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その選択を迫られたのが、幼児達と遊んでいた時だったのも間が悪かった。名家巡りで最も疲労するのは、幼児を相手にしている時だからだ。幼児は次の行動を予想しづらいため常に気を張っていなければならず、神経を使うのである。あと十分遅ければ食事会が始まって楽だったのにと、俺は自分の運の悪さに嘆いたものだった。
が、そのお陰で腹を括れたのだからこの宇宙は面白い。名家巡りで最も疲労する時間に選択を迫られたという間の悪さは、俺への罰。奥様より早くテレパシー送受信機の完成を知ったことへの、罰なのである。ならば選択は、困難な方を選べば良い。己の罪を自覚した罪人へ、しばしば創造主は苦難を連続して背負わせる。
「今のうちにコレとアレも中和してしまいなさい」
のように、気を遣ってくれるんだね。かくして腹を括った俺は、41体目の輝力分身を基地に出現させた。上限を47体にしていたのも、創造主の思し召しなのだろうな。
奏と晴と藍は、基地飛行車の食堂の椅子に座っていた。美雪や舞ちゃんと一緒に夕ご飯を用意していたが、この状態で料理をしたら怪我をすると舞ちゃんが判断し、料理作りを免除したのである。その正しさを理解できても、不安で堪らなかった三人は食堂を離れられなかったのだろう。椅子に座る奏と晴と藍は、沈痛な表情で背中を丸めていた。
という光景と背景は、美雪にテレパシーで教えてもらっていた。よって輝力分身の俺は基地飛行車の入り口前に出現し、故意に足音を立てて通路を歩き階段を上り、俺の存在を示しつつ食堂へ向かった。女性しかいない部屋に突如現れたら、通報されかねないしさ。
ちなみに足音を立てられるのは、輝力製の反重力ペンダントを体内に創り体重を設けているから。実をいうと、この反重力ペンダントのせいで厄介事が降りかかってきた。輝力製の反重力ペンダントを瞬時に創造できることが学界にバレ、反重力エンジン10傑技術者の筆頭になってしまったのだ。戦士の多忙さを理由に断ったが、借りのある大統領と科学技術大臣に「責任は一切生じませんから名前だけ貸してください」と請われ、押し切られたのである。戦士養成学校生の教導で、うっかり使うんじゃなかったな。
などと頭の隅でイジイジ考えているうち食堂に着いた。奏と晴と藍は目を見開き、次いで何かを悟ったのか立ち上がり、「「「お兄ちゃんごめんなさい」」」と声を揃えた。ここにいるのは俺の輝力分身だが、こちらの心を主にして肉体に残してきた心を従にしたことに、妹達は気づいたのだろうか? 賢い子たちだから気づいた確率は高く、妹達への愛情が溢れてくる。それを胸に「どうぞ座って」と、俺は笑いかけた。
幸い俺は、妹達に信頼されているらしい。椅子に座った妹達の背は、もう丸まっていない。にもかかわらずテレパシー送受信機の完成を先に知ってしまったことへの罪悪感を、兄として無理矢理封印して俺は確約した。
「昇と鷲と橙は心配いらない。目覚める時刻もアカシックレコードで確認した。三人の健康な姿を、明日の朝には見られるからね」
奏と晴と藍は喜色を全身から放った。続いて三人で手を取り合って喜び、それが一段落したら今度は背筋を伸ばし、丁寧な謝意を揃って述べてくれた。封印した罪悪感が息を吹き返そうとするも気合で封じ、兄として鷹揚に頷く。そして厨房に顔を向け、美雪と舞ちゃんに微笑んでから俺は食堂を去った。
その約30分後、名家巡りの食事会中に美雪がテレパシーで教えてくれたところによると、鸞と藤は元気を取り戻したらしい。探検から返って来た二人は、母親に安心しきった声で「お父さんは心配ないわ」と告げられるや、不安を消し飛ばしたそうなのである。8歳の男の子にとって、母親とはそういう存在なのだろう。胸がポカポカになった俺は幼児達の食事の世話に、いっそう励んだのだった。
食事会を終え、カレンに乗り込む。手を振ってくれる数百人に笑顔で手を振り返している間はゆっくり上昇してくれていたカレンが、天風半島目指して急加速した。準四次元酒盛りで酔えたお礼を、今日中にしておこうと思ったんだね。
昨夜ではなく正確には今日の深夜2時ごろ、準四次元酒盛りで酔った俺の胸中には、翼さんへの感謝があった。テレパシー送受信機を完成させ喜ぶ昇達と一緒に酔えたことが、とにかく嬉しかったのだ。そうあのとき俺はとても嬉しく感じていて、それが妙に引っかかり暇を見つけて今日一日考えたところ、やっと思い出したのである。「酔いたいなって思うことが稀にあるんだよね」と、翼さんに愚痴を零したことが一度だけあったことを。
それを翼さんは忘れず、そして叶えてくれたと考えて間違いない。俺の願いを叶えるべく最初に相談したのは、おそらく小鳥姉さんと鈴姉さん。姉達が準四次元で開いているお菓子作り教室で果実リキュールを取り上げたさい相談したというのが、最もしっくりくるのだ。今思うと、深森霧島両夫妻が年末年始を翼さんの屋敷で過ごしたのも、その目的が最初からあったのではないか? 翼さんも、案じてもらえることに合わせて「一緒にお酒を作ろう」と提案された方が、嬉しかったと思うしね。そこに母さんも乗っかり4人でキャッキャしつつ作ったのだから、良い思い出になったはず。母さんと姉達にも、今度改めてお礼を言わないとな。
天風本家の駐車場に着陸した。冬の夜なので出迎え不要と伝えておいたのに、この人はなぜそれを無視するのだろう。本人の意思が最も貴ばれるのは解っていても、厳冬の夜に女性を暗がりに一人立たせるなんて、自分が極悪人に思えてくるではありませんか。いや待てよ、俺は極悪人なのではないか? 翼さんの気持ちを知っているのに、いわゆる生殺しをし続けている俺は、最低最悪の・・・
「翔さん」「は、はい」「前世の私は男女の関係を結んだ上で、それを数十人に同時進行していました。合計では、200人を軽く超えるでしょう」「えっとあの、はい」「ですから翔さんを、極悪人だなんて決して思いませんからね」「む、むむう・・・」




