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「えっと翔さん」「はい、何なりとどうぞ」「翔さんをもっと項垂れさせる事柄を、話していいですか?」「むむ、これでも俺は項垂れることに慣れています。どんなことでもド~ンと暴露しちゃってください」「・・・はい、ではお言葉に甘えて。翔さんを除く私達音楽仲間は、竜族がある宗教を将来持つようになるのではないかと危惧し、それを阻止する計画を既に実行しているのです」「おお、さすがですね! というように皆を賞賛する気持ちこそあれ、項垂れることは無いですよ。俺だけ知らなかったなんて、日常茶飯事ですからね」「たとえ危惧されている宗教が、翔(・)神(・)教(・)だったとしてもですか?」「ヒ、ヒッ、ヒエエエ―――ッッ!!!」


 ママ先生と同レベルに達している翼さんのフワっと制しをもってしても、俺がベンチを降り芝生に正座することを止められなかった。だが翼さんの意に反したのはここで終わり、さっきの「翔さんをもっと項垂れさせる」はピッタリそのとおりになった。俺は正座したまま前転するかの如く、上体を前のめりにしていたのである。でも、そうなって当然だと思う。なんてったって、「翔神教」なんだからさ・・・

 頭頂に降り注ぐ翼さんの声によると、翔神教の出現を最初に危惧したのは、深森霧島両夫妻だったという。心の成長を阻む宗教が前世の星にあったのは4人に共通しているし、また姉達に叱られそうだがやはり年の功があったのだろうと俺は推測した。それについては後で叱られるとして話を戻すと、両夫妻はその日のうちに準四次元で会議を開いたらしい。会議には幼稚園未訪問の翼さんも呼ばれていて、未訪問だろうと「翔神教」なる語彙を耳にするや、翼さんは両夫妻の予見の正しさを称えたそうだ。それは嬉しくとも「翔神教」なる語彙を耳にするたび俺の上体の傾斜はきつくなり、とうとう腕をつっかえ棒として使わねばならなくなってしまった。自業自得だから、耐えてみせるけどさ。

 話を戻そう。

 未訪問の翼さんですらそうなのだから訪問済の仲間達の賛同は半端なく、宗教に関する会議とは思えぬほど白熱した議論になったという。その結果、俺と竜族の関りを最初から把握することが不可欠と判断した皆は、アカシックレコードで過去に飛びそれを調べ始めた。それにより、対策を何も講じなければ翔神教の出現率はほぼ100%でも、今すぐ対策を講じれば出現率を非常に少なく抑えられることが判明した。主理由は、音楽仲間全員が組織に所属していたことにあった。組織の一員の俺は宗教が出現しない対策を無意識に施しており、それを組織の一員の仲間達は、意図的に補強できたのである。

 俺が無意識に講じていた対策の筆頭は、竜族と対等に交流していたことだ。仮に俺が上位者として振る舞っていたら、鈴桃達が亡くなった数百年後には、


『翔神が天から舞い降り神の知恵と技術を竜族に授け、竜族は偉大なる新竜族となった』


 系の宗教がほぼ100%誕生するらしい。けど幸い、というか俺としては当然中の当然なのだが俺は上位者としてではなく、対等な友達として竜族と付き合ってきた。それでも竜族は陰で俺を崇拝し、それが稀に「ナンマイダ~」として爆発したが、俺が「ナンマイダ~」をたいそう嫌がるのを見続けた竜族は考え方を次第に変えていったという。


「友達でも、崇拝の念を持つことはありますよね」「はい、翼さんに同意です」「上位者が崇拝の念を持って欲しくないと願っていたら『それに従うしかありません』が、翔さんは友達。ならばこのまま持っていても良いのではないか、だって友達なんだし。というように、考え方が次第に変わっていったのです」「う~むありがたすぎて、俺が『ナンマイダ~』したいくらいですね」「ふふふ、そう言うと思っていました。が!」「が?」「崇拝は残っています。よって翔さんの人柄を直接知る鈴桃達が亡くなり数百年したら、友情は消滅し崇拝だけが残ると、アカシックレコードは示していました」「ご、ごめんなさい・・・」


 俺は再び両腕を踏ん張ることになった。ちなみに翼さんも、今は芝生の上に正座している。俺はそれを阻止しようとしたが「私の気持ちより自分の気持ちを翔さんはこの状況で優先するのですか?」と問われたら、自由にしてもらうしかなかったのである。いやそもそも、俺の手におえる女性ではないのだから仕方ないか、フハハハハ!

 てな具合に余裕が出てきたのは翼さんのお陰のみならず、仲間達と竜族のお陰。皆との友情が、胸をポカポカにしてくれたんだね。

 それは置き翼さんによると、竜族の考え方が変わったことをアカシックレコードで確認した仲間達は、それを補強する交流をしていくことを決意したらしい。それが実り人族と竜族の友情は益々強固になり、宗教誕生阻止のための対等な関係作りはほぼ完了したという。嬉しくてならなかった俺は俯くことを止めガッツポーズし、雄叫びを上げた。翼さんもノリ良く付き合ってくれて、ふと気づくと俺達はベンチに並んで座り、音楽仲間達がいかに良いヤツらなのかを二人でまくし立てていた。翼さんもその良いヤツらの一人とくれば、正座再開は諦めるしかない。俺はその旨を伝え、降参の仕草をした。

 それを受け翼さんは、「では続いて音楽仲間達がまだ着手していない対策について説明します」と背筋を伸ばした。負けじと背筋を伸ばした俺の耳に、


「聖職者を誕生させないこと」


 との文言が入って来るや、俺はさっき以上の雄叫びを上げてしまったのだった。

 キリスト教の教祖は、誰なのか? この問いへの組織の見解は、大多数の地球人とは異なっている。組織の見解を簡単にまとめると、こんな感じになるだろう。


『キリスト教という宗教組織を、イエスは作っていない。よってキリスト教の教祖は、イエスではない』

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