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その、約9時間半後。
名家巡りの訓練後の食事会が始まる直前。
昇と鷲と橙がテレパシー送受信機の詳細な設計図を作り終えたと、勇がメールで知らせてくれた。メールによると昇達は、俺の単純計算を超える作業効率を叩き出したらしい。主理由は輝力製の設計図を、空中にすぐ創造できたからだそうだ。
『意識投射してテレパシー送受信機の中に入り、機械の仕組をつぶさに見ながら、輝力製の設計図を空中に創造する』
ことは、昇と鷲と橙にとって至極簡単なことだったのである。空中に創造すれば量子AⅠがそれをコンピュータの次元に模写できるため、その手間を省けた。かくして単純計算を超える作業効率になったと、勇は書いていたな。朝食を食べ過ぎしばし動けなかったそうだが昼食は取らずに済んだことや、寝まくって活力が漲っていたことも良い方に働いたという。いずれにせよ、良かった良かった。
その数十秒後、美雪がテレパシーで語り掛けてきた。
「昇さん達の設計図を工廠のAⅠが精査し、危険なしと判断し製造を始めたみたい」
美雪によるとまずは工廠のAⅠ達だけで設計図を調べ、続いて昇達のAⅠも加えて議論し、最後に工廠のメインAⅠが危険の有無を判断し製造するか否かを決めるとのことだった。製造するだけで危険な機械も存在するのが、この星の科学技術なのだろうな。
その約30分後、美雪のテレパシーが再び届いた。
「工廠の研究者達が『今夜は徹夜だ』って、嬉しそうに呟いているそうよ」
俺も技術者の端くれ。研究者達の気持ちが自分のことのように理解できた。画期的な概念に基づく革新的な機械の精巧な設計図を入手したら、寝る間を惜しんで調べるのが俺達なのである。俺は心の中で「ファイト!」と、研究者達を応援した。
名家巡りの食事会を終え基地に帰ったところ、食堂でお祝い会が開かれていた。今夜の主役は昇と鷲と橙で俺は祝う側だから少々遅れても平気だろうと甘く考えていた自分を、俺は叱った。呪ったではなく叱った程度なので構わないのだがそれでも、
「翔兄~飲め~」「翔兄~飲め~」「翔兄~飲め~」「「「翔兄~飲め~」」」
ぐでんぐでんの昇と鷲と橙に包囲されビールを永遠に注がれ続けたら、苦笑は免れない。が、免れなくとも可愛い弟達に、
「翔兄ありがとう~」「翔兄のお陰だ~」「翔兄に付いていく~」「「「うおお翔兄~~」」」
なんて言ってもらえたら、悪い気はしないのが兄というもの。奏と晴と藍もゴメンナサイと手を合わせていることだし、今夜は付き合いますか。それにしても昇と鷲と橙は勇者級の健康スキルを持っているのに、なぜ酔えるのだろう? との疑問を一旦保留し、泣き上戸がたまに顔を出す弟達の酒に、夜10時まで俺は付き合ったのだった。
明けて1月10日早朝。
1時間ちょい睡眠時間が短くとも完璧な目覚めを迎えた俺は、まずは何より美雪に「俺、酒臭くない?」と尋ねた。今日の名家巡りで子供達に「「「「師匠、臭~い」」」」と言われたら、絶対に立ち直れないからさ。
幸い、臭くないとのことだった。即座に寝袋から出て正座し、美雪にお礼を述べる。美雪は昨夜テレパシーで、酒臭くならない酒量をこっそり教えてくれていたんだね。かつて俺は虎鉄と美夜に「臭いから近づかないで」と拒絶されたことが二度ありトラウマ級に落ち込んだから、助けてくれたのである。俺の周囲を軽快に飛び「いつもと同じよ」と太鼓判を押してくれた美咲を、嬉しさ余って猫可愛がりしたものだった。
猫可愛がりしつつ輝力分身を出し、昇と鷲と橙の体調を美雪に尋ねた。俺と異なり酒臭さが若干あるそうだが、それ以外は万全らしい。美咲にそれを伝えたところ「今日は離れている。近づいてきたら逃げる~」と嫌そうな顔をした。こりゃ昇達のトラウマ確定だなと、俺は心の中で三人の冥福を祈った。
なんて冗談はさて置き、俺は美雪に本命を尋ねた。
「テレパシー送受信機の製造は、どうなってる?」「精密な設計図はあっても手こずっているみたい。試作品第一号と第二号の完成予想時刻は、本日午前10時だって」「17時間も掛かるなんてこの星にしては珍しいんだろうね。それはそうと、試作品は二台あるんだ」「テレパシーの送信と受信の最初の実験は、二台の試作品だけでするの。問題なかったら人が機械にテレパシーを送信し、機械は受信に専念する。それを何度も実験して問題皆無なら、初めて機械が人にテレパシーを送信するんだって」「小説とかでは死刑囚が被験者にされるのが定番でも、この星に死刑囚はいない。誰が被験者になるのだろう」「心配無用、大勢の研究者が立候補しているそうよ」「あはは、みんな筋金入りの研究者なんだな」
人によるテレパシー送信に問題なしと判明してから立候補した人は、判明前の立候補者に勝ちにくい規則があるのかもしれない。問題あったら実験自体がなくなるんだし、俺も判明前の立候補一択だな。そう納得し、美雪に最後の質問をした。
「昇と鷲と橙は勇者級の健康スキルを持っているのに、なぜ酔えるのかな?」「翔、覚悟できてる?」「ドワッ! はい、覚悟しました何なりとどうぞ」「では事実を述べます。この星の医学は『致死量のアルコールを摂取してもなぜ翔は酔いすらしないのか?』を解明できていないの。平たく言うと昇さん達は正常、翔は異常ってことね」
正直、異常は堪えた。だが覚悟済と明言した手前、落ち込んでなどいられない。俺は「ははは~」と軽く流す振りをして、早朝訓練をすべくテントを出たのだった。




