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「この絶妙な間隔を、皆さんはどのように習得したのですか?」「美しい間隔を意識して各々文を書き、各々の文を比較し優れた間隔を選び、その間隔で各々文を書きそれを比較し・・・ということを、愚直に続けました」「お見事の一言です。この絶妙な間隔には、皆さんの300年の生き様が詰まっていると俺は感じました」


 少し遠回りになるが、前世の中学生時代の俺は英語が苦手だった。日本に生まれ続けた400年間で英語を学んだのは前世が初めてだったのだから、苦手で当然なのだろう。しかし俺が苦手だと弟や妹達への悪影響を避けられないため英語を必死で勉強し、必死になった一つに「ゆっくり丁寧に美しく書く」というものがあった。素早さ重視で乱暴に書きなぐるより、ゆっくり丁寧に美しく書いた方が記憶に残りやすく、英語への理解が深まったのだ。それを二十年近く続けた三十代序盤、欧州への初出張で地元のカリグラファーにとても驚かれた。俺の英語の書体はカリグラフィーのどれにも属さないのに間違いなく美しいと、褒めてもらえたんだね。書体の由来や工夫も熱心に訊かれ、嬉しかったこともあり正直に明かしたところ、なんだかんだで商談が上手くいった。そのカリグラファーは経営者一族だったらしく、俺の人柄を信用してもらえたみたいなのである。半端ない嬉しさが湧き上がると同時に十代の苦々しい思い出が蘇ってきて、苦労したな。

 俺の子供時代は「文字には人の全てが出る」などとほざく残念老教師が多数いて、嫌な思いをしこたませられた。どんなに奇麗に書いても、孤児の字と揶揄されたのだ。文字に人の全てが出るなら、日本語で書こうと英語で書こうと評価は同じはず。なのにこうも違うということは、文字に人の全てなど決して出ないという事なのである。

 が、老竜達の書いた教科書を見れば見るほど、300年間の生き様が滲み出ていると思えてならないのも事実だった。それを極めて重要なことと感じた俺は概念テレパシーを駆使し、前世の体験を老竜達に説明した。老竜達は思うところがあったのだろう「少し議論させてください」と請い、テレパシーによる高速会議を始めた。俺と母さんは美雪に教科書の内容を教えてもらっていたため待った感覚は皆無だったけど、俺の頭の上で美咲が寝ていることに老竜達はたいそう恐縮していたな。美咲は悪くないけど、御免なさいです。

 との謝罪合戦はひとまず置き、議論の結論を園長が教えてくれた。


「翔さんの危惧は、竜族の未来社会を正確に予見していると我々は結論しました。我々竜族に、容姿の美しさの差はさほどありません。しかし書く文字の美しさには、大差が必ず出るでしょう。そのことに対策を何も施さなかったら、前世の翔さんを苦しめた先生と同種の先生が、竜族の社会にも出現すると思われます。翔さん、厚かましいですが質問させてください。我ら18頭の寿命は、あと何年ほど残されていますか?」


 正直、言葉に詰まった。園長夫妻はまだ7年以上残されていても、元頭竜夫妻達に残されているのは、最短1年ちょい最長でも2年に届かないのだ。それを正直に伝えていいのか、俺は咄嗟に判断できなかったのである。

 だが幸い、俺は組織の一員と戦士を兼任する者。言葉に詰まりそうな自分を知覚するや準四次元へ意識投射し、意識速度を200倍にして時間稼ぎをすることに成功したんだね。これならここで10分過ごしても、三次元では3秒経過しただけ。肉体の俺は深刻顔になっているし、3秒程度なら待ってくれるだろう。よし、落ち着いて考えますか。

 と思っていたのだけど間を置かずあることに気づき、そしてそのとたん結論が出た。気づいたのは、老竜達の覚悟。老竜達は揺るぎない覚悟をしたうえで、自分達の寿命を俺に尋ねたのである。ならば俺も覚悟を決めねば、人でなしになってしまう。俺は深呼吸し心を落ち着かせ、次いで気合を入れるべく頬を小気味よく叩いてから、三次元に戻った。

 準四次元で1分も過ごさなかったため、こちらでは0.3秒も経っていない。よって結論は出ていても深刻顔を1秒続けて、俺は答えた。


「残された寿命の最短は1年と2~3カ月、最長は2年に少し届かないくらいです。ただし園長夫妻だけは異なり、どちらも7年と少し残されています」


 老竜達の覚悟に気づいたつもりの俺は、自分を過大評価していたらしい。1年と2~3カ月で亡くなる者が出ると告げたのに、老竜達の全員が一瞬の誤差もなくガッツポーズをしたのだ。それだけでも目元の湿度が急上昇したのに、


「では翔さんの映像作品を、二作品とも全員で見られるんですね!」「はいそうです。目も耳も十分機能し、寝たきり等にもなっていませんね」「「「「ヨッシャ―――ッッ!!」」」」


 とまるで若者のように浮かれ騒ぐものだから、視界が明瞭に霞んでしまったのである。霞は益々酷くなり結局手で拭っていたところ、美雪と母さんに背中をポンと叩かれた。美咲もいつの間にか起きていて、俺の頭に乗っかったまま髪をワシワシしている。俺は三人に感謝を告げ、涙を止めた。そんな俺達にニコニコの老竜を代表し、園長は宣言した。

 それによると、前世の俺を苦しめた先生と同種の先生が竜族に出現することへの対策を、老竜達は1カ月でまとめてみせるという。激賞した俺に園長は続いて、「ですから翔さん、1カ月後にまた相談に乗って頂けますか?」と請うた。俺は力強く胸を叩き、「喜んでお受けします」と答えたのだった。

 という場面で対話を終えたら丁度良かったのだけど、教科書への賞賛はあと一つ残っている。でも老竜達は浮かれ騒いで疲れているように見えるし、次の機会にしよう。

 なんて気遣いを胸中密かにしたのは大外れだったらしい。余命の最も少ない元頭竜が、一歩前へ踏み出したのである。


「翔さん。我々は『次でいいや』という感覚を、既に捨てているのです!」

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