その5 アジト
小屋に到着すると、すぐにライアがオイルランタンを点けてくれた。電球の灯りに慣れてしまっているアリアにはかなり暗い照明だが、もちろん文句など言えない。
「アリア、足元気を付けて。段差があるから」
「うん……ありがとう」
ディアがアリアの前に立って案内をしてくれた。アリアは華奢な身体を更に小さくしながら、小屋の中へと足を踏み入れた。この粗末な空き家が彼らのアジトであり、今日からはアリアにとっても『家』となる場所だ。
決して歓迎されている訳ではない。だが、リーダーであるライアが『アリアを仲間に加える』旨をはっきり皆に告げると、それ以上は誰も異議を唱えなかった。ゼットですらも。
「こんな感じでいいー?」
「おー充分だろ、そんなもんで。要するに、そっち側が見えなくなればいいんだから」
小屋の中には、部屋が二つ。一応、『居間』と『寝室』らしい。だが、二つの部屋はゆるく区切られているだけで扉もなく、当然プライベート空間などというものは存在しない。アリアが着替えをするにあたって「さすがにこれはまずい」という話になり、急遽赤髪の少年――キャティアが棚から古布を引っ張り出して、部屋の境目部分に吊るしてくれたのだ。
「まさか女の子がうちに入るとか、思わなかったもんなぁ」
踏み台から床に降りながら、キャティアはぼやくように呟いた。責められているわけではないが、何となく申し訳ない気持ちになる。今までは少年だけで気楽に暮らしていたのだろう。アリアが入ることで、彼らにはいろいろな面倒をかけることになる。
「アリア」
名前を呼ばれて顔を上げると、ライアが手に布のようなものを持って、アリアへ差し出してきた。
「これに着替えて。一応、ちゃんと洗濯はしてあるから」
アリアは礼を言って受け取った。確かに、男四人でこんな小屋で生活をしている割には、きちんとした暮らしをしているようだ。小屋と同じように、渡された服も古くて粗末ではあるが、できる限り清潔にしているように思えた。
小屋には水は通っていないが、すぐ隣に公園があるらしい。水はそこから調達する、トイレも公園のものを使わせてもらう、という話をさっき聞いた。
(……ぎりぎり、人間らしい生活ができるかな。でも思ったより大変そう)
そんなことを思いつつ、布で区切られた後ろの部屋を使わせてもらい、薄暗い中で着替えをした。
ライアのおさがりは、思ったよりも体になじんだ。これで本当に男の子に見えるだろうか。そして、膝部分に大きな穴が開いている。これくらいなら簡単に直せそうだ……針と糸さえあれば。
着替えを済ませたアリアが布をめくって姿を現すと、ゼットを除く少年たちは「おお!」とどことなく嬉しそうにして彼女を出迎えた。
「思ったより似合うじゃん。ちょっとかわい過ぎるけど、まぁ男に見えないこともない!」
キャティアは誉め言葉にしては微妙な発言をして、笑顔で親指を立てて見せた。多分何も悪気はない。
「ありがと。えっと、針と糸とかある?もしあれば、貸して欲しいんだけど」
あまり期待はしないが一応聞いてみた。キャティアは笑顔のままで首を傾げ、
「ん?ハリトイト?いや、見たことないかな」
……そんな『新種の動物見たことある?』の答えみたいに言われても。とにかく、とても物が少ない家であることは分かった。最低限の清潔感があるだけでも、ありがたいと思うべきだろう。
「さてと、じゃあ夕飯の準備始めるか」
ディアがそう言って部屋の隅へと移動した。その辺りに食材がまとめて置いてあるらしい。アリアは慌てて彼の方へ駆け寄った。
「あ、あの、あたしも何かできることがあれば」
小さい頃から台所に立つのは好きだったので、それなりに料理はできる。だがディアは申し訳なさそうに肩をすくめ、彼女に向かって苦笑いしてみせた。
「ごめん、そんなに大したごはんじゃないから、手伝ってもらうこともないんだよね。でもせっかくだから、一緒に来る?」
そう言って、袋から何個かイモを手に取ると、裏口から外へ出た。アリアがその後からついていくと、小屋のすぐそばに石が積んであり、そこで火が使えるようになっていた。ちょっとした屋根がついているので、かろうじて雨は凌げそうだ。
「いつも、外で料理するの?」
「ま、ちゃんとした台所もないからね。まともに料理できるヤツもいないし」
食事の支度は、本当に簡単だった。皮も向かずにイモを茹で、味付けは塩だけ。それに、軽くあぶった魚の燻製が少し。
イモを茹でている間、ディアと少し話をした。彼は、このアジトで暮らしていくためのざっくりとしたルールを教えてくれた。炊事や洗濯は当番制。食材は近くの商店街で、ちゃんとお金を払って購入する。盗みをするのは現金や宝飾品限定、旅行者や行商人を狙う。
「近所の人からお金を盗ると、もうここに住めなくなっちゃうからさ。キャティアとかゼットは羽目を外しそうになることもあるけど、ライアが目を光らせてる。うちのリーダーは、優しいけど怖いから」
「ふーん」
優しいけど怖い。さっき知り合ったばかりの人だけど、分かるような気がする。




