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 明けて翌日。

 昨日と同じ、子竜達の昼寝時間。

 第一回目となる習字の授業が始まった。といっても俺は訓練中だから、授業は輝力分身に任せている。美雪も手伝ってくれるし、全然平気だろう。

 授業用の半紙と筆と墨汁は、輝力製のモノを使っている。昨日渡した和紙は竜族の宝物になっていて、竜達によると「教科書の原本以外には絶対使えません!」とのことらしい。子竜の鱗に酷似するキラキラ輝く純白の紙だから、さもありなんだね。

 ちなみに昨日の和紙は、楽器保管庫の隣の紙及び本の保管庫に収納されている。母さんが昨日の夕方やって来て、創ってくれたのだ。覗いてみたところ、人類の提供する原本の保管箱を数百収納できる広さがあったな。母さん、いつもありがとうございます。

 そうこうするうち今日の訓練が終わり、散山脈諸島へ向かう時間になった。カレンの車中で準四次元へ意識投射し、楽器の練習をしながら俺を待っていた輝力分身と同期する。よし、第一回目の習字の授業は好評だったようだ。とりわけ好評だったのは、各自の個性に沿った書体を育てるよう成竜達に促したことらしい。


「性格と美的センスは各々異なります。自分はこれが好きなんだと胸を張って言える書体を、各自で育てていってください」


 と述べたのが、刺さったみたいなのである。さすが俺の分身と、俺は俺を褒めちぎったものだ。「育てると表現したのが特に良い」との言葉に、輝力分身はご満悦だったな。

 余談だがホントいうと、筆ではなく万年筆によるカリグラフィーを竜族に広めたかった。万年筆によるカリグラフィーを、前世の俺は愛していたからだ。欧州への初出張で知り合ったカリグラファーに褒めてもらった俺は、勧められるまま本場のカリグラフィーを始めて、そこそこ名を上げていたんだね。40代前半まで万年筆は仕事で多用し、日常では生涯使ってとても重宝したな。それは置き話を戻すと、輝力製万年筆はまだしも、凹凸の少ない和紙を作るのが無理だった。伝統的な手法で作った和紙は、ペン先が凹凸に引っかかってしまい万年筆を使えない。引っかからない和紙にするには近代的な工場が必要になり、諦めるしかなかったのである。俺の生きている内に鈴桃達が輝力製万年筆を創れるようになったら、カリグラフィーを披露してみようかと密かに計画している。文字を習う年齢までに大多数の竜達が輝力工芸スキルを英雄級にし、輝力製万年筆を容易く創れるようになったら、筆の習字は無形文化財になるのかもしれないな。

 などと考えているうち幼稚園に着いた。到着した俺を、今も変わらず子竜達は全員で迎えてくれる。風の良い日はフワフワ飛びながらやって来る子竜も見られるようになり、視界を霞ませぬ戦いをせねばならなくなった。けどそれは同時に、


「無上の喜びも、もたらしてくれるんだよなあ」


 子竜達の頭を撫でつつ俺は胸中そう呟いたのだった。


 翌日の夕方。

 山風から「昨夕の件の18頭が決まりました。明日出発するそうです」との報告を受けた。9つの島とテレパシー通信可能とはいえ、対応がやけに速い。この島を起点に農業と工業を広めることに、竜族は並々ならぬ意欲を燃やしているのだな。

 その後、最寄りの島の夫婦は3日後に最遠の島の夫婦は9日後に、無事この島に到着した。農業と工業を学ぶべくやって来た新参の18頭は、すべてこの幼稚園の卒園生。選考条件は二つあり、一つは鱗の白い幼竜のいないこと、もう一つは100歳以上であることだ。18頭のアカシックレコードを見たところどの竜もしこたま優秀で、二年以内に輝力腕を使いこなせるようになっていた。新参竜の選考には創造主もしくは母さんが関与したのではないかと、俺は推測している。

 時間をさかのぼり、少し整理してみよう。

 園長達に和紙を紹介した日の夜、かなりの量の資料が政府から送られてきた。それを読了し美雪の意見を聴いた結果、農業と工業の指導者として18頭の若手竜を育成せねばならぬことが判明した。その翌日、幼稚園で成竜達と話し合い18頭の条件等が決まった。竜の住む8つの島のそれぞれから夫婦を一組と、長(おさ)の島の夫婦を一組の、9夫婦計18頭を招くことになったのである。それはすぐさまテレパシーで各島に伝えられ、翌日には山風から「昨夕の件の18頭が決まりました。明日出発するそうです」との報告を受けることになった。やって来た18頭は優秀さが際立ち、創造主もしくは母さんが選考に関わったのではないかと俺は思わずにいられなかった。整理すると、こんな感じかな。

 18頭は将来、農業と工業の指導者になる。けど今は、輝力腕の習得が最優先。竜族に広める農業と工業は、輝力腕を使いこなせることを前提にしているからだ。そうはいっても、輝力工芸スキルの習得だけをさせ続けたらやる気を失うに違いない。ならば、どうすれば良いのか? 俺は真っ先に老竜達を訪ね知恵の拝借を請うたところ、


  道を造ってもらう


 ことになった。いやはやまったく、俺も衰えたものだ。使い勝手の良い道路の建設は新国家建設の基礎中の基礎だと、今生の俺は忘れてしまっていたのである。俺は美雪に頼み、この島の精巧な3D地図を映してもらい、農場と工場(こうば)の建設予定地をそれに書き込んでいく。18頭の新参竜の食料調達地域も書き入れた上で老竜達を尋ね、意見を求め、敷設する新道の経路および順序を決めていった。

 島環状道路と名付けられた新道の敷設は、俺の想像を十倍する速度で行われた。超速度の理由は何と言っても、成竜の巨体にあった。急峻なこの島の木はたいてい傾斜地に育ち、かつ傾いて立っている。それを活かし竜が巨体を乗せるようにして押せば、直径30センチの木も根ごと倒すことが出来たのである。最も手間取る地中の根の処理をしなくていい新道の敷設は、驚愕の速度で成されていった。

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