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海岸に着いた竜達が横一列に並び、俺に大仰な挨拶をする。照れくさいけど、竜達のこの行動には母さんへの敬愛も含まれていることを忘れてはならない。俺は挨拶を厳かに受け、続いて分身し子竜達を可愛がりまくるのがいつものお約束になっていた。が、今回は違った。理由は、8頭の頭竜が島を訪れたことにある。この島に居ついている元頭竜ではない、現役の頭竜達がわざわざやって来たんだね。鈴桃が飛行能力を再獲得したことのお礼を述べにきたのだから、わざわざなんて思っちゃいけないんだけどさ。
もちろん俺も大人なので、頭竜達の気持ちを十分理解できる。よって普段より少し厳かに、そして時間は二倍以上長く、俺は竜達の挨拶を受けた。それは構わないのだけど、
「星母様のご子息様へ、我が島最高の酒果をお贈りします。お楽しみください」
と8頭の頭竜の各々に山盛りの酒果を指し出されたのにはまいった。酒果は美味しくて大好きでも、自称酒豪達が挑戦状を叩きつけてくるのは勘弁願いたかったのである。頭竜の中には現時点で既に目を輝かせている者もちらほらいて、嘆息したい自分を俺は懸命に諫めねばならなかった。
でもそのストレスを、子竜達を可愛がることで軽減できるのだから俺は幸せ者なのだ。鈴桃が飛んだからだろう子竜達は故郷でいつも以上に歓迎されたらしく、休暇中の思い出をみんな早口で教えてくれた。それがやたら可愛くて、俺もいつも以上に可愛がってしまう。年が明けて子竜達は8歳と7歳になったけど、約1カ月半ぶりの再会なので大目に見てくださいますように。
その後、親竜と頭竜も含み皆で幼稚園を目指した。これは通常と異なり、本来の決まりでは、親竜達とは海岸で別れることになっている。したがって悲しみに暮れる子竜達と坂道を登るのが常なのだけど、今回は現役の頭竜達との酒盛りがあるので「親竜達もいいんじゃね」系の空気になったのである。酒盛りは顔が引きつっても、親と少しでも長く一緒にいれてはしゃぐ子竜達を見ていたら、そんなの吹き飛んで当たり前。わいわいキャッキャの子竜達に、俺は目じりを下げまくっていた。
そうこうするうち坂道を登り切った。まあそうだろうと予想していたとおり、幼稚園には母さんが降臨していた。頭竜達の喜びようといったらなく、みんな滝の涙を流して地にひれ伏していたな。もちろん母さんに、顔を上げるようすぐ促されていたけどさ。
母さんもいるし酒盛りはなしかな、なんて思った俺は馬鹿だった。お昼ご飯を大勢でワイワイ食べ、満腹になった子竜達が旅の疲れもありお昼寝を始めたら、
「翔さん、さあお一つどうぞ!」「こちらもどうぞ!」「さあさあ!」
と酒果を勧められてしまったんだね。頭竜達の勧め方は前世の接待になぜか酷似し、接待役の苦労をまざまざと思い出した俺は、笑顔で酒果に手を伸ばすしかなかったのである。でも皆さんとても喜んでいたし、酒果は美味しかったし、何より酒盛りはしても挑戦状を叩きつけてくるアホがいなかったので楽しかったのは事実。挑戦状云々がなかったのは、間違いなく母さんのお陰。毎度毎度助けて頂き、ありがとうございます。
楽しい酒盛り後は、頭竜と親竜達も昼寝を始めた。母さんに遠慮し最初は恐縮していたけど、すやすや眠る子竜達の愛らしさを話題にした母さんが「愛するあなた達の寝顔を私に見せてくれないのですか?」と頭竜と親竜に微笑みかけるや、みんな我先に寝始めたのである。う~む、さすがは星母様だな!
旅の疲れと満腹に酒果のほろ酔いが加わった頭竜と親竜は、子竜達に負けぬほどすやすや寝ていた。子竜も成竜も、母さんの目にはさほど違って見えないのかもしれない。子竜と成竜の区別なく、母さんはニコニコ顔で見つめていたからね。その様子に俺はもちろん園長達も胸をポカポカにしていたところ、
「じゃあ大風と慈雨を連れて来るわ」
突如そう言い、母さんが瞬間移動してしまったのだ。呆気にとられる俺に、園長が「翔さんにお見せしたいものがあります。お時間を頂けますか」と請う。子竜達を出迎える日を、俺は可能な限り休日にしている。それを知っている園長が改めてそう言うからには、相応の理由があるのだろう。「もちろんです」と答えた俺に園長が謝意を示した丁度そのとき、大風と慈雨を連れて母さんが戻って来た。大風と慈雨に挨拶しているうち、園長が奥様から何かを手渡される。「準備できました」との声に振り返った俺の目に、輝力製の右手の人差し指に指輪をした園長が映った。あることに気づき俺は瞠目した。園長の指に嵌められた指輪を創った記憶が、俺には無かったのである。そんな俺に力強く頷いた園長が、
「竜語の初級教科書よ」
左手を指輪にかざしそう呼びかけた。その数瞬後、表紙の面積が1平方メートルほどの輝力製の巨大な本が、園長の左手に握られていたのだった。
感動のあまり言葉の出ない俺の胸中を正確に感じ取ったせいで自分も言葉が出なくなってしまった園長に代わり、元頭竜達が交代で詳細を教えてくれた。
それによると約1カ月半前、鈴桃が飛行能力を取り戻した日の夜、園長夫妻と元頭夫妻の計18頭の老竜達は、竜語の創造計画を根本的に変更したという。それまでは、文字が完成してから教科書を造るという計画だったが、それを「文字が未完成だろうととにかく教科書を造ってみる」という計画に換えたのだそうだ。前者の計画は及第ギリギリであり、反対を保留しているというのが俺の本音だった。対して後者は、膝をペシンと叩かずにいられない計画だった。人によって好みは分かれるだろうが、挑戦心溢れる後者の計画は、俺の好みのド真ん中だったのである。その主理由は、
この宇宙はやってみなければ
解らないから
に他ならない。




