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創作動画制作に慣れたことは、映画を始める前に口頭で終わらせるつもりだったことにも影響した。口頭説明する予定だった一つは、お婆さんについてだった。アトランティス人は地球人の20代後半から終盤の容姿で亡くなるため、竜族と妖精族はお婆さんを、人ではない別の種族と認識するかもしれなかった。よってお婆さんは人族ということを口頭で説明する予定だったが、「加齢による人族の容姿の変化を動画で見てもらおうよ」という事になったのである。その制作中、この動画は竜族と妖精族のみならずアトランティス人の子供にも有用と皆は気づき、当初を倍する熱意で取り組んだものだった。
口頭説明するつもりだったもう一つは、学校と病院についてだった。竜族にも幼稚園があるから学校は解りやすく、そのノリで病院も説明してしまおうと俺は考えていた。が、
「母親が病気で一緒に暮らしていないことは超重要事項なのに、軽視してない?」
と女組に詰め寄られ、土下座することになったのである。女組は非常に優しくいつもは怒っている振りをしているだけなのに、この件は例外だったらしく本気で怒っていて、俺も本気の土下座をしたものだ。女組の皆さん、マジごめんなさい。
とはいえ女組の皆さんはホント優しく、心底反省し謝罪したらすぐ許してくれた。よって話を進めると・・・いや、話は終わりか。お婆さんと学校と病院の動画制作終了をもって、「となりのトト〇」に関する全作業が終了したからである。それは5月半ばの出来事で俺達は準四次元に集まり、盛大な打ち上げを開いた。皆が一丸となった創作活動を初めて完了させたからだろうか、それは今生で最も楽しい打ち上げになったのだった。
――――――
話は3カ月半さかのぼる。
2月上旬の、竜族の幼稚園。
俺は手にしたある物を、園長を始めとする成竜達に紹介していた。それは、和紙。そう前世の俺の祖国が世界に誇る、1千年の歳月を耐える紙だね。しかも園長達に紹介している和紙は、この散山脈諸島に自生する楮を原料に作ったものだったのである。
子竜達が冬期休暇から戻って来た日、頭竜と親竜達の二食分の果物を調達すべく、幼稚園の島の48カ所に俺は散らばった。それを経て幼稚園の島は先住民族の果樹園だったと俺は確信し、その時はそこで考察を終えたが、ある日のお昼休み中ふと思ったのだ。「散山脈諸島の元々の植生は、どうだったのかな?」と。
さっそく美雪に協力してもらい、元々の植生に関する本や論文を探した。するとさすが5万年以上続く文明国家なのだろう本と論文が想像以上にあり、知的好奇心を刺激される時間を過ごしていたら、今も自生するある植物の名が目に飛び込んできた。それは、楮。和紙の原料として最も用いられている、植物だね。温暖で日当たりの良い場所を好む落葉広葉樹の楮はベトナムにも自生し、ベトナムのホーチミン市が確か北緯10度くらいだったから、高山のある散山脈諸島に生えていてもおかしくない。そう思い調べたところ予想に違わず、散山脈諸島北部の島の海抜1千メートルから2千メートルの間に楮は広く分布していた。美雪に「幼稚園の島でも栽培可能かな?」と訊いたら、楽々可能とのこと。本体に「幼稚園の島に楮はある?」と尋ねたら、無いと返答されたけどさ。
気を取り直し美雪に、竜族が使う和紙を散山脈諸島産の楮で作れるか否かを訊いてみた。美雪にしては時間が掛かり、10秒ちょい待って得た返答は「環境省のメインAIは法的に可能と判断したけど、環境大臣が許可するかは分からない」とのことだった。しばし考察し、美雪に問うた。
「園長達が作っている教科書を、3D映像で映せる?」「翔ならどんなこともご自由に、と園長先生達に許可してもらっているわ。はいお待たせ、これが竜族の初級教科書」「ありがとう美雪。輝力紙に模写していくから、協力お願い」「任せて!」
ほどなく輝力紙への模写が完了した。分割していた心が書いていた説明文も完成し、模写に添えて大統領にドローンで配達する。大統領と会見したさい名刺をもらっていて、それを利用させてもらったんだね。翌日のお昼に大統領からメールが届きそれによると、条件を複数満たせば竜族の使う和紙を散山脈諸島産の楮で作るのは可能とのことだった。整理すべく、俺は条件を宙に書き出していった。
[1] 防疫の観点から、和紙の製造に関する全行程および完成した和紙の輸送は、政府所有の無人工場飛行車およびその装備で行う。
[2] 使用する楮は、竜族が立ち入らない地域に自生する物のみとする。
[3] 楮の採集には、妖精の許可を必ずもらう。
[4] この件については当面、他言無用とする。
まあこんなところかな。和紙の件にかかる全費用は、人類軍勝利への俺の貢献で相殺してくれるという。ありがたい限りだ。俺は大統領にお礼の返信をした。
妖精の許可は、その日の夕方にもらった。竜族の教科書の原本を、1千年生き続ける紙で作ることに、土地神も強い関心を抱いていたな。
無人工場飛行車のロボットによる楮の採集は、翌日の昼に行われた。もちろん俺も、輝力分身を瞬間移動させて立ち会った。土地神と島の頭妖精が立ち会ったのは納得できるが、葉月さんもいたのは謎だった。妖精達の目もあるし、如才なく対応したけどさ。
アトランティスの超技術をもってしても、和紙の完成には三日を要した。美雪によるとその大半は、防疫関連みたいだったけどね。輸送されてきた和紙を海上で受け取り、土地神に有害物質の有無を尋ねたところ、無いとのことだった。アカシックレコードを見ても問題皆無だったので土地神にそれを告げ、俺は和紙を携え幼稚園へ向かった。
という訳で、今。
場所は、幼稚園前の広場。
俺が差し出した和紙を、成竜達が食い入るように見つめている。その眼差しは称賛と憧憬に満ち、それは竜族にとって白が特別な色であることを物語っている。それもそのはず、白は愛らしい子竜達を包む、鱗の色だからね。




