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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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私なんか

見上げた夜空に。

行き先の分からない飛行機が。

赤いランプを瞬かせている。

生暖かい風が私を追い越して。

スカートと髪を巻き上げる。

そっと。

ポニーテールの結び目のシュシュに手を添えた。


先週。

二年間付き合ってた彼と別れた。

理由はなんだったのか。

良く分からない。

半年くらい前から。

なんか。

距離を取られてる気がした。

さりげなく問いかけても。

返ってくる言葉は。

「別に」

「お前には関係ない」

とか。


私に良くないとこあるなら言ってって。

伝えても。

「そういうとこ」

って。

言われちゃって。

何も言えなくなっちゃって。

でも。

好きだから。

気になるから。

でも。

メッセージ送っても。

返信遅いし。

来ないこともあった。


学校で顔を合わせてもよそよそしい。

そんなはっきりしない状態が続いて。

「別れて」

そう言われた時は。

もう。

そういうことなんだねって。

どうにもならないんだねって。

黙ってうなずいていた。

いざ。

言われても。

それ迄のあやふやな時期があったからか。

ぼーっとするだけで。

実感は正直、今もわいてない。

かな。

そもそも。

私には夢のような時間だった。


高校二年の春。

同じクラスになった彼。

付き合ってって言われた時。

うれしかったけど。

冗談だと思った。

だって。

彼はバスケ部で人気者。

私は平々凡々な。

取り柄もない女の子。

どうして私なの?

って。


でも、彼の熱意に負けて。

付き合ったら。

とても楽しかった。

学校帰りに。

お茶したり。

ゲームセンターやカラオケに行ったり。

そんな。

一日、一日が。

絵に描いた青春の物語みたいで。

アニメや漫画の世界の主人公みたいで。

目にするもの全てが。

キラキラして見えた。


初めてのデートは遊園地だった。

たぶん。

忘れない想い出。

初めてづくしだったから。

手をつないだことも。

名前を呼んでくれたことも。

外灯が照らす。

夜のベンチで。


キスしたことも。


唇が触れた瞬間の。

言葉に出来ない喜びと安心。

ぬくもりと少しの不安と。


勉強したり。

電話したり。

何でもないことが。

楽しかったし。

幸せだった。

私の誕生日に。

彼は部活で使えって。

白いシュシュをくれたんだ。


だから……

彼の誕生日にはリストバンドと。


私の初めてをあげたんだ……


もちろん。

怖かったけど。

優しかった。

な。


ずっと続くと想ってた。

そう信じてた。

のにね。

何が良くなかったのか。

ダメだったのか。

何も言われなかったし。

聞くことさえ出来なかった。

でも。

今日見ちゃったんだ。

妃華ひめかちゃんと手をつないでるの。

かわいいもんね。

私なんかより。


星や街明かりが滲んできた。

大きく息を吸い込む。

足元は漆黒の闇。

所詮。

私なんか……

「あの……坂井さん」

!?

誰?

制服の袖をそっと頬に押し当てる。

「ちょっと、いいかな話があるんだ」

ゆっくり振り返る。


屋上に明かりはないから。

暗くて顔は良く見えない。

どこからかの光を受けとめて。

白いワイシャツだけが。

ぼんやりと闇に浮かんでいる。

「近くに行ってもいい?」

声を出せなくて。

黙っていると。

スカートを持ち上げる風の中に。

タッ、タッ……

近寄ってくる。

かすかな足音が混ざる。


「あのさ、これから時間あるかな」

とても穏やかな物言い。

声は耳にしたことあるような

……

気もする。

「あ、そうか、僕は3組の棚倉です、1年の時、同じクラスだったんだけど、覚えてないよね」

語尾は笑っているみたいだった。

棚倉、くん……

ああ……

美化委員で一緒だった。

「良かったらさ、これから『ビスケットの中』ってケーキ屋さんに、その一緒に行ってくれないかなって」

声が近い。

白いワイシャツも分かる。

「ケーキ好きなんだけど、なんか男一人で行くのも、恥ずかしいし、でも、今ね期間限定のタルトが食べれるんだ」

「ベリーとピーチとマンゴーがあってね、その一緒に行ってくれたら、ご馳走するから」

本当に気恥ずかしそうな喋り方がおかしくて。

!?

私の両手が掴まれて。

引っ張られた。

段差から降りた足が地面についた瞬間。

私をあったかいぬくもりが包む。

棚倉くんに抱きしめられていた。

「坂井さん、僕は悔しいよ」

「え?」

「僕が、自分の気持ちをちゃんと伝える勇気があれば……」

「……」

「ごめんね。ケーキ食べに行ってくれる?」

「え、あ……」

ぐぅ……

私のお腹が鳴る。

あっ。

その恥ずかしさより。

棚倉くんの腕の中にいるって。

分かったら。

顔が熱くなって。

「決まりで、いいかな?」

頭越しに聞こえる棚倉くんの声。

とても優しい震えを伴っていた。

「……うん」

だって。

私の耳には。

棚倉くんの鼓動が聞こえたの。

私よりも。

ずっと。

ずっと。

飛び出しそうなくらいの。

その音が。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しています。

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