。エルフの長老の命が何よりも優先されるのでエリンが暴走する心配をしなくていいからだ。
エリンとメアリーについては正式な入国手続きが必要なのでローグの正門からの入門となる。
リュウは3人を連れてローグ正門前へ転移した。
『うわ~、何これ?石の壁?すごく大きい!』
『この壁、向うの方に見えなくなるまで続いてますよ!?』
はじめて見るローグの防壁にエリンとメアリーが目を丸くして驚いた。2人が特別でなく、初めてローグに訪れる者はその大きさに必ず声をあげて驚くのだ。無理もない。この防壁は正門から左右に2.5キロメートルも続くのだから見渡す限り石の壁となって目に映るのだ。
リュウは門兵に近づき挨拶をした。
『これはタイラ伯爵。お疲れさまです』
『この方達は南の大陸からの使節の方です。入門の手続きをお願いします』
『はい、官邸より連絡が入っております。それ程時間は掛かりませんがしばらくお待ちください』
リュウはクラリスを通じて今回の訪問の主旨を領主に伝えており、事をスムーズに進めるべく手を回していたのだ。
『ええ、エルフ族のエリン様とフェアリ族のメアリー様ですね。こちらがこの国での通行証兼身分証明書となります』
門兵もエルフやフェアリーを見るのが初めてなので通常の対応よりも緊張をしているのが感じられた。無理もない。エルフは耳以外は人間と変わりないが、フェアリーに関しては伝説やお伽噺でしか知らない存在なのだ。小さな妖精が羽をパタパタさせて飛んでいれば初見は誰でも驚くだろう。
二人のために予めパスポートの様なものを用意しておいた。何しろ南の大陸から正式な訪問など初めての事なので何事も前例がないので都度考えなくてはならない。その辺については外交慣れしているリュウがいろいろと官邸にアドバイスをしている。
メアリーはパスポートは体より大きいのでリュウが預かっている。
『あななたち、この中はすごく珍しいもので一杯だと思うけど、はしゃぎ過ぎて迷子になったら駄目よ。もし迷ったらギルドを訪ねて来なさい』
『『はーい!』』
ナターシャの忠告に素直に返事をする二人だったが、早く中に入りたくてうずうずしおり子供の様だった。見た目は若いが二人とも既に成人をとっくに過ぎておりリュウにはその反応がすごく滑稽に見えた。
『ここからは自家用車で行くから』
リュウはそう言うと空間ポーチから自家用車を取り出した。
ホバーを改良し、乗用車としたものだ。
ローグでは既に乗り物としてホバー型の乗用車や運送用のホバー型トラックが使われている。まだホバーが世に出て一ヵ月も経っていないというのに凄い普及速度だ。それもリュウがこうなることを良そうして道路を人と車の区分を行い、幹線道路と生活道路を区画整理した上でアスファルト舗装をしていたためでもある。
リュウの自家用車はセダンタイプの対面6人乗りだ。自動運転なので運転席は付いていない。
『わあ!見てみて!この馬車浮いてるよ!それに馬も居ないし御者もいないわ!』
『私達が乗っても沈みませんか?不思議ですね?』
エリンとメアリーはまたもや驚きの隠せなかった。この先何度驚くことだろう。リュウとナターシャは苦笑いで二人を見守っていた。
リュウはホバーカーの行き先を領主官邸へとセットした。
行き先をセットされたホバーカーはゆっくりと走り出した。
普及してきたといっても広大なローグの街にはまだそれほど走っているものではない。街を歩いている人でも珍しくて眺めている人もいるのだ。
通常は乗り合い型のホバーバスやタクシーを利用して効率的に回している。貴族や役人の一部には個人用のホバーカーが割り当てられている。
ホバーカーの車窓からはローグの街並みが見える。向かう領主官邸はローグの街の中心にある城の中にある。
城のあった場所は旧ローグ市街で既にほとんどが新市街へ移転したので取り壊しを行い城に建て直しを行っていた。
城は高層20階建てのビルディングとなっていて3階部分までを幅広くとり、4階から20階までをタワー状にしている。
最初はリュウが鉄筋コンクリート建設のノウハウを職人に教えていたが、ここローグの職人達の職人魂はすさまじく、より良い物、より高い技術へと研鑽し、今では完璧なまでに高層ビル建築を行っている。リュウの居た世界の様に大型クレーンとかがこの世界には無いが、20階までなのでそれ程困ることもなく、下層階からの積み上げでこなせている。
リュウもこのところ忙しく城の完成をじっくり見た訳でないので目の前に見える城の完成度に驚かされた。
城の入門ゲートにホバーカーを止めて警備兵にIDを渡して通過した。
IDは識票とも連動しており、偽造することは不可能に近い。
先般の魔族襲来の教訓で潜伏を計ることを想定してセキュリティレベルを強化させていた。
地下駐車場にホバーカーを停めて一行は官邸へと続くフロアまでエレベーターで移動した。
『もう驚く事にも疲れました。ここは異世界なのですか?あまりにも文明が違い過ぎます』
エリンが目に入るもの全てが想像を越えているため驚く感覚がマヒしかけていた。
10階のフロアが領主官邸のロビーになっている。
エレベーターを降りた一行は来賓用の待合室のソファーに腰かけた。
一行に気付いた警備員が足早にやってきた。
『タイラ伯爵、お疲れさまです。領主様がお待ちしております。ゲストルームの2番にお越し下さいとの事です』
『了解しました。さあ、みんな、領主様がお待ちだ粗相のない様にな』
リュウに先導されてエリン達はゲストルームのある18階へとエレベーターで移動した。




