その6 俺の彼女
「でも、どうしてあたしのこと、仲間に入れてくれたんだろう……」
ふとそう呟くと、ディアは小さく笑った。
「自分より小さい女の子が困ってるの、見てられなかったんじゃないかな。俺は、ライアは頼りになるいいリーダーだと思うよ。しばらく見ていれば分かると思う」
そんな話をしているうちにイモが柔らかく茹で上がり、夕飯になった。
ディアが用意したイモと魚の他に、キャティアが湯呑に入れられた飲み物を皆に配る。アリアの手にも渡ったが、中身を確認する暇もなく、あっという間に横からライアに取り上げられた。
「変なもの飲ませるな。ディア、アリアには茶を入れて」
「なんだよー、いいじゃん別に。そんなに強くないって」
つまらなそうに口を尖らせるキャティアを見て、ディアも困ったように笑っている。その様子に、アリアも何となくピンときた。
「……お酒?えっと、全然飲めないこともないと思うけど」
根拠はない。だが、この少年たちが飲んでいるなら自分も飲めるのではないか。そう思ったが、言い終わるのも待たずにライアに睨まれた。
「飲んだことあるの?」
「ない……けど」
「ぜったいダメ。何かあったらどうするんだよ。俺たちは、医者にだってかかれないんだぞ」
そう言われると、返す言葉もない。
一番隅の席で小さくなって食事をしていると、ふと思い出したように、隣りの席のライアが声を上げた。
「一応、みんなに言っておく。今日からアリアが俺たちのグループに入ったけど、女の子だからって雑用を押し付けたりしないように。自分の当番の仕事はきちんとすること。それと」
そこで一度言葉を切り、アリアの肩へ腕を回した。突然のことに固まっていると、彼はそのままの姿勢で声も高らかに、アリアが予想もしていなかったことを宣言した。
「この子は、俺の彼女にする。万が一にも他のヤツが手を出すようなことがあったら容赦しないから、そのつもりで」
アリアは口の中のイモを、よく噛みもせず丸吞みしそうになった。思い切りむせて、慌てて渡されたお茶を飲み、それでも目を白黒させていると、ライアが心配そうにその顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶだけど、その……え、どういうこと?あたしが、彼女?」
「うん。勝手に決めてごめん、でも取り消さないよ」
(……ええぇ――……?)
だが、うろたえているのはアリアだけで、他の皆は思ったより反応が薄かった。キャティアだけが「いや、ずるくない?独り占めかよ」とぶつぶつ文句を言っていたが、ディアは心得たように頷いただけ。ゼットに至っては無反応だ。
よく分からないままに食事を終え、よく分からないままに寝室へ連れていかれた。
寝室、といっても床に毛布を何枚か並べただけ。もちろん一人分ずつに分かれた寝床などはなく、これが雑魚寝というものなのだろう。アリアはその寝室の一番端で寝るように言われた。
とりあえず横になったものの、床が固く、しかも寒い。そして身体が強張って、眠れる気がしない。
ディアとキャティア、ゼットの三人は、まだ居間でカードゲームに興じていた。時折、楽しそうな話し声や笑い声、カードをめくる音が隣の部屋から聞こえてくる。そして、ライアだけがアリアの隣に潜り込んできた。
「心配しないで。絶対に変なことしないし、させないから。何かあれば夜中でもいいからたたき起こして」
小さな声でそう言われ、うん、と素直にうなずいた。せめて眠ったフリでもしようと思い、ぎゅっと強く目を閉じる。
(……ってことは、この人があたしの彼氏ってこと?いや、今日はもう考えるのはやめよう)
ふくらはぎの疲れに、ずっと走ってきたこれまでの距離が思い出された。遠い場所へ来てしまった心細さ、もう会うこともない大切な人たちを思うたびに胸が締め付けられる。それでも何とか、屋根のある居場所を確保することができた。これからどうなるか分からない不安感とほんの少しの安心感が、交互に押し寄せてくる。
ふと、身体に少しだけ重さが加わる感覚があった。薄目を開けて隣を伺うと、ライアが外套のようなものを広げて、アリアの薄い毛布の上から掛けるのが見えた。そんなものでは暖かくならないと思ったけれど、何だか嬉しい。
身体の強張りが、いつのまにか解けていた。夜の深まりと共に少しずつ呼吸が静かになってゆく。手足にほんのりと熱が戻り、思わず小さな欠伸がもれた。
ゆっくり、本当にゆっくりと、アリアは眠りへと落ちていった。
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