8.北極エリアの日常
ここはアニマルユートピア。
動物たちが暮らす弱肉強食の世界。
今日も食われ、騙され、捕獲され、何者かが何者かに食べられる日々。
バーチャル世界のオープンワールドに思われるが、実際は広大なシームレスのマップが複数用意されているタイプのゲーム。
一つのエリアの中であれば問題ないが、別エリアに移動する場合は僅かながらローディング時間が発生する。
とはいえ、まだゲームを始めたばかりの少女には関係ないこと。
北極エリア、氷の岩山が乱立する迷宮のような場所で、太陽が頂上に輝いている。
実際の北極であればこんな位置に太陽が来ることはあり得ないのだが、ここはアニマルユートピア、そのディティールはこだわらないようだった。
氷の迷宮にはところどころ川のように水が流れており、そこを魚が泳いでいる。
プレイヤー以外で捕食対象となるエネミーたちだ。
その川岸でジッと水面を見つめる影がひとつ。
イワトビペンギンのプレイヤー「シオン」である。
まるでハシビロコウのように一切動かず、ジィーっと水面を見つめている。
魚が一匹ふらりと彼女の前にやってくる。
その瞬間、イワトビペンギンが目にもとまらぬ速さで顔を水面に突っ込んだ。
まさに早業。気づけばその魚はペンギンの口の中。
満足そうに魚を腹に納めると、イワトビペンギンの黄色い髪飾りがピクンと動く。
顔を横に向け、遠くを見たかと思うと、すぐに川の中に飛び込んだ。
同時に、空を泳ぐシャチがその場を通り過ぎる。
ただ通り過ぎたわけではない。その大きな口を開けながら、氷の岩山を穿つ。
神速のシャチ――まさしく神速鯱。
北極エリアにおけるボスエネミーである。
広大なエリアを回遊しながら、目に付いた獲物を次々食らい尽くす。
とあるモグラは地面でオルカをやり過ごし、とあるホッキョクグマは真っ向からオルカの体当たりを受け止める。
オルカは一撃離脱を基本行動としているため、その瞬間さえ耐え忍べば、次の瞬間には別の場所に移動している。
逆に言えば、その一瞬でオルカを倒さなければ、次の瞬間には逃げられてしまう。
今日もどこかでオルカに食われる動物の叫びが聞こえてくる。
今日もどこかでオルカに挑んで吹き飛ばされる音が聞こえてくる。
北極エリアの住民にとって、生きることとは「オルカとどう向き合うか」に他ならない。
【 アニマルユートピアプレイヤー専用掲示板を開きます 】
【 北極エリア > オルカ対策掲示板 】
:レベルサードに達成したけど、オルカに吹き飛ばされた
:星は?
:パワー4、ハード4、スタミナ4
:スピードとセンスなさそう
:センスが無い人だ
:3ステータス星4とかマジモンの英雄じゃん。勇者か何かですか?
:それで吹き飛ぶとか、オルカヤバすぎじゃん
:ちなみに腕力強化、拳変化(鉄拳)、自然能力付与(隕石)でこれ。
:自然能力付与(隕石)ってなに???
:隕石の威力で殴れる
:馬鹿なの? 馬鹿力なの? なにそれ、どんな条件で出来るの???
:あ、鉄腕ホッキョクグマさんか
:隕石直撃してギリギリ生きてたことがあって、それが達成条件だったみたい
:なんで生きてんの?
:鉄腕熊さんチーッス。先日はお世話になりました。次は俺が喰う。by 毒蛇
:鉄拳で隕石ぶん殴った。お前に食われるほど落ちぶれてねえよ>毒蛇
:これでもオルカ勝てないのは無理ゲーだろ。
:星5の挑戦報告待つしかないか。
:星5っているの?
:星0が居るくらいだから居るでしょ。
:星0いるの???
:居た。草原エリアで見たことある。
:他人のステータス見れる怖い人が居ます。
:センス星4以上で肉体強化すると相手のステータス見れるよ。
:それたまに聞くけどマジなの?
:そもそもセンス星4が本当かどうかって話だよね
:ここはオルカ対策スレなんで、星の話は別の掲示板でお願いします。
:うっす。
:ボスエネミー倒されたことないの火山と北極くらいじゃない?
:火山はこないだ配信者が倒してたよ。
:マジか。じゃあオルカも出来なくはなさそうだな。
:いっそ集団で囲むか?
:↑定期的にやって、速攻で逃げられて終わり。リニアモーターカーをバイクで囲めないのと同じよ。
:とりあえず会うたびに隕石パンチしてるわ。当たり所によって反応違うし。
:↑知らん情報なんだけど。
:いや、当たり所でダメージ違うのは当たり前だろ。
:掲示板観てる間にオルカに轢かれたんだけど。
:↑あるある
:草
:↑↑↑あるある
:北極エリアで気を抜く方が悪い
:そんなぁ




