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翼さんが次々投げかけてくる質問に俺は答えていった。高さ200メートルのあの像は、天風半島の帽子堂と同じ物質で造られていること。ただ表面だけは異なり、貝殻を混ぜた建材で全体をコーティングし白く輝かせていること。像自身から見て右の像が竪琴を、左の像が弓を持っているのは、カバラの十光に由来すること。ここで翼さんが「なるほど!」と手を叩いた。
「なるほど! 右の像は慈悲を表す五光のケセドだから竪琴を持ち、左の像は裁きを表す六光のゲブラーだから弓を持つ、という訳ですね!」「正解」「ヤッタ―――ッッ!!」
なんとなく許可された気がして、古代アトランティスの黄金種族の王女様だった母さんは音楽の女神級に歌が巧かったことを、翼さんに話していった。仲の悪い植民地が仲良し植民地になったくだりで翼さんはたいそう感心し、両膝立ちになり手を祈りの形にして、音楽の女神たる母さんを称えた。母さんはよほど嬉しかったのだろう左右の巨像の輝きを数段強くし、その光を虹の曲線に沿って翼さんに届け、翼さんの全身をキラキラ輝かせた。翼さんの喜びようと言ったらなく、俺も両膝立ちになりお礼を述べたところ、「招待してもらえてないから、これくらいしかできない」と母さんに泣かれてしまった。両膝立ちを土下座に換えて俺が謝ったのは言うまでもない。翼さんも慌てて謝ったら「翼はいいの」と慈母の声がして、降り注ぐ白光が益々増えた。娘にキラキラは似合っても、息子にキラキラは似合わない。母さんを招待せず、悲しませたのも事実だ。俺は再度両膝立ちになり、今度埋め合わせをすることを誓ったのだった。
それ以降は、像の服装について翼さんの意見を聴いた。実を言うと、竪琴を携えた右の像の服装は本決まりではなかった。造形を容易く変えられる準四次元なのをいいことに、候補の服装のまま創ってしまっていたのだ。
「言われてみればそうですね。弓を持つ左の像は、実物を見たことがあるのではないですか?」「な、なんで解るの?!」「弓の像に、明確なイメージを感じるからです。対して竪琴の像に、それはありません。アパレル業界関係者や豊かなファッションセンスに恵まれない限り、男性は女性の服に明確なイメージを持てないのが普通と私は感じています」
翼さんは完璧に正しかった。母さんの弓を真四次元から降ろして贈ったさい、狩猟服に身を包んで母さんは現れた。あまりの神々しさにその姿は目に焼き付いていたらしく、ファッションセンス皆無の俺でも細部を簡単に思い出せた。翼さんはそれを、明確なイメージとして感じ取ったってことだね。それに対し右の竪琴の像は、古代ギリシャの女神像のボンヤリしたイメージを、凡庸に模っただけなのである。俺はそれを正直に打ち明け、翼さんに助力を請うた。翼さんは快く引き受けてくれて、服装の案を輝力で次々創っていく。その速度と品質の高さは、脱帽どころの話ではなかったな。
翼さんの考案した服は、3つのタイプに分けられた。
[1]凡庸さを払拭し、デザイン性を高めたもの。
[2]豪華なキトンの印象を残しつつ、右肩を出したドレス風に仕上げたもの。
[3]キトンの印象を僅かに留めた、前世の欧州の両肩出しドレスに似せたもの。
この3タイプだね。各々のタイプの中から秀逸な1つを選出することなら俺にも可能だったが、3タイプのどれが良いかは最後まで決められなかった。しかし予想に反し翼さんは俺の選出を偽りなく褒め、また決められなかったことにも同意した。前者はまだしも後者は意味が解らず首を傾げる俺に、「母上様に決めて頂くというのはどうでしょう?」と翼さんは提案する。正直、冷や汗が流れた。明日か明後日には音楽仲間達を招待するのだから今夜中に母さんを招待せねば、100%拗ねられるとようやく気付いたのである。俺は心から感謝を述べ、「ここに来られるか母さんに訊いてみるね」と告げる。「はい、お願いします」 そう応じた翼さんに頷き、テレパシーで呼びかけた。すると、
シュワ~ン キラキラキラ・・・・
呼びかけたとたん母さんが眼前に降臨したのだ。返事をする時間も惜しいとばかりに現れたことと、降臨の演出が普段より豪華だったことに、さっきを数倍する冷や汗が背中を伝っていく。せめてものお詫びとして椅子を降り片膝立ちになり、右手を胸に左手を腰に当てて母さんに挨拶した。阿吽の呼吸で翼さんも合わせてくれたのが良かったのだろう、上機嫌の母さんの声が降り注いだ。
「二人とも楽にして。私は今、とても嬉しいのだから」
俺はホッとして席に戻ったが、翼さんは母さんと一緒に三つの服装候補にキャッキャしだした。こうなったら、俺にできるのは裏方に徹することだけ。俺は帆船を、湖に浮かぶ古代ギリシャの神殿に創りかえる。そして神殿ごと移動し、一対の巨像を仰ぎ見る丁度良い場所に係留した。背後にパルテノン神殿があり、その前の石畳に俺達はいて、前方に巨像が聳えているような位置関係だ。目分量だけど、像の300メートル手前くらいに俺達はいるんじゃないかな。
「翔」「はい、母さん」「私を模した素敵な像を創ってくれたことを、感謝します」「もったいないお言葉です」「翼」「はい、母上様」「素敵な服の候補を三つも考案してくれたことを、感謝します」「過分なお言葉を頂き恐縮です」
う~む母さんは、まこと上機嫌みたいだ。俺が自分の像を創られたら勘弁して下さいと泣いて頼むけど、元王女様の母さんは俺とは根本的に違うのだろう。翼さんの意見を、後で聴かせてもらおうかな。複数の要素で俺より遥かに、翼さんは母さんに近いからさ。
などと第三者の如くこの場にいた自分を、俺は叱った。なんと母さんが、服の三候補のどれが俺の好みかを尋ねてきたのだ。デザインの優秀さでは甲乙付けられずとも好みなら付けられることを、母さんはお見通しだったのである。俺の服の好みを知りたいのか、翼さんも鼻息荒くこちらを見つめている。いや女性に「鼻息荒く」は、失礼だったな。
なんて感じに余裕を噛ませていられたのは、時間稼ぎの方法を思い付いていたから。俺は三つの候補へ目をやり悩んでいる振りをしたのち、母さんに請うた。
「三つの候補は母さんの等身大の寸法に作られていますが、高さ200メートルの像では印象が変わるかもしれません。対となる左の像とのデザイン的相性も、無視できませんしね。今から実際に、着せてみて良いですか?」




