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そうこうするうち子竜達の浮遊は終わった。俺に抱き着きお礼を言った子竜達が、両親のもとへ駆けていく。両親達の喜びようと言ったらなく、お祭りが今まさに始まったかのような状態になった。よし、暫くそっとしておくことにしよう。そう判断した俺は、大風と慈雨のいる貴賓席へ足を向けた。
大風と慈雨に、疲労の有無を小声で問う。喉とその下部の広い範囲を地面に付けるナンマイダ~は体への負担が大きく、案じていたのだ。幸い疲労はなく、また二頭はそれを日頃の体操の成果と喜んでいた。適度の運動をして体の柔軟さを保つことは健康長寿に繋がると母さんに教えられた二頭は、毎日欠かさず体操しているそうなのである。「翔さんの残り二つの映像作品を見るまでは」「健康を保ちますからご安心ください」 との約束を守ってくれることは疑ってないし、ナンマイダ~の疲労がないのも疑ってないけど、そろそろ就寝させねばという焦りを覚えるのも事実。今夜の食事会は予定になかったから、準備を十全にできなかったのだろう。母さんも同意見らしく貴賓席にやって来て、大風と慈雨をこっそり帰してくれた。母さん、いつもありがとうございます。
その「ありがとう」をその後、四人の音楽仲間からも言われることになった。うち二人は、舞ちゃんと勇。舞ちゃんに初めて打ち明けられたが、前世で就職した最初の楽団では将来のコンマスと目されていてそれも嫉妬を呼び嫌な思いをしたため、今生もコンマスを避けていたという。でも今夜コンマスとして皆と一緒に音楽を創ったら、楽しくて仕方なかったらしい。かくなる理由により「ありがとう」と言ってもらえたということ。それは手放しで嬉しかったけど、涙と鼻水まみれの勇に「あひひゃひょう~」と散々抱き着かれたのは、親友と言えど苦笑してしまったな。
ありがとうと言ってくれたあと二人は、橙と藍だった。実を言うと橙は今夜、コントラバス奏者としてデビューしていた。当人が緊張せぬよう、意識しなかったけどさ。
橙は重低音が大好きなのでファゴットとチューバを愛していても、この二楽器の出番はさほど多くない。白鳥の湖では活躍してもそのような作品は少なく、前々から心配していたのだ。よってコントラバス隊に誘ったところ、橙は一も二もなく飛びついた。でもそれは、茨の道だった。橙は弦楽器が、苦手だったのである。しかし、樹齢数千年の大樹の声が如きコントラバスの音色に惚れていた橙は決して諦めず練習を続け、今夜ついにデビューを果たした。出来栄えは、文句なしの合格。コントラバス隊の欠くべからざる一員として、深みのある重厚な音を響かせていたな。本人も嬉しかったのだろう謝意を述べてくれたけど、勇と同じ涙と鼻水まみれの「あひひゃひょうひょひゃひまひゅ~」だったのは苦笑するしかなかった。藍がその分しっかりお礼を言ってくれたのは、夫婦仲が良くて微笑ましかったけどさ。
出番が少ないと言えば鷲のサックスもそうだが、もう一つの担当楽器のホルンが難しすぎるので不満は一切ないという。ホルンはオケで最も難しい楽器なのに、ソロ及び重要な場面を頻繁に任されるという謎の宿命を背負っている。したがって何倍も練習せねばならず、「ですからもう一つがサックスで正解でした」と鷲はいつも素で述べていた。
ちなみに今夜の花のワルツではホルンとクラリネットが対のように活躍し、その対を鷲と晴の夫婦でこなせたことを、二人は殊の外喜んでいたな。
喜ぶと言えば、翼さんがハープで大活躍したことを音楽仲間達は非常に喜んでいた。ただハープは子竜達を泣かせもしていて、理由はハープの練習を禁止していることにある。大空を飛ぶことになる子竜達の目を、乱視にする訳にはいかないからだ。しかし絶対禁止では決してなく、輝力をレーダーとして使えるようになれば許可すると約束している。目を閉じて練習すれば、乱視にならないからね。もっとも輝力レーダーはとても難しく、鈴桃でも習得は十年以上先になるだろうな。
などとアレコレしているうち、子竜と親竜が落ち着きを取り戻した。園長が音頭を取り、臨時夕食会は終了することになる。音楽仲間達はこのまま泊まるか帰るかを決めかねていたけど、楽器を教えている子竜達がやって来て厚く感謝を述べられたら泊まり一択になったようだ。母さん用の宿泊車も、さっきカレンに牽引して来てもらったし問題ない。う~んでもできればシャワーを借りられたら御の字なのだけど、どう切り出そうか?
「翔、今が最も目立たないわ。入っていらっしゃい」
1秒も悩む間もなく母さんのテレパシーが届いた。確かに今なら、仲間達も子竜達も会話に夢中で俺に意識を向けていない。教科書について園長夫妻と熱心に話す母さんの隣にいる美雪にシャワーを借りることを告げ、俺は宿泊車へ足を向けた。
翌、1月15日。
親竜と頭竜達は、午前中に島を後にしたらしい。らしいというのは、俺は教導の仕事で島にいなかったから。最高分身数で教導するため、島に分身を割くことができなかったのである。ちなみにこの仕事は今日から始めた。11日連続で従事するのではなく、訓練日と教導日を1日ずつ繰り返すことにしている。
という訳で午前の教導を終え、昼食を摂るべく基地に帰って来た。着陸し、駐車場を見渡す。冬期休暇の三週間ずっと停車していた三台の住居型飛行車が見当たらないことに、寂しさが募っていく。舞ちゃん、奏、鷲一家そして橙一家が、去ってしまったんだね。
「翔」「お兄ちゃん」「うん、想像以上に寂しかった。だから暫く、こうしていよう」
俺は美雪と美咲を抱き寄せる。それから三人で、三週間の思い出話に花を咲かせた。美雪は女組と頻繁に交わした女子トークの楽しい思い出を、美咲は鸞と藤という弟分達と一緒に遊んだ楽しい思い出を、一つ一つ噛みしめるように話していった。「ならば何より」と俺は二人を再び抱きしめる。そして、
「さあ、お昼ご飯を食べよう」「「賛成~~」」
三人でワイワイしつつ、駐車場を後にしたのだった。




