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 声に感情を乗せるにはプロの技術が必要なのに、俺達は声優ではない。幸い俺達が吹き替えるのは、感情を乗せやすいテレパシーだ。でもそれに胡坐をかかず、たとえば心躍る場所で心躍る場面のテレパシーを吹き替えれば、観客はもっとワクワクするのではないか? プロでないぶん、そんな工夫をすべきではないか? 俺は、そう感じたんだね。翼さんもそれに大賛成し、この場面はコロニーのここに行こうあの場面はあそこに行こうと二人でたいそう盛り上がった。盛り上がりすぎ何かを忘れている気がして首を捻り、ようやく「鍵」を思い出した俺は、試作品を三つ創ってみた。重厚で味のある鍵と、古風でもお洒落な鍵と、宝石と貴金属で作られた鍵の三種類だね。思い付きで創ったにしては高評価だったらしく、翼さんはどの鍵もキラキラお目々で見つめている。さっきは油断して俺の頭の中が筒抜けになったけど、今回は油断厳禁。俺の好みではなく翼さんの好みで、決めてもらいたかったからだ。俺は鍵を頭の中から消去し視線を上空へ移し、唯一残っているコロニーの三大名所に思いを馳せる。今夜連れて行くつもりのあの名所を、気に入ってもらえるかな? それともドン引きされるかな? どうか前者でありますように。


「翔さん」「ん、ゴメン。気になる鍵はある?」「三つとも私の趣味で困っています。ヨーロッパ人はアンティーク好きですし、女は宝飾品好きですから」「ん~、鍵を日常使いしていた前世の記憶のない昇達には、アンティーク系のこの二種類は難しいかな?」「二つともデザイン性に優れますから、そんなことはないと思います。それより、お訊きしたいことがあって」「なんなりとどうぞ」「準四次元で鍵を取り出し、どのような仕草をしたら、このコロニーに瞬間移動するのでしょうか?」「うん、パッと思い浮かんだのは」


 鍵を右手に取ると正面にドアが現れ、その鍵穴に鍵を差し込んで回す。するとカシャンという解錠の音がして、ドアを開けたらコロニーの芝生の広場に繋がっている。という描写をしたところ、翼さんは複数の質問を投げかけてきた。


「ドアの材質は?」「木かな」「ドアノブの形や材質や色はどうでしょう?」「むむ、棒を握って斜め下に傾けるのって、レバーハンドル式だっけ?」「正式名称は解りませんが、円柱形や球形のドアノブではなく、棒形状なのですね」「そうそう棒形状。材質は金属、色は柔らかみのある銀色。となると、ドアの木はどんな感じだろう?」「塗装の有無は?」「塗装は無し」「薄茶色の木材、こげ茶の木材、それともその他」「明るく木目の美しい薄茶色、木目の方向は縦が好き」「素敵ですね。ではそのドアに合う鍵を、私に見せてください」


 気軽に了承し出来上がったのは、お洒落なアンティーク調の鍵だった。金属製で色は白銀、摘まむ部分は円形をしている。円形の内部には二つの物が細い金属で描かれているけど、ネタバレになるので咄嗟に消し、四葉のクローバーにした。円形部分を指で摘まみ見えなくなっていたから、デザイン変更は気づかれなかったと思う。にもかかわらず、


「芝生の広場にはクローバーもありますから四葉のクローバーは素敵なはずなのに、違和感を覚えるのはなぜでしょうか?」


 としきりに首を傾げる翼さんのセンスには脱帽した。類まれなるセンスに敬意を表し、ネタバレになるのでデザインを咄嗟に変更したことを俺は正直に明かす。すると翼さんは顔をパッと輝かせ、とても上機嫌になった。ネタバレという語彙から今夜も会合後に名所巡りを計画していることが、露見したのだろう。楽しみにされているのは嬉しいけど、三大名所を案内できるのは今夜が最後なんだよね。う~む次までに、五大名所に増やしておくかなあ。

 でもそれは後にするとして「この鍵とドアでどうかな?」と尋ねてみる。「賛成しますパチパチ~」と擬音付きで拍手してもらった事をもって、本日の会合は終了・・・あれ?


「どうかしましたか」「翼さん俺、何かを忘れていたりする?」「音楽仲間達をここに招待する適切な日取りのもう一つが、残っていますね」「ああ、俺はバカだ~~!」


 俺は頭を抱えた。その耳に「翔さんはバカではありませんから、その鍵をくださいませんか」との言葉が届く。バカ云々はさて置き、クローバーの葉をエメラルドに換え、件(くだん)のドアを出現させる機能も付けて翼さんにすぐ手渡したのは、自分を褒めていいのかもしれない。キャアキャアと、やたら喜んでもらえたしさ。

 再度それは置き、キャアキャアが静まるのを待ち俺は背筋を伸ばした。阿吽の呼吸で翼さんが発表したもう一つの日取りは、トト〇の上映成功祝いと三作目の映像作品の試写会をする日という、11月末日だったのである。

 翼さんによるとこの日取りは、仲間達が喜ぶことを最重視しているという。たしかにそのとおりで、皆を初めてここに呼んだ日にトト〇の上映成功祝いと三作目の試写会をすれば、歴代屈指に盛り上がること間違いないだろう。それは仲間達が喜ぶことを最重視したからであり、対して一つ目の日取りが俺の気持ちを最重視していることを考慮すると、二つ目の11月末日で決定に思える。思えるのに「本当にそうか?」という疑念が胸に渦巻くのも事実。その最大の理由は、招待を11月末日にしたら、トト〇の吹き替えをこのコロニーでしなくなることにある。上映時間86分のトト〇には涙の場面や不安の場面ももちろんあるけど、大部分を占めているのはワクワクだ。12歳のサツ〇と4歳のメ〇のワクワクをたっぷり詰め込んだのが、となりのトト〇なのである。それを竜と妖精に伝えることを第一にするなら吹き替え場所はコロニーが最適であり、それが実り竜達と妖精達がトト〇をとことん楽しんだら、仲間達はどう思うか? 俺は断言できる。アイツらが最も喜ぶのは、竜達と妖精達がトト〇をとことん楽しむことなのだと。

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