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 そうこうするうち翼さんに落ち着きが戻り、瞬間移動の仕組解明はお開きとなった。大した手助けなどしていない俺に、翼さんは粛々と腰を折る。その様子にある閃きを得て、三十数年来の疑問を解けた気がした俺は、考えなしにそれを口ずさんでいた。


「翼さんは知り合ってしばらくしたら、丁寧言葉を突然使うようになったよね。それは俺の三十数年来の疑問だったんだけど、『感謝と謝罪を伝えやすくするため』という理由もあったのかな?」


 知り合った頃の傍若無人な翼さんにも、感謝と謝罪を述べる人という印象はあった。しかし今の翼さんと比べたら、印象が劣るのは否めない。それを是としなかったため今の口調に換えたのではないかと、俺は閃いたのだ。


「はい、それも理由の一つです。私の当主教育は物心つく前から始まり、所作と口調と心構えは最重要の教科でした。心構えを理解できるようになると、お爺様や哲司さんや響子さんを始めとする家族と家人にこの口調で接するようになりましたが、家族と家人以外でこの口調になる人はいませんでした。翔さんはその、初めての人ですね」

「えっとあの、恐縮です」


 初めての人という言葉に過剰反応してしどろもどろになった俺に、翼さんはコロコロ笑う。上品さと親密さを兼ね備えたその笑みに、しどろもどろを重症化させてようやく、考えなしにより墓穴を掘ってしまったことを俺は悟った。でも翼さんになら、それで全然いいのだ。それは本音だったこともありリラックスした俺は、今夜の本命を放った。


「責めているのではないから安心して聞いてね。トト〇の次の映画を女組に・・・」


 安心してという言葉を信じ、翼さんは俺の話を最後まで落ち着いて聞いてくれた。そして俺の推測がどれも正しいと認めたのち、竜族に紹介する次の映画を知っていることを女組に感づかれた件を翼さんは謝罪した。さっきのコロコロ笑みに対抗し、誠実さと親密さを兼ね備えた表情で俺は語り掛けた。


「たとえ感づいたとしても、映画名やストーリーを根掘り葉掘り聞き出そうとする人は音楽仲間にいない。実際、優遇声優と不遇声優の調整が可能か否かを、翼さんに確認しただけなんだよね」「はい、そうです」「なら謝罪は不要だよ。それに元を正せば俺が翼さんに、次の映画をうっかり洩らしたことが原因なんだしさ」「翔さん、お願いがあります」「何なりとどうぞ」「どうかこれからも、私にうっかり洩らしてくださいね」「こりゃ一本取られた。そうだな、こんなのでどうだろう? 『うっかり洩らすまいとする気持ちを、翼さんにだけ半分の半分にする』とか?」「十分です。ありがとうございます」


 この会合は、翼さんに課した負担を解消するために開いた。だがその負担の説明を、俺は半分しかしなかった。女組に感づかれたことへの後ろめたさだけを口にし、独身云々は伏せたのである。翼さんのことだから伏せた方もお見通しのはずだけど、それを追求しない代わりにお願いをしてくることまでは予想していた。「これからもうっかり洩らしてください」は、予想の上をいってたけどね。でも咄嗟に閃いた「洩らすまいとする気持ちを半分の半分にする」を妥当と認めてくれたようだから、とりあえず及第としていいのだろう。とりあえずというのは、第三回コロニー名所巡りの出来栄えにかかっているから。どうか翼さんが、落差1千メートルの滝を御神体とする神社を気に入ってくれますように。

 との想いを胸に俺はベンチの前に、空飛ぶ絨毯を出現させた。


「よし、話は終わった。では三回目となる、コロニー名所巡りに出発しますか!」

「待ってました、バンザーイ!!」


 俺達は空飛ぶ絨毯に乗る。そして筒状のコロニーの反対側にあるためここからは目視できない、コロニー最高峰の山脈を目指して飛んで行ったのだった。


  ――――――


 テレパシー送受信による「となりのトト〇」の吹き替え作業は、とある工夫をしたことにより極めて順調に推移した。計画どおり順調に進んだけどすべて終了したのは、4カ月後の5月中旬だったけどね。

 4カ月という長期計画を立てた理由は二つある。一つは、竜族社会に無いものの紹介はテレパシーでも難しいと予想されたからだ。農業を例に挙げよう。

 採集のみで食料を賄っている竜族は、農業を知らない。しかし全く知らないということはなく、妖精達が木や花を世話しているのは見てきたから、妖精の代わりに自分達が世話をすることなら竜族も想像できた。だが出来たとしても、トウモロコシ畑を見たとたん「これはトウモロコシ畑」と理解するのは不可能だし、お婆さんが丹精込めて作ったことを理解するのも不可能。老体に鞭打って畑に通い、経験と愛情をたっぷり注いでお婆さんがトウモロコシを育てたことを、竜族は想像すらできないのだ。そしてできないなら、


『このトウモロコシを食べればお母さんはきっと元気になるとメ〇ちゃんが信じたこと』


 も、竜族は決して理解できないのである。

 この問題を仲間達と話し合った結果、新たな映像を加えることになった。トウモロコシ畑で働くお婆さんの映像を、新しく造って竜族に見せることにしたのだ。大仕事になること間違いないが、幸い時間はある。また「竜族が果樹園に挑戦する時の参考になるのではないか」との意見は、皆のやる気を燃え上がらせたものだった。

 という訳でやる気に燃えつつ、まずは情報収集という鉄則に則りトウモロコシの栽培方法を調べた。すると次第に、


  新映像の追加は創造主の意志か?


 と俺達は思うようになっていった。映画に描かれている期間とトウモロコシの栽培期間が、見事に一致したからである。両者を簡単にまとめてみよう。


[1] 映画は、4月から8月下旬までの物語。

[2] 収穫後にする初めての畑仕事は、畑起こし。畑起こしには冬に行う「荒起こし」と、種まきの2~3週間前に行う「本起こし」の二種類がある。映画が始まるのは4月なので、本起こしの映像を差し込むことが出来る。

[3] トウモロコシは4~5月に種をまき、80~90日で収穫する。メ〇が迷子になるのは8月下旬なため、5月中に播種、8月下旬に収穫とすれば映画と一致する。

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