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「皆さんが文字として綴っているのは、実体験から直接学んだことです。皆さんは、歌の歌詞を耳で実際に聴いて覚えました。そしてその歌詞が、竜族社会に生きていることを皆さんは実際に経験してきました。体を介して納得し理解した記憶は単なる記憶ではなく、実りをもたらす知恵になります。それらの知恵を、皆さんは文字として綴っているのです」


 という俺の言葉に、成竜達が胸の中で「そんな当たり前のことをなぜ強調するのだろう?」と疑問符を浮かべているのは明白だった。それはまさに、俺が望んでいた状態。幸先良いことにホクホクしつつ、俺は説明を先へ進めた。


「けれどもそれは、文字を最近知った皆さんにのみ生じる現象です。心と体に数多(あまた)の知恵を既に刻み終えているからこそ皆さんは知恵を文字にでき、かつ『他者の書いた文字から知恵を掬い上げることができる』のです。さあ、想像してみてください。幼稚園に入園したばかりの子竜が文字を覚え、教科書を読み進めていったとします。3歳や4歳の子竜も皆さんと同じように、他者の書いた文字から知恵を掬い上げられるでしょうか?」


 ありがたいことに全ての成竜達が、ハッとした表情になった。俺が口を酸っぱくして言っていたある言葉を、思い出してくれたのである。言い換えるなら、


  あの言葉は今、

  竜族の知恵となった


 みたいな感じかな。万感の想いが胸に滾々と湧き出てくる。なぜなら俺は今、竜族の歴史的節目に立ち会っているからだね。再度ありがたいことに、全ての成竜達もそれに気づいたらしい。園長を始めとする老竜達が、立っているのが精一杯の状態になっている。若手の竜達も感極まっているけど、老竜達ほどではないようだ。山風が若手竜を代表し、発言の許可を老竜達に請う。老竜達はそれへ、達観した返答をした。「儂らは立ち会えただけで満足じゃ」「竜族の未来は、そなた達に託す」「たのんだぞ、山風」 山風は老竜達に腰を折ってから、俺に正対した。


「3歳や4歳の子竜では教科書を読めても、知恵を掬い上げることは不可能です。数多の知恵を心身に刻んでから文字を教わった私達とは、異なるのです。しかし仮にその子竜達を教え導く成竜が『知っているだけで偉いというのは間違い』という知恵を体得していなければ、成竜と子竜の違いを見分けられません。すると子竜達もその影響を受け『知っているだけで偉い』を信じるようになり、それが竜族全体に浸透してしまいます。『知っているだけで偉いというのは間違い』が竜族に浸透するのか。それとも『知っているだけで偉い』が竜族に浸透するのか。二つの未来のどちらに竜族が進むかは、教科書を造っている私達に掛かっているのだと、私は今ようやく理解しました」


 文字を持たない竜族は、『知っているだけで偉いというのは間違い』を知恵に基づき理解できていた。だが文字を得たことにより、『知っているだけで偉い』という知性を基準に生きる未来が新たに生じた。竜族は今まさに、宇宙の摂理に沿う種族のままでいるか、それとも宇宙の摂理に反する種族になってしまうかの、分岐点にいるのである。

 幸い山風が述べたように、現時点における竜族は前者の道にいる。だが油断したとたん地球人と同じ、後者の道に転落するだろう。「知っているだけで偉い」という知性優位社会を広め、社会のほぼ全てにそれを適用した地球人は、


『AIは人類より知性が高いのでAIの方が偉い』


 という未来へ突き進んでいる。それに反する主張をしていた有識者を、俺は知らない。AIの開発を減速させるべきと主張する程度の知恵しか、あの者達は持っていないのだ。

 まあそれは置き、俺はソクラテスの言葉を竜達に紹介した。


「地球人を代表する知恵者が、かつてこう説きました。『文字は人を馬鹿にする』 俺はそれに完全同意しますが、その知恵者と為政者達の知恵には天と地ほどの開きがあり、為政者達は知恵者をまったく理解できませんでした。よってその知恵者は処刑され、真逆の『文字は人を賢くする』が地球人に浸透してしまいました。そのせいで前世の俺が去る頃の地球人社会は、破滅の未来に突き進んでいましたね」


 科学技術で賢愚を計る地球人は完全に誤解しているけど、古代ギリシャ及び古代ローマの賢人は現代地球の賢人を凌駕している。古代ギリシャ及び古代ローマは第六時代の頂点を担ったため、第七時代冒頭で低空飛行中の地球人より成長していたのだ。また科学技術で賢愚を計ると、「科学技術に勝る宇宙人は地球人より偉い」という理屈にもなる。科学技術に勝る遺伝子族の、望むままになってしまっているな。

 かつての星を思い出したら頭痛がしてきた。今に集中することにしよう。

 ソクラテスの「文字は人を馬鹿にする」に、成竜達は打ちのめされたらしい。しかしまことありがたいことに、俺は竜達に信用されているようだ。文字を得ても馬鹿にならない方法を複数教えられてきたことを思い出した成竜達は、宇宙の摂理に沿う道をこのまま歩むことを約束してくれた。俺は安堵し、新たな話題を取り上げた。


「前世の俺の子供時代には、『文字には人の全てが出る』というデタラメを子供達に教える教師が多数いました。それについて語るのは二度目ですが、今回はより詳しい情報を概念テレパシーで一気に送りますね」


 数瞬後、成竜達は怒るやら顔を青くするやらになった。前者も後者も嬉しいというのが俺の本音。ただ時間もないので今取り上げるのは後者とし、話し合いを進めて行った。

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