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 という訳で耐火セメントは確保できた。「さあ残りは耐火性に優れる石だ、散山脈諸島にあるかな」と調べたところ、俺はアホだった。急峻な山が多数あることで有名な散山脈諸島は、花崗岩の諸島だったのである(地下深くのマグマがゆっくり冷えて形成された花崗岩は硬く、かつ熱にも強いのだ)。川や崖へ試しに飛んで行ってみたら、大きさと形の丁度良い石がゴロゴロあった。若手竜を呼びそれらを回収し、練習用の竈づくりにさっそく取り掛かる。輝力工芸スキルの試験の一つを粘土細工にしていたことが活き、竈も予想より遥かに早く完成した。特に雄の若手竜達の貢献が著しく、粘土入りセメントを嬉々として扱う様子に、俺は同性として共感を覚えずにいられなかった。

 ちなみに農業や竈の製作は、ロボットが主導して竜族に教えている。だって俺、どちらも素人だからさ。ロボットに搭載されているのは古典AⅠでも美雪の制御下にあるため、竜達ととても良好な関係を築いている。竜語も話せるしテレパシーもできるから、子竜や妖精達はロボットを友達と思っているほどだ。一瞥しただけで「生物ではない」と印象付けるようあえて造られているのに、子竜や妖精達は純粋なのだな。

 かくして道も、畑も、竈(練習用)も完成した。しかも三つとも、予想より遥かに早く完成した。それは一見良いことのように感じるけど、全部が全部良いという訳でもない。「することが無くなっちゃったんですけど」と、俺は密かに頭を抱えていたのである。でもまあ、これくらいで丁度いいのかもしれない。農業と工業を広めたせいで竜族の心身がすり減ってしまったら、俺は絶対立ち直れないしね。よって「皆さんがすこぶる熱心だったので、することがほぼ無くなってしまいました」と正直に告げ、時期が来るのを気長に待つよう勧めた。草食動物の竜族は性格が穏やかなこともあり、のんびり気長に待つことをすぐ受け入れてもらえた。またこれくらい余裕のある方が、楮畑と椿畑の世話に適しているのかもしれないとも思えた。野菜を作っていたら、もっと大変だったけどさ。

 というのが、つまりすることがほぼ無くなったのが、5月序盤の話。あと1カ月足らずで夏季休暇が始まることもあり、成竜達は出し物の練習に熱を入れだした。仕事が減ったお陰で文化活動に注力できたのだから、やっぱこれで丁度良かったのである。

 出し物の練習に熱を入れだしたのは、子竜達も同じ。約4カ月前に初めて聴いた「総合芸術」という言葉に触発されたのだろう、子竜達の今回の出し物はかなり凝ったものになっている。しかしそれでも、老竜達の凝りようには負ける。老竜達は「それ大丈夫? ホント間に合う?」と心配せずにいられない劇を、夕食会で披露するつもりなのだ。その理由をみんな知っていることもあり、気を抜いたとたん視界が霞みそうになるんだけどね。

 元頭夫婦の16頭は、寿命をもうすぐ迎える。最短で8カ月強、最長でも1年半弱の寿命しか残っていないのだ。非常に強健な種族なため著しい体力低下や病気等に見舞われることもなく、この島にやって来た数年前と同じ元気な姿を16頭は今も見せてくれている。夏季休暇前日に開かれる夕食会用の出し物の練習に、全員一丸となって熱を入れているのもそのお陰だね。しかし、


「では半年後も同様に、全員で熱を入れられるか?」


 と問われたら、首を横に振るしかない。どれほど強健だろうと余命2カ月と少しでは、練習を制限せざるを得ないのだ。そうつまり16頭全員が一丸となって練習に打ち込めるのは、今回が最後なのである。

 ただ全員ではないのだけど、余命1カ月で行うこともある。ピアノを弾けるようになったら母さんが希望者を故郷の島へ連れて行く、というのがそれだ。演劇の練習とは異なり、輝力腕を動かすだけのピアノ演奏は、余命1カ月でも大丈夫ということなのだろうか? 一応俺もアカシックレコードで安全を確認しているし、何より母さんが問題視していないのだから、俺も大丈夫と信じることにしている。

 ならばそれを貫き話題を替え、今のところ唯一廃止した計画を取り上げる事にしよう。

 和紙を成竜達に紹介した日の夜、膨大な量の計画書が政府から送られてきた。その一つに筆の製作があり、竜族が育てた人参と馬の毛を交換して筆を作る、と計画書には綴られていた。俺もそれに賛成したが「輝力腕の創造は、輝力筆の創造より遥かに困難」ということに翌日気づいた。輝力腕を創れる者にとって、輝力筆の創造など屁の河童ってことだね。紙の本を造るなら墨汁は物質でなければならないが、筆は輝力製で構わなかったのだ。しかし、物々交換を竜族が経験するには良い機会と捉え、変更するほどではないと考えていた。けど一週間後、土地神から思いもよらぬことを告げられたのである。「散山脈諸島の馬は私たち妖精を介しても、物々交換を理解不可能でした」と。

 遠回りになるが、前世の話をしよう。前世の俺はある日偶然、流鏑馬(やぶさめ)をしている娘さん(以下Aさん)のドキュメンタリー番組を見た。Aさんと相棒の馬は心を深く通わせていて、両者の絆の強さに俺は幾度も驚かされていた。とりわけ凄かったのが、番組の最後の流鏑馬大会。Aさんは流鏑馬の大会に出場し、複数の的(まと)の一つに、コーナーを抜けてすぐの場所に設置されているものがあった。競技としての流鏑馬は、矢の的中率と走破時間で順位を決める。的中率が同じなら走破時間の短い方が勝ち、ということだね。よって出場者は走破時間を短くしようとし、するとコーナーを抜けた場所で外側に膨らみ、的との距離が開いてしまうという事態に出場者の多くが陥っていた。的から離れたせいで矢を外す映像が編集によって連続して流れ、遂にAさんの番になった。Aさんの乗った馬もコーナー終了時、外側に膨らんでしまっていた。しかしAさんが的に顔を向けるや馬も的に顔を向け、


「了解、次はあの的を射るんだな。そばに寄るよ」


 と馬自身が考えたかの如く、進路を内側へ変えたのだ。もちろんそれは俺が勝手にそう感じたにすぎず、真相は分からない。コーナーを抜けた場所の的は有名で、Aさんは対策を講じていたのかもしれない。番組の編集に、俺は踊らされただけなのかもしれない。それでもあの瞬間のAさんと馬は「人馬一体」という言葉を俺に思い出させると共に、


「人との交流は動物を賢くする」


 という論文をありありと思い出させた。Aさんと馬は非常に強い絆で結ばれており、それは日々の交流によって築かれ、その日々の交流が馬の知性を飛躍的に上げたと俺には思えてならなかったのである。

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