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 とここで、翼さんが急にモジモジしだした。会話の流れから見当をつけ訊いてみる。


「翼さんも製本に参加したいですか?」「参加したいです! したいですけど、関連技術を何も持ってなくて」「俺も活かせるのは、習字くらいですよ」「いいえ、とても羨ましいです。前世の私は字が汚かったのに、奇麗な字を書く練習を全くしませんでした。ああせめて、カリグラフィーを習っておくべきでした」


 前世の俺が中学生の頃は英語の授業で筆記体を習い、それは欧米も同じだったと耳にしたことがあるけど、筆記体と奇麗な字はたしかに違うか。それはそうと俺がカリグラフィーを独自に学んでいたことを、バレないようにしないとな。

 と頭の中で考えてしまったのが運の尽き。俺の頭の中はただでさえ翼さんに筒抜けなのに、ここは気持ちの伝わりやすい準四次元だからさ。


「いいなあ、翔さんはカリグラフィーを学んでいたんですね」「た、ただの独学だよ大したことないって」「じ~~」「アトランティスの振字(しんじ)はカリグラフィーと無縁かつ無意味でしてね!」「じ~~~~」「・・・はい、お目汚しですが披露します」「やった――!」


 心を込め丁寧に綴らないと用をなさない振字に、書体の美しさを第一とする文化芸術は花開かなかった。習字やカリグラフィーが好きだった身としては少々寂しいけど、文字には人の全てが出るなどとほざいて子供を差別する人達がいないのは、ありがたいな。

 みたいな現実逃避を頭の隅でしていたわりに、アルファベットを美しく綴ることが出来た。前世の俺とは比較にならぬほど高性能の体だからか、それとも他に理由があるのかは定かでないが、翼さんも喜んでいたしこれで良かったのだろう。私もカリグラフィーを習いたいと翼さんが言い出したのは、有用性が無さすぎて困ったけどね。

 有用性皆無なことを翼さんも渋々認めたのを機に、話し合いは再開した。といっても、「音楽仲間達が翔神教誕生阻止に未着手なのは製本に関わっていないから」ということ俺が認識した時点で、話すことは無くなったと翼さんは言っていたな。それはつまり、


『竜族が製本に挑戦したことによって竜族の未来が変わった』


 のだと、音楽仲間達も考えているということ。アカシックレコードで確認済らしいから、間違いないとして良いだろう。翔神教誕生という、寿命を縮ませる出来事を阻止できたことに感謝すべく、心の中で皆に五体投地した俺だった。


 今夜の会合の目的は、宗教の件で昇達6人をここに呼ぶ是非を翼さんに問うことだった。その目的は、俺の予想を遥かに超える領域で叶えられたと言える。音楽仲間達は宗教誕生を阻止すべく既に活動しており、そしてそれがほぼ実ったとくれば、今さら昇達を呼ぶ必要はないからだ。しかし俺の予想を遥かに超える領域で叶えられたことが、新たな悩みを生んだのも事実だった。それは、「いつどのような理由で音楽仲間達をここに呼ぶのか?」という悩みだったのである。

 翔神教なんて絶対誕生させたくないと俺が心底願うことを、音楽仲間達は完璧に理解している。それだけでも恩義を覚えるのに仲間達は俺に内緒で自発的に動いてくれて、しかも阻止をほぼ達成済となれば、恩義は計り知れぬ量になるだろう。そんな計り知れない恩義のある仲間達を、いつどのような理由でここに呼べば良いのか? それが新たな悩みとなって、俺に重くのしかかっていたのだ。

 が、翼さんによると俺は混乱しているだけらしい。いつもの俺なら、もしくは俺の状態に誰かが陥っていたなら、この程度はたちどころに解決してみせるそうなのである。「そうなの?」「はい、そうです」 自信満々に答える翼さんに、自然と笑みが広がる。すると解らないままでいたいという気持ちがなぜか溢れてきて、更になぜか俺はその気持ちに引っ張られ、「解らないままでいたいから翼さん教えて」と頼んでいた。幼児退行したかの如き自分に赤面する間もなく、翼さんは「任せてください!」とそれを叶えてくれた。


「私が思うに、音楽仲間達をここに招待する適切な日取りは二つあります。一つは、明日か明後日。早さを最重視し明日か明後日にする理由は、翔さんが抱いている仲間達への感謝にあります。ここに招待された仲間達は、景色の壮大さに度肝を抜かれること間違いありません。そんな皆さんに、翔さんが招待理由を説明するのです。説明を聴いた皆さんは、きっとこう思うでしょう。『翔神教誕生を阻止すべく自分達が活動していたことを知るやこうしてお礼をするなんて、翔さんらしいな』と」


 俺は翼さんの両手を取り上下にブンブン振って、同意と感謝と称賛の気持ちを言葉を尽くして伝えた。いつどのような理由で皆を呼ぶかという悩みを、翼さんが完璧に解決してくれたからだ。けどそれは早合点だったらしく、翼さんは更にこう続けた。


「ここへ自動的にテレポーテーションできる『鍵』のような物を、翔さんは創れますか?」「うん、創れると思う。どうして?」「トト〇のテレパシー吹き替え作業を、この景色を見ながらこの芝生でしたら素敵だなって思ったんです。吹き替えるテレパシーに、ここの素晴らしさが反映されるかもしれませんからね」「ウオオ、翼さんありがとう~!」


 プロには噴飯ものかもしれないが、声優は声に感情を乗せられる量で優秀度が決まると俺は考えている。感情移入すればするほど作品に没入でき、そして登場人物の声は、感情移入の最大要素だからだ。もちろん映像や音楽も、負けないくらい重要だけどさ。

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