↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
978/1027

331

 約三週間後、教導の仕事をつつがなく終えた。子供達は可愛かったし教官達とも話が弾んだし訓練に支障も出なかったから、大成功として良いんじゃないかな。4月に入学する新1年生の教導は、5月下旬開始を一応計画している。

 テレパシー送受信機の民間運用は、二週間前から始まった。鷹司令官によると、夫婦仲が良くなったという報告ばかりで悪化したという報告は今のところ無いという。アカシックレコードで確認済だろうと、安堵の息を大きくついた俺だった。

 子竜達の飛行訓練も順調に推移していた。また数年前に予想された「飛行能力を再獲得したら子竜達はそれしかしなくなる」という事態には、なっていなかった。その理由は「子竜達と話し合ってそう決めたから」なのだけど、それについてはまたその時が来たらってことで。

 教科書制作も順調だった。監修を頼まれるたび、歌詞と説明文と楽譜の適切さ及びそれぞれの配置の美しさを俺は褒めちぎっている。演劇の記述は試行錯誤中のようだが、現時点で合格点を上回っているのは間違いないだろう。ただ俺の本を書くべく、幼稚園の島にいる成竜総出で俺の思い出を文字にしまくっていることには戦慄を禁じ得なかった。楽譜の指導等を一手に引き受けている関係で件の文を目にすることの多い美雪によると、竜族は記憶力が非常に良いという。「文字を持たなかったぶん、記憶力が鍛えられたのだと思う」という美雪の見解に、ソクラテスの「文字は人を馬鹿にする」という言葉を思い出した俺はそれについて美雪と議論することで、俺の本絡みの戦慄を誤魔化していた。

 元頭夫妻達は、教科書制作と楽器練習に張り切り過ぎている気が多少するけど、健康面での問題は今のところ無い。前世の俺は、余命幾ばくもない人が突如元気になり、家族と楽しく過ごして亡くなる様子を度々見てきた。その現象が、元頭夫妻達に生じているということは無いだろうか? 300歳の長寿ゆえ、その現象が1年間続くこともあるのではないか? 緑竜学の論文を手当たり次第に読んでいる美雪によると、そのような記述はないという。ならば、母さんの約束に励まされていると考えるのが一番しっくりくる。約半年前の「飛行能力を再獲得した鈴桃達を見届け、ピアノで伴奏を務められるようになったら、希望者を私が故郷に連れて行きます」がそれだね。16頭の元頭夫妻達の中で余命の最も少ない竜も亡くなるのは次の冬期休暇以降だから、冬期休暇の初日を帰郷の日と思い定めているのかもしれないな。いや・・・


「いや、現実を直視しよう。『かもしれない』ではなく、きっとそうなのだろうな」


 元頭夫妻達の姿を一頭一頭思い浮かべつつ、俺はそう呟いた。

 竜族についてはこれくらいにして、音楽仲間達に移ろう。

 テレパシー送受信機の完成により、「となりのトト〇」の声優を決める選考会が二週間前、準四次元で開かれた。声優の座を勝ち取るべく目の色を変えていたのは女組のみで男組はジャンケンできめたのだがそれは置き、主要キャラの声優はこのように決まった。


  サツ〇  鈴姉さん

  メ〇   小鳥姉さん

  お婆さん 母さん

  父親   勇

  母親   舞ちゃん

  カン〇  裕也さん

  トト〇  達也さん


 これ裏取引が絶対あったよね、と思っても口にしてはならない空気が選考会場に漂っていたのは事実だった。然るに今もそれに従い話題を替えると、セリフが一回きりなこともありハズレ役の最右翼とされた本家のお婆さんは、奏が担当することになった。戦士養成学校在学中はアトランティス星一の美少女と謳われ、卒業後はアトランティス星一の美女と称えられている奏の配役としては、暴動が起きるレベルのミスキャストなのだろうな。

 でもトト〇で不遇だった声優は次の映画で優遇されることがほぼ決定していて、個人的に次の映画の主人公役は奏が適切と感じるから、今回は涙を呑んでもらおうと思っている。次の映画を唯一知る翼さんも同意見だし・・・・あ!

 あることに気づいた俺は、それに基づき考察を始めた。

 翼さんは、次の映画を知る唯一の人だ。それを女組が知ったら、どうするだろうか? トト〇で不遇だった声優は次の映画で優遇されるという前提を基に、女組は優遇される今回の声優を決め、翼さんに意見を求めたのではないだろうか? プロの世界なら、最優秀声優に主人公役を連続で務めてもらうのは普通だ。けど俺らは、ただの素人。よってしこりが残らぬよう、優遇声優と不遇声優を二つの映画で調整してもかまわなかったのである。ということは「二週間前の選考会は出来レースだった」と考えてしまいそうだけど、それは違うと俺は断言できた。


『女組は声優の訓練を誰もが真剣に行い、主人公役になれる実力を全員が身に着けたことを示すべく、選考会を開いた』


 に違いないんだね。これらのことを俺以外の男組は知っていて、かつ選考会で女組全員に主人公を張れる実力があることを認めたから、裏取引があったとしか思えない配役に男組もなった。というのが、この件の真相なのだろう。俺だけが知らなかったという状況も、慣れっこなので問題ない。守秘義務が人の形をしている俺は「俺だけが知っている」という状況にいつもいるため、今回の件はむしろそれを中和してくれたのである。

 ちなみにトト〇で俺が務めるのは、猫バ〇。「猫と一番触れ合ったのは俺だから猫〇スの声優になりたいな」とあるとき洩らしたら、俺だけはジャンケン抜きで配役が決まったんだね。裏取引があったにせよ、俺はそれに心から感謝している。のだけど、


「翼さんに負担かけちゃったな」


 俺はそう、胸の中で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。