旅立ち
防波堤に腰掛けて。
潮風を浴びている。
鼻に馴染んだ匂い。
髪を撫でて。
セーラー服のリボンが踊る
目の前には。
私の大好きな景色が広がっている。
白く厚い雲が覆う空。
その所々の隙間から。
穏やかな入り江に。
幾重もの光の筋が。
真っ直ぐに降り煌めいて。
水面を銀色に染めている。
ちゃぷん、ちゃぷん。
防波堤にとろける波。
耳に住み着いた音。
対岸の山には。
気の早い桃色が。
1、2、3……6本。
今年もよろしくねって。
私を見ている。
ここから見える。
仙崎の港には。
沢山の漁船が止まっている。
ぶるるるる……
左耳に届く船のエンジン音。
島を一周する遊覧船が。
お客さんを乗せて。
自慢気に通り過ぎていく。
私は両手を大きく振ってみる。
お客さんが気がついて。
応えてくれた。
空からの光が私を包む
肌が覚えているぬくもり。
そっと立ち上がって。
スカートをはたく。
両手でスカートの裾を握りしめて。
目をつむる。
深く空気を。
胸一杯吸い込んで。
ゆっくりと息を吐いた。
下唇をそっと噛みながら。
そっと。
瞼を持ち上げる。
移ろう景色を。
瞳の奥に焼き付ける。
だって。
今日で見納めだから。
私の家族は。
誰もいなくなっちゃった。
遠く。
遠く。
千葉にいる。
親戚に引き取られるんだ。
この島に帰って来れるのは。
いつになるのかな。
帰って来れるかな。
だから。
バイバイはしないよ。
もう一度。
空気を味わって吸い込んで。
両手を口に添えた。
「またねー!」
目に見えるもの。
見えないもの。
ぜーんぶに伝わるように。
ありったけの声を張り上げた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




