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この宇宙はやってみなければ
解らないから
に他ならない。繰り返すが前者の計画に俺は反対を保留していて、それは「文字を持たない種族特有の見落としがある」というものだった。言葉にすると、こんな感じだろう。
『文字を完成させたと思っても実際に使ってみたら、不都合な箇所が必ず出てくる。使ってもいないのに「完成した」と判断するのは、間違いなのだ』
文字に限らず新しく発明したあらゆる道具は、実際に使ってみなければ評価は絶対できないし、また同時に評価を絶対してはならない。風呂敷を広げすぎぬよう竜語に話を戻すと、前者の計画に沿ってアレコレ悩む時間があったら、後者の計画を実行して文字の未完成箇所を特定する方が断然良いのである。もちろん異論は認めるけどさ。
脱線するが前世の俺は、日本語はなんて不完全な言語なのだろう、としばしば溜息を付いていた。会話なら違和感ないのに、文字にしたとたん違和感を覚える日本語が、嫌になるほど多いのだ。また国民性が仇となった熟語も、個人的には沢山あった。たとえば日本人は、自ら考え自ら決断し自ら行動することを非常に怖がる。よって「自らの論」であっても、持論と書かねば辞書的には間違いとされる。想像して欲しい、日本語を学ぶ外国人に「自ら考え自ら決断し自ら行動することによって獲得した自らの論を、自論と呼ぶんだよ」と説明するのと、後半を「持論と呼ぶんだよ」と説明するのでは、どちらがすんなり納得してもらえるだろうか? 自論だと、俺は思うのである。
話を戻そう。
鈴桃が飛んだことにより、18頭の老竜達は「文字が未完成だろうととにかく教科書を造ってみる」よう計画を変更し、それを冬期休暇初日に実行した。伸縮自在の輝力の右手に木の枝を持ち地面に文字を書くことなら可能になっていたため、暫定的に決まっていた表音文字で歌を、つまり歌詞を書いてみたんだね。選ぶ歌は各自に任せ、書き終わった歌詞の一つ一つに全員で目を通したところ、唖然とした。書いた当人以外は、どの歌の歌詞なのかを特定するまで時間を要したのだ。日本語にたとえるなら「平仮名が句読点なく書き綴られている」ことが、時間を要した理由だったのである。
老竜達を擁護すると、それは事前に予想されていたことだった。老竜達は、意味と発音の両方を兼ねる表語文字の創造を計画していたが、歌詞を綴った文字は音のみに着眼した表音文字だったため、単なる平仮名の羅列になるのは容易く予想できたのだ。が、それでも老竜達は唖然とした。歌を愛してやまない老竜達は平仮名の羅列だろうと瞬時に歌を特定できると考えていたのに、実際はてんで無理だったからである。「それを経て儂らは、表語文字の必要性を改めて理解しました」と、元頭竜はしみじみ語っていたな。
続いて老竜達は、暫定的に決まっていた表語文字を用いて、幼竜用の歌の歌詞を書いてみた。幼竜用の歌にしたのは、超基本的な語彙の表語文字しかまだ決めていなかったかららしい。それでも表語文字が足らず、選曲が大変だったと元頭竜達は苦笑していた。
ちなみにあくまで暫定的ではあるが、竜語の表語文字には「山」や「川」などの象形文字由来の漢字がそのまま使われている。表語文字の例を挙げて欲しいと老竜に頼まれたさい、アトランティス語の振字は難解過ぎたため、木や日などの漢字を輝力画像を用いて説明したのだ。象形文字由来の漢字は大好評を博し、もっともっととせがまれたので画数の比較的少ない50字ほどを教えてしまった。それでも「ぜんぜん足りません」と不平を垂れるので「すべて漢字にしたら竜語にならないでしょ」と諭したところ、老竜達を落ち込ませてしまったんだよね。仕方ないので上や下などの指示文字の概念や、二つ以上の漢字を組み合わせて作った林や鳴などの会意文字の概念も、あくまで例として説明した。だがこれ以上は危険と判断し、形成文字は教えなかった。漢字の八割以上を占める形成文字の概念を知らなかったら、竜語は漢字にならないだろうと俺は希望的に考えている。
再度ちなみに、最初期の古代エジプトで使われていた初期のヒエログリフが表語文字なのは、アトランティスの振字に由来している。エジプトは、アトランティス人のトートが拓いた土地だからだ。もっともトートがエジプトにやって来たのは、5万年前だけどさ。
話を戻そう。
暫定的に決まっていた表語文字でもどうにか足りる歌を選び、老竜達は歌詞を書いてみた。すると比較にならぬほど解りやすくなり表語文字創造の熱意が更に増すも、いかんせん文字が足らない。よって老竜達は、俺がポロっと漏らした話を協力して思い出し、その中に「日本語は漢字(表語文字)と平仮名(表音文字)を組み合わせた珍しい言語」というものがあった。とりあえずそれを試してみようということになり気楽に始めたところ、老竜達は歓喜した。なんと竜語も、表語文字と表音文字を組み合わせることが可能だったのである。その瞬間を思い出したのだろう老竜達は喜んでいたけど、俺は密かに頭を抱えていた。竜語が日本語のような不完全な言語になったら、主犯は俺で確定だからさ。
超重要なことだが今は脇に置き話を進めると、老竜達が思い出した「俺のポロっと話」は他にもあった。それは正確に覚えていない漢字を、カタカナで誤魔化すことだった。簡単な漢字を老竜達に紹介している最中、よく覚えていますねと感心した竜がいたので、
「日常的に多用する漢字は2136字、頻度の少ない漢字も合わせると5万ほどです」
と答えたら、ナンマイダ~がなぜか始まってしまったのである。訳が解らず理由を訊いたところ、多用する2千字も自分達には覚えきれそうにないとのことだった。ナンマイダ~の空気の払拭も兼ね、俺は正直に明かしたのだ。「俺も覚えるまで十数年かかりました。どうしても思い出せないものは、カタカナで誤魔化したんですよ」と。




