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という話を翼さんにしたところ、翼さんは俺の手を取り上下にブンブン振り「絶対そうです完全同意です!」を繰り返した。「だよね!」「ですよね!」と大いに盛り上がったが、心の隅で俺は反省もしていた。理由は、俺の心臓がはち切れそうになっているように、翼さんの心臓もはち切れそうになっているのではないかと初めて気づいたことにある。俺は翼さんの手を取り上下にブンブン振ることを何も考えずしていたけど、それをされる身になって初めて気づいたんだね。今俺がなっているように翼さんも、心臓がはち切れんばかりにドキドキしていたのではないかと。
幸い、それは翼さんに気づかれていないっぽい。仕組みは不明だが、それだけはなぜか解ったのである。そうとなれば、このまま押し切るが最善。俺は高らかと提案した。
「では決めることを全て決めたし、恒例の名所巡りを始めますか!」「やった――ッ!」
俺達は空飛ぶ絨毯に乗り、ベンチを離れたのだった。
スペースコロニー内の設計で最も難しいのは何と問われたら、俺は大気の循環と水の循環の二つと答える。この二つをなるべく簡単な仕組みで循環させ、コロニー内の隅々にまんべんなく雨を降らせるのが俺の理想だ。理想を100点とするならこのコロニーの内部は、30点未満の赤点だけどさ。
赤点の最大の理由は、水の循環への大掛かりな介入にある。このスペースコロニーは円柱の両側に山岳地帯を配置し、山に降った雨と雪が川となり円柱中央で湖を形成するようになっている。湖の中央には複数の活火山(笑)があり水蒸気を濛々と立ち上らせ、湿った高温の大気が上空で山岳地帯へ流れていき冷やされ、雨や雪を降らせるという寸法だ。動力炉の排熱を利用した活火山がある時点で笑ってしまうのに水蒸気だけでは山岳地帯の降水量を賄えず、大量の水を地下ポンプで山岳地帯へ運び川の源流の湧水にしているのが、赤点の理由たる大掛かりな介入。地下ポンプの運用コストを見るたび、結局俺はこの程度なのだと打ちのめされるのが常だった。雨雲だけは水蒸気の温度調整により、平地にまんべんなく発生させているけどさ。
でもそれらの不満は、名所案内には不要。俺は気持ちを切り替え翼さんに語りかけた。
「翼さん、ネタバレ回避のために蜃気楼壁を1分近く展開するね」「了解です」
空飛ぶ絨毯の周囲の景色がぼやけていく。それは絶景を閉ざすことと同義なため、俺は大急ぎで速度を上げ目的地の山岳地帯を目指した。1分かからず目当ての川に着き、上空1メートルでホバリングする。山岳の湧水を集めたこの川は流れが速く大岩も多いため、ラフティングを楽しむことが可能。とはいえラフティングを、つまり激流の川下りを翼さんが望むかは判らない。川の上空1メートルでホバリングしつつ蜃気楼壁を解除するや、急峻な山と激流の織り成す光景にキャッキャしていた翼さんに、機を見て問うた。
「ラフティングって知ってる?」「この川で出来るんですか!」「できるよ。竿を操る船頭と、乗客。どちらをしたい?」「めちゃくちゃ悩むんですけど~~!」
この川では船の船首に立つ船頭が岩を竿で突き進路を変えないと、船はたちまち転覆してしまう。竿操作の習得には数年かかるので未経験なら乗客一択だけど、超人の翼さんなら一瞬で習得しそうなんだよね。俺達は空中を飛べるから、船が転覆しても平気だしさ。
ということを、翼さんも考えているから悩んでいるのだろう。好きなだけ悩ませてあげるべく、俺は空飛ぶ絨毯の下部をボートにこっそり変えていく。光学迷彩でボートは隠せても、川の音の変化は誤魔化せない。でもその時はその時と開き直り、俺はボートと竿を完成させた。竿は空中に浮いてるけどね。
その竿が翼さんに見つかった。川の音の変化に気づき顔を上げた翼さんの視界に、入ってしまったのだ。翼さんは無意識に立ち上がり、竿を手に取る。好機を逃すなとばかりに俺は光学迷彩を消し、ボートを出現させた。キャッキャする翼さんに「船頭の場所はそこ。試しに立ってみる?」と促したところ、翼さんは迷わず船の船首に立った。その背中が、挑戦者の背中になっているのを見て取った俺は協力することにした。
「ボートと俺達を輝力でそっくり模して、今から川に降ろす。激流を下る自分とボートの様子を見て、シミュレーションとイメージトレーニングして、船頭と乗客のどちらをするか決めて」「了解です!」
気迫漲るその声に「こりゃ船頭確定だな」と心の中だけで呟き、輝力製の俺達を川に降ろした。ちなみに輝力製の翼さんは、俺の本体に頼んで身体能力等々を模してもらっている。超人振りも忠実に模しているのだろう、輝力翼さんは揺れに揺れるボートを一瞬で制御下に置いた。俺は本体と輝力翼さんの両方に、拍手を贈った。
そうこうするうち、輝力ボートの前方やや左に最初の大岩が迫ってきた。俺は輝力翼さんに遠隔介入し、手本となる竿捌きを披露した。鍛えてきた刀術のお陰か、俺は十分かからず及第点の竿操作を習得できたんだね。超人の翼さんなら今の手本をもとにシミュレーションとイメトレをするだけで、及第点に達すると思われる。そう予想したとおり、
「船頭をします!」
自信たっぷりの声が俺の耳に届いた。俺はそれを受け「では本番5秒前、4、3・・・」とカウントダウンを始める。カウント0で川に降ろしたボートは揺れに揺れるも、本物の翼さんはコンマ2秒かからずコツを掴んでみせた。さすがは、人類史上最高の超人である。重心を移動するだけで足の位置を決して変えず、翼さんは船頭の場所に立ち続けた。




