↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1000/1027

353

 俺の拙い知識でも、この提案に女性が食いつくのは容易く想像できた。それは間違っておらず、母さんと翼さんは手を取り合って喜んでいる。ここまで高評価なのは想定外だったがそれは脇に置き、俺はさっそく提案を実行した。言うまでもなくそれは、「母さんと翼さんの好みを知るためにした」んだけどさ。

 野暮ったさを排除した一つ目の服は、単体では素晴らしい出来だった。だが古代ギリシャの正統派の服ゆえに、左の像との間に違和感を生じさせていた。左の狩猟服は古代ギリシャの印象を残しつつ、現代に通じるお洒落を加味したものだからね。

 白状すると俺の好みに最も沿うのは、二つ目の服だった。左の狩猟服とも、二つ目の服は相性ピッタリだったな。どちらも、古代ギリシャの印象を残しつつ現代的なお洒落にも配慮した感じなのだ。

 キトンの印象をほんの僅か留めるだけにした三つ目の服は、左の狩猟服と好相性とは言えなかった。しかしデザイン性に最も優れるのはこの服かもしれず、仮に母さんがこの服を望むなら、狩猟服の修正を提案せねばと俺は自分に言い聞かせた。

 というのが、候補の服を像に着せてみて俺が抱いた感想。俺個人の目標の、母さんと翼さんの好みを知ることはできなかったけど、三つの服それぞれに感想をしっかり持てたからこれで良しとしよう。今思うと、それが母さんの意図だった気もするしね。

 ならば、それに準じるのみ。俺は「一番好きなのは二つ目の服です」と正直に答えた。するとそれを軸に母さんは様々な質問をしてきて、結局俺は感想を丸裸にされてしまった。ファッションセンスの拙さが露見して恥ずかしかったけど、母さんと翼さんは俺との受け答えを明らかに楽しんでおり、「ひょっとするとここまで含めて母さんの意図だったのでは?」と俺は思うようになっていった。俺も楽しかったし、そういう事にしますか。

 そしてそれは、たぶん正しかったのだろう。


「翔、翼。候補2の服にするわ。どうかしら?」「俺は賛成です」「私も賛成です」「ふふふ、ありがとう。あなた達を息子と娘に持てて、私は幸せよ」


 母さんはそう言って、俺達の頭を撫でたそうにした。俺は少し離れた場所にいたお陰で回避できたけど、母さんのすぐ隣にいた翼さんは頭を撫でられていた。でもとても嬉しそうだったし、母娘でキャッキャ始めたからこれで良かったのだ。俺は胸をポカポカにしつつ、像の服を替えることに集中する。すると自分でも驚くほど、忠実に再現できたんだよね。像も喜んでいるみたいだし、嬉しかったな。

 その後、神殿を再び船に変え、水の流れに船を任せた。湖から流れ出る唯一の川の入り口に、二つの像は建っている。したがって船は像にゆっくり近づいていき、そして近づくにつれ像は神々しさを増していった。神々しさは天井知らずに増えていき、制作者として疑問を覚え真四次元視力に変えてみたら、母さんが像に加護を授けていることが判明した。母さんは、本物の女神様だったのである。ただ重度のマザコンの俺にとってそれは別段驚くほどのことではなく、それよりもいつ加護を授けたのかが気になりアカシックレコードで調べたところ、服を替え像が喜んだのがその時だった。喜ぶ像との間に「この円柱世界を守ってね」「「はい!」」との会話が成立したまさにそのとき、母さんは像に守護者としての力を授けたのだ。また「「はい!」」と左右両方の像が声を揃えたように、右の像の喜びを左の像も我がことのように感じ、それも母さんのお気に召したようだった。左右の像さん、おめでとうございます。

 などと像を見上げつつ考えていた俺の視界の隅に、像から何かを感じ取った翼さんが映った。う~む、さすが翼さん。制作者だったことに助けられ気づけた俺とは、やはり出来が違うのである。それはそうと、翼さんにどう応じたものか? 母さんにチラッと目をやったところ、「自分で気づくからそっとしておいてあげて」との概念テレパシーが送られてきた。俺に異論などあろうはずない。俺は静かに像を見上げていた。その数瞬後、


「今、像達が教えてくれました。母上様は、まこと女神様だったのですね!」


 翼さんの言葉が耳に飛び込んできた。嬉しくて堪らないといった体の翼さんと、母さんは楽しげにお喋りを始める。その様子に、船の椅子をアームレスト付きの高級椅子にしておいて正解だったと、関係あるような無いようなこと俺は考えていた。

 そうこうするうち二つの像のほぼ真下にやって来た。何となく手を合わせ、一対の像の間を通過する。その途端、船がグイッと加速した。この湖は四本の川が流れ込んでいるだけでなく無数の湧水が周囲の崖にあるため、流れ出る川はかなりの水量になっているのだ。ちなみに川幅は40メートルありそしてその両側に、垂直の崖が200メートルの高さでそそり立っている。そうこの谷は、まごうことなき絶景なんだね。かつそれに加え、


「「キャ―――ッ!!」」


 母さんと翼さんが声をキャイキャイ合わせたことから、適度のスリルを味わえる場所でもあるようだ。俺は満足すると共に、「本命はこの次だよ」と心の中で二人に語り掛ける。円柱の内側を大地とするこのスペースコロニーは、両端の標高が高く、中央は標高0メートルになっている。背後の湖は日光の中禅寺湖より700メートル以上高い標高2千メートルにあるため、この川は両側の崖が消えて視界が一気に開けたら、


「広い!」「凄い!」「「ウワ~~!!」」


 広大な景色を一望できる川になるってこと。しかも50メートルほど進むと意図的に設けた急勾配の箇所を通過するので景色に見とれていると、


「「キャ―――ッ、アハハハハ~~~!!」」


 不意打ちのスリルに見舞われ、思わず笑ってしまう工夫を施しているのだ。肘掛けを握れば体を固定できるため怖くなく、その後は緩やかな流れになるから、笑いが自然と漏れるんだね。急勾配の箇所を過ぎれば、高原を流れる川特有の景色を心行くまで楽しむことが出来る。母さんと翼さんは、大満足したみたいだ。翼さんへの償いの最終日にこうして駆けつけてくれた母さんに、俺は心の中で手を合わせた。のだけど、


「さあ次は、三大名所の残り二つのどちらに連れて行ってくれるのかしら? もちろん今日中に、三カ所すべてを案内してくれるのよね!」「マジですか・・・」


 旅行気分を久しぶりに味わったらしい母さんに、付き合わされる羽目になったんだけどさ。とはいえ寝不足にはならなかったし、また二度目でも母さんと一緒に名所を巡れて翼さんも喜んでいたから、まあいいかと俺は思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。