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 脱線を止め、元に戻ろう。

 俺たち音楽仲間は、宗教についてこれまで幾度か議論してきたけど、各々に温度差があるのは否めなかった。ならばそれは、竜族が絡んでも変わらないだろうか? 心の成長を阻む宗教を竜族が持つ危険性を議題として取り上げても、興味をさほど示さない仲間がいるだろうか? 宗教論議にこれまで興味をさほど示してこなかったのは、この星に連続して生まれている昇、奏、鷲、橙、晴、藍の6人。幸運にも俺はこの6人と強固な信頼関係を築いているので、竜族が絡んでも変わらないかを正直に答えてもらえると思う。どのような状況でどう訊くかに難しさを多少覚えても、幸い当てはある。確認は、必須だけどさ。という訳でその確認をすべく、某仲間に俺は連絡した。


 その日の深夜。

 場所は、準四次元に創ったスペースコロニー。

 直径200キロ奥行600キロの空間を一望できるベンチで待っていた俺の隣に、翼さんが現れた。そう翼さんが、確認必須の仲間ってわけ。前回このコロニーに招待したさい、帰り際にこう言ってもらえたのである。「心を十分満たしてもらえましたから、この素敵な場所を独占するのは、今回が最後で構いません」と。

 翼さんだけを俺の基地に呼ばなかった償いを、俺は複数の方法でしてきた。その一つが、スペースコロニーの独占。仲間達をここに招待したら喜んでもらえるのは間違いなく、母さんの意味深な視線を無視するのは特に大変だったけど、翼さんに償うべく俺はそれらを脇に押しやってきた。押しやる価値は十分あり翼さんはここをたいそう気に入り、あまりにも喜ぶのでここは翼さん専用の場所にしようかなと俺は思いかけていた。落差1千メートルの滝を御神体とする神社を二人で参拝した前回はそれをことさら強く感じたため、専用場所化を決定した俺はそれを伝えるべく顔を向けたのだけど、翼さんに機先を制されたのである。「この素敵な場所を独占するのは今回が最後で構いません」と。

 だがたとえ機先を制されようと、専用化を決定した俺は食い下がった。「スペースコロニーに仲間達を呼ぶ丁度良い機会が訪れたと俺が感じたら、それを翼さんに伝える。そして同意を得られた場合のみ、スペースコロニーを仲間達に解禁する。どうかこれで納得していただけませんか」と、懇願したんだね。幸運にも俺は当たりを引いたらしく、「100%満たされていた心が120%満たされるなんてこと、本当にあるんですね」と笑ってもらうことが出来た。有頂天になった俺は油断し、宇宙戦艦ヤマ〇の有名なセリフ「エネルギー充填120%」が三次元を超える次元では可能なことを、滔々と語っちゃったんだけどさ。

 という若干の黒歴史を、翼さんは冒頭で抉(えぐ)ってくるのだから流石だよなあ。


「エネルギーと質量を等価としている相対性理論では120%の物質はあり得なくとも、三次元を超える次元ではあり得るという講義の、続きから始めますか?」「前回は本当にごめんなさい、どうかお許しくださいませ~~!」


 冗談ですよ冗談~~と、翼さんはコロコロ笑う。準四次元なのでそれが本音と判っても、二連続油断だけはすまいと命がけで決心した俺だった。

 などと頭の隅で考えていたら、二連続油断になりかねない。俺は竜族と宗教の件を、さっそく切り出した。元地球人として宗教の害悪を肌で理解し、かつそれが竜族に降りかかるかもしれないと知った翼さんは、全身を耳にして俺の話を聴いてくれた。そして基本情報を伝え終えるや、活発な議論を二人で展開していった。それはまこと充実しており、この件は翼さんに相談しさえすれば解決と俺に信じさせるほどだったのだ。いや実際、そのとおりなのかもしれない。


  心の成長を最重視する

  地球の宗教はなかった


 ということを実体験で理解している組織の仲間が一人いれば、それで事足りたかもしれなかったのである。

 最重視でなく、心の成長を促す宗教の教えなら、複数を素早く思い出せる。「隣人を愛せ(キリスト教)」や「執着を捨てよ(仏教)」や「困窮者を助けよ(イスラム教)」や「足るを知れ(老子の言葉)」等々がそれだ。それらが心の成長を促すのは事実だから、自分に合ったものを選んで実践すれば良いと思う。しかし、


  心とは何か


 を説明していなければ、画竜点睛を欠くどころの話ではなくなる。たとえば竜の絵を[1]アタリ[2]下書き[3]清書[4]画竜点睛の四手順で描くとしよう。すると画竜点睛を欠くは、[4]のみを終えていないという意味になるが、地球の宗教はそれどころではない。[3]の清書を終えている宗教さえ一つもなく、少数の宗教が[2]の下書きをどうにか終え、大多数の宗教が[1]のアタリを途中放棄しているのが、地球の宗教の実情なのだ。ちなみにアタリとは、形とバランスを大まかに決めることだね。

 さあでは、心とは何なのだろう。それを説明する前に、急がば回れに則り「失って初めてその大切さが解る」ことを例に挙げてみよう。「親を失って初めて親のありがたみが解る」や「病気になって初めて健康の大切さが解る」なら、大勢の人が身に染みて知っていると思う。水道が止まって初めて水道の大切さを知り、溺れて初めて空気の大切さを知るのが人なのだ。これらは、


『当たり前すぎて日頃は存在を忘れてしまっているモノほど本当は大切』


 と言い換えられる。ならば、当たり前すぎて日頃は存在を忘れているモノの究極は、いったい何だろう。地球か? 太陽か? 宇宙か? 宇宙を存在させている空間か? それらは究極の名に恥じないと俺も思う。眩暈がするほど大切な物と俺も断言できる。だが自分の外側ばかりを探していたら、究極の名に恥じないあるモノを見過ごしてしまう。それこそが「心」だ。心、言い換えると意識がなければ、何もないに等しい。仮に意識を失えばそのとたん、夢さえない熟睡時と同じ状況になる。何時間経とうが何日経とうが何十年経とうが真になにも無いため、それらは一瞬で過ぎ去ってしまうのである。

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