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演奏後、俺達は常になく賑やかな拍手喝采を贈られた。それは観客達が、大好きな人と幻想世界でダンスを楽しんだ証なのだろう。俺達は立ち上がり、ポカポカの胸で観客に手を振り返していた。そんな俺達に「アンコールしていい?」という母さんのテレパシーが届いた。実を言うと俺は今、アンコールの必要性をいささか感じていた。映像作品1をこの夕食会で上映するよう創造主に頼まれているけど、ロッ〇ーのあの曲と花のワルツは、いろいろな意味で似ていないからさ。
との思いを仲間達にテレパシーで伝えたところ、即座に同意してもらえた。よって俺が代表し肯定のテレパシーを母さんに返した途端、
「「「「アンコール! アンコール!」」」」
竜族と妖精族も加わった大合唱が始まったではありませんか。俺達が気づかぬうちに、母さんは根回しを終えていたみたいなのである。そうはいっても、嬉しいことに変わりはない。俺達は概念テレパシーによる高速会議をすぐ開き、アンコールの曲目を決めた。目立つ場所にいるから丁度いいという理由で発表役を押し付けられた俺はやけっぱちになり、右手の人差し指を天頂にビシッと向ける。そして、
「一曲いきま~~す!」
と叫んだ。怒涛の拍手と歓声に全身で応え、仲間達は着席。俺も踵を返し、ハープの翼さんと第一バイオリン、第二バイオリン、そしてビオラとアイコンタクトを取った。アンコールの曲目として選んだ「白鳥の湖、情景」はハープから入るが、ハープによる単独演奏は最初の一音しかない。二音目でバイオリンとビオラが加わり、しかしバイオリンとビオラも一音奏でたらビブラートに変更するという、気の抜けない始まり方をこの曲はする。その後を引き継ぐオーボエの藍とも、今のうちの意思疎通が必須だ。それらを終わらせて指揮棒を構える。そしてそれを、俺は振り上げた。
実を言うと「白鳥の湖、情景」は、サプライズの曲として花のワルツと争った候補1だった。ハープの活躍する演奏時間3分の曲という、条件を高品質で満たす有力候補だったのである。花のワルツに負けはしたものの結局こうして演奏しているのだから、二曲とも縁があったのだろう。いやひょっとすると、創造主は二曲の両方を演奏することを、100点満点の正解として最初から設定していたのかもしれない。
その100点満点説を後押しする出来事が、演奏後の質疑応答で起こった。演奏を終え拍手が轟き、それが収まり質疑応答の時間になるなり、園長が真っ先に挙手したのだ。いつもは質問があっても子竜達の挙手にわざと合わせ、子竜達に先を譲ってくれるのに、形振り構っていられなかったようなのである。子竜達もそれを察知し、自分達は園長先生の後にしますと目で俺に訴えている。まったくもって、良い子たちだ。もちろん園長も良い園長先生なので、普段の行いに報いるべく「はいどうぞ」と俺は促した。形振り構わないのはまだ続いており、園長は息せき切って問うた。
「今の曲も花のワルツと同様、ダンス曲ですか?」「よく気づきましたね。そうです、両方ともダンス曲です」「私達の演劇に譬えるなら、場面の楽しさを観客に伝えるためのダンス曲が、花のワルツ。対して今の曲は、場面の深刻さを観客に伝えるためのダンス曲。このように私は感じました。翔さんが前世を過ごした地球には、節目となる場面に即した踊りと音楽が用意されている、高度な演劇があったのではないでしょうか?」
正直、たまげた。園長はまったく新しい演劇の分野を創造する、革命児だったのである。なぜなら二つのダンス曲を聴いただけで、オペラやミュージカルの原型を思い付いたんだからね。その巨大な才能に敬意を表し、俺は答えた。
「演技、物語、歌、ダンス、音楽、そして大道具小道具等の舞台装置の六要素を、それぞれ芸術の域まで高めた演劇が地球にはあります。それは六つの芸術の集大成なため単なる演劇ではなく、総合芸術と呼ばれていますね」
というように、俺は脚色して説明した。脚色したのは、衣装という語彙を使わなかったこと。地球では総合芸術の一つに数えられる衣装を、意図的に省いたのである。服飾文化の毒を、竜族にもたらす訳にはいかないからさ。
幸い園長は、違和感を覚えなかったらしい。竜族に衣服はないため違和感を覚えなかったというのもあるが、それより「総合芸術」という語彙に打ちのめされたみたいなんだよね。演劇の革命児の園長には、無限の魅力を称えた語彙だったのだろうな。
総合芸術という語彙が耳に入るや、園長は自分の世界に没入してしまった。遠い目をしてブツブツ呟くばかりの園長に代わり、奥様が俺に詫びる。その必要はありませんと心から伝えて、俺は園長以外の観客へ顔を向けた。子竜と成竜の区別なく、多数の手が一斉に挙がる。俺はほくほく顔で質問に答えていった。
言うまでもなく、演奏が終わると同時に俺は指揮台を消し、質疑応答をこなした。いつまでも一段高い場所にいるなど、礼儀にもとるからだ。というのは嘘で、ヘタレ小市民気質が俺にそれをさせたというのが真相なのだけど、観客達は異なる解釈をしたらしい。アンコールも終わったし今夜の演奏はこれで終了という意思表示を俺がしたと、解釈したようなのである。挙手が少なくなるにつれ、悲しげに俯く子竜達が増えていく。心臓に悪いが、今回は「どうにかしろよこの野郎!」系の視線で俺を睨む者はいない。音楽仲間達は皆、引き続き映像作品1を上映するって知っているからさ。
との情報は洩らさずとも、「俯かなくていいのよ」とテレパシーで子竜達に伝えた女組は複数いたようだ。子竜達は弾かれたように顔を上げ演壇の女組と視線を合わせ、笑顔に次々なっていったのである。心優しい女性達に、俺は頭の下がる思いだった。




