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 母さんと美雪と美咲は、抱き合ってしばし泣いていた。しかし最初に泣き始めた美咲が満足したのか泣き止み、母さんと美雪を宥めるようになると、ほどなく二人にも笑顔が戻った。今は数分前までが嘘のように、三人でお喋りを楽しんでいる。これは美咲の功績なのでお礼を言いたいけど、そのきっかけとして「さっきはなぜ泣いたの?」と問うことを選んではならない。女性の涙の訳は、謎のままにするのが吉だからだ。それは間違いないが、かといってどう話しかければいいのかも全然わからないんだよね。とりあえず謝意を素直に伝え、後は猫可愛がりしてみますか。

 それにしても、母さんと美雪と美咲が楽しそうにしていたら、それだけで俺は幸せらしい。それもかなり幸せなのだろういつの間にか数十分が過ぎていて、親竜と頭竜達の中に目覚める者が出始めた。その竜達のもとへ、俺は依頼を果たすべく足を運ぶ。実は創造主との会話の最後、楽しげに笑いつつある光景を俺に見せて創造主は去って行った。それは、鈴桃が飛ぶきっかけになった映像作品を、頭竜達も交えて観ている光景だった。頭竜達がいるならそれは今夜に違いなく、ならば俺はなるべく早くこう尋ねなければならぬのである。「今夜はここに泊まれませんか?」と。

 然るに尋ねたところ、今晩と明日朝の食料を確保できれば泊まっても問題ないという。確かにそれは、超重要事項と言える。48頭の成竜の食べる量は、莫大なはずだからね。竜達によると、特別に優秀な子供達が集められるこの島は、散山脈諸島で最も食糧事情の良い島らしい。だから確保は難しくないが、自分達の二食分の食料を幼稚園の近辺で集めるのは憚られるため、食料調達遠征部隊を派遣するつもりとの事だった。いやいや言い出しっぺとして、そんな遠征をさせる訳にはいかない。俺は、本体に尋ねた。


「幼稚園の食事に影響なく、この島の動植物にも影響極小の食料調達場所はあるかな?」


 そのとたん、お勧めの食料調達場所を赤で示した島の地図が、頭の中にポンと現れた。創造主が絡むからだろう、本体が明らかに張り切っている。俺は計画を変更し、創造主の意向であることを親竜と頭竜達の全員にテレパシーで伝えてから、空へ舞い上がった。

 空を飛びつつ、まずは地図を輝力でコピ―し48枚にする。続いて48体に分身し、各々の担当場所を決めて散開した。分身上限数を48に引き上げたのは、親竜と頭竜達の合計数に等しいことからも、やはり運命だったんだな。

 高度を下げ、俺の担当場所に降りる。この島は先住民族の果樹園だったのだろう、品種改良済のマンゴーとキウイとバナナが、そこら中でたわわに実っている。俺は先住民族と、果樹を世話している妖精達に手を合わせてから、必要量を収穫した。

 反重力ペンダント内蔵の輝力ボックスを手に空を飛ぶ。成竜1頭の2食分の果物を詰めたボックスは、予想以上に大きい。飛行スキルと分身スキルと輝力工芸スキルがなかったら、こりゃ大仕事だったな。三スキルに胸中感謝し、幼稚園の前庭に俺は降りた。

 その頃には子竜達も目覚めていて、感謝のキュルキュルの集中砲火を浴びることになった。可愛くてならず、俺は子竜達をこねくり回した。

 こねくり回しているうち、園長を始めとする成竜達への説明を分身が済ませてくれた。俺の分身と思えぬほど、優秀な奴らだよなあ。

 大風と慈雨は長(おさ)の島へ一度帰ることになった。瞬間移動を誤魔化すべく大風と慈雨は洞窟内の自室で昼寝していることになっているため、長の島の竜達に姿を見せる必要があるのだ。それを、面倒と思うなかれ。竜族最高齢の大風と慈雨を、竜達は純粋に案じているのである。

 親竜と頭竜達の宿泊準備は、子竜達の輝力腕のお陰で20分かからず終わった。革命的なその仕事の速さを、頭竜達は口をあんぐり開けて見つめていたな。

 そうこうするうち、音楽仲間達がやって来る時間になった。授業はないけど、子竜達との1カ月半ぶりの再会をみんな楽しみにしているんだね。そうそう忘れていたけど、テレパシー送受信機の性能実験は無事終了したという。忘れていたというのが昇と鷲と橙にバレて、面倒なことに少しなったけどさ。

 それは置き昇達によると、司令長官がテレパシー送受信機を直々に試したそうだ。もちろん反対されたが、戦争勝利に巨大な貢献をするのに自分が試さないでなんとすると、司令長官は聞き入れなかったらしい。また組織のトップとして、自分に万が一のことがあったら鷹司令官を前倒しで司令長官にするよう命じたという。そんなこんなで場は感傷に包まれるも、当たり前だが事故などあり得ない。「白けた空気にならぬよう」「皆で必死になったものです」「あのときが一番大変でしたね」「「「だよな~~」」」 なんてゲラゲラ笑う昇と鷲と橙を録画して司令長官に送ったら、いったいどうなるのだろう。奏と晴と藍に迷惑がかかるから、実行しなかったけどね。

 テレパシー送受信機の運用は、民間から始めるらしい。民間で行い夫婦仲の変化を見定めてから、戦士に広めるそうなのである。はっきり言って、これは人体実験だ。戦争敗北は人類絶滅を招くとはいえ、やるせない気持ちを俺は抑えられなかった。

 話題を替えよう。

 昇と鷲と橙はテレパシー送受信機に関する本格的な勉強を、3日早く始めた。この「3日早い」は最後まで影響し、訓練に支障をきたすほどの疲労が始まったのも3日早かったし、閃きが降りてきたのも3日早かったし、性能実験が行われたのも3日早かった。そう性能実験は、年始の仕事始めの1月15日になると予想されていたのだ。ということは教導官の仕事を1日休むことになり、当初はそれを重視していなかったが、教導の代役を俺がすることになるや三人は慌てた。年末の3日間のみならず年始も代役させたら申し訳なさが限界突破すると、三人は俺に訴えたのである。もちろん俺はそんなの全然気にしてなかったし、それに何となく、丸く収まる予感がしていた。実際、そのとおりになったしね。よって俺はさほど意識しなかったが昇と鷲と橙はこの「3日早い」にしこたま感謝したらしく、お祝い会で深酒をした理由の一つはそれとあいつらは語っていたな。


「その律義さが『3日早い』にも律儀に作用したとか?」


 もしそうなら宇宙ほど面白いものはないと、感心した俺だった。

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