描いてみても。
「はぁ……」
白い吐息が。
かすかなぬくもりを頬に残して。
流れていく。
すぐに肌を刺す冷たい風に。
目を細めて。
マフラーに顔をうずめた。
しんしんと降る雪が。
全てを白く染めあげて。
音さえも吸い込んでしまったように静か。
騒がしいのは。
私の心と頭の中だけみたい。
「はぁ……」
幼馴染みのたっくんが。
高校卒業したら東京に進学するんだって。
ずっと。
一緒にいるのが当たり前だったから。
そばにいない日常が想像出来なくて。
たっくんに。
夢があるのは聞いていた。
『まもなく列車が参ります……』
静寂を破るアナウンス、
線路の向こうから。
小さく黒い煙を上げながら。
銀色の車体に雪化粧を施した。
一両編成の列車が近づいて来た。
ゆっくりとホームに滑り込んで。
私の前にドアを合わせて止まる。
側面の開閉ボタンを押して扉を開ける。
降りてくる人もいなくて。
乗る人も今日は私だけ。
暖房の効いた車内の空気が。
瞬く間に頬を火照らせた。
座席は選び放題。
私はボックスシートに腰かけて。
マフラーと手袋を外した。
ブルルル……
低いエンジンを震わせて。
列車はゆっくりと動き始めた。
ガタン、ゴトン……
車窓は一面。
銀世界。
窓ガラスも白く曇っている。
たっくんは。
陸上部で。
マラソンをしている。
箱根駅伝を走るのが夢なんだ。
東京にある。
強豪の南武大学に推薦で入学が決まったって……
「はぁ……」
そっと。
伸ばした指で。
窓ガラスに。
一筆書きで。
傘を描く。
指先に冷たさを残したまま。
『まこ』
ひらがなで名前を書いてみた。
隣に。
書きたい名前はあるけれど。
「はぁ……」
私は指を引っ込めた。
背もたれに。
寄りかかる。
卒業までの数ヶ月。
少しでも。
想い出。
作れたら。
いいよね……
そうだ。
今年は初詣。
一緒に行けるかな。
マラソンは冬が競技の季節だから。
高校に入ってから。
行けなくなっちゃったから。
にわかのあくびに。
口を両手で覆う。
ぼんやりと窓を眺めていたら。
瞼が重くなって……
――もう夜なのに。
提灯の橙色が。
境内を夕焼けに染めている。
暑さは和らいでいるけれど。
どこか。
熱い私の体。
社殿脇の石段に。
たっくんと並んで座っている。
ドン、ドドン……
太鼓が刻む祭り囃子が。
お腹に響く。
いつもはお喋りのたっくん。
今日は口数が少ない。
私はかき氷を。
スプーン付きのストローで。
口に運びながら。
ちらちらと。
たっくんの横顔を眺めていた。
少しうつむいて。
顎を伸ばして。
ん?
不意に私を見た。
「真心。俺さ東京の南武大に行こうと思ってるんだ」
「うん」
「真心は、東京に出ないの?」
「……うん」
「そっか」
そっと微笑むたっくん。
私は上手に笑えなかった。
何も言えなかった。
もしかしたら。
心のどこかで。
『好き』
って。
言葉を言ってくれるかな。
なんて。
自惚れていたのかも。
ただの。
幼馴染みなのに――
ガタン、ゴトン……
あっ。
傾いた体を。
そっと直す。
「はぁ……」
ふと。
目をやった窓ガラス。
指で描いた。
傘と名前は。
うっすら跡を残して。
曇りに紛れていた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




