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俺は辞を低くして母さんに感謝を述べた。母さんはよほど機嫌が良かったのか、テレポーテーション能力の素質についても話してくれた。
当然と言えばそれまでだが、素質は人によって異なる。翼さんにはテレポーテーション能力の豊かな素質があり、孫弟子上位でそれを習得してもおかしくないらしい。孫弟子では厳しい制限が当然つくけど、あらゆることを悪用しない素質も翼さんは持っているため、若干の緩和がすぐ適用されるはずと母さんは予想しているそうだ。それを聞き、俺が大喜びしたのは言うまでもない。翼さんの素質を一心に称えたところ、「しょうがない子ねえ」的に肩をすくめて母さんは付け加えた。
「翔は、力と機会を善用するのが得意なの。私がいつも見守っているわ、力と機会を今後も自由に使うのよ」
過分の評価に尻込みしそうになるも、ここで胸を張らねば親不孝者になる。俺は堂々と謝意を述べ、力と機会を善用することを誓ったのだった。
みたいな感じのことが冬期休暇中、夢の中でしばしば起きていた。俺はそれを皆に伏せていたがそれは皆も変わらず、伏せていただけなのかもしれない。俺と会っている時の翼さんがとても落ち着いていたことから、翼さんの夢も母さんは頻繁に訪れていたように思う。また落ち込む翼さんを見なかったことから、テレポーテーションに関する手助けをしたことを母さんは翼さんに伏せたのではないかと俺は推測している。
母さんについてはここまでとし、申し訳なく思った他の人達の話題へ移ろう。
申し訳なく思った人の筆頭は、母さんだ。ならば次は誰かというと昇、奏、鷲、橙、晴、藍のご両親達。昇たち6人は長期休暇の丸々三週間を基地で過ごしたから、正月に帰省できなかったんだね。そうなることは事前に判っていたため奏以外の5人は11月から12月上旬にかけて3回帰省したそうだけど、お正月はやはり別格。親にとって子は幾つになっても子供であり、我が子が正月に自分のもとに帰って来ないというのは、理屈抜きで寂しいものなのである。俺はご両親達に、心から謝罪したものだった。
ただそこは、さすが組織の年長者なのだろう。深森霧島両夫妻は子供達が帰省しないことを逆手に取り、今回の最大の懸念に超絶ありがたい一手を講じてくれたのだ。それは年末年始を、翼さんの屋敷で過ごすということだったのである。
正直言うと、最初にそれを聞いた時は「大丈夫か?」と案じた。しかしそれはすぐさま、「鈴姉さんと小鳥姉さんなら全然平気」という安堵に代わった。昇が赤子だったころに築いた絆が、三人にはあったからだ。
赤子を産んだばかりの母親には、赤子を安心して託せる人に肉親の情を覚える、という本能がある。鈴姉さんにとってその筆頭はもちろん夫の裕也さんで、裕也さんにほぼ比肩するのが霧島夫妻だったのはまこと順当でも、三番目が初対面の翼さんだったことは母親の本能の的確さに驚くしかない。翼さんが両夫妻及び赤子の昇に初めて対面し、そして昇を抱っこした瞬間、
赤子の昇を安心して託せる
三番目はこの子
と鈴姉さんは確信したという。よって鈴姉さんは翼さんに肉親の情を抱き、そしてそれは妊娠中の小鳥姉さんにも当てはまった。鈴姉さんの子はただでさえ我が子同然なのに、自分も赤子を妊娠中とくれば、強固な共鳴が鈴姉さんとの間に起きても不思議はなかったのである。また翼さんは赤子の昇を可愛がっていると祖父を亡くした心の傷が癒されたらしく、それを鈴姉さんと小鳥姉さんに涙ながら伝え、三人で抱き合い幾度も泣いたそうだ。そんな間柄ゆえ「鈴姉さんと小鳥姉さんなら全然平気」と、すぐ安堵できたんだね。
という状況に妻達がいる場合、まこと弱い立場になるのが夫達というもの。夫婦とはそういうものと、男は諦めねばならぬのである。諦めても鈴姉さんと小鳥姉さんと翼さんは素晴らしい人達だから、害は皆無だしさ。
害はなくとも利は山ほどあり、その一つが天風本家における昇と奏の待遇だった。昇と奏は功さんと翠さんの生まれ変わりなのでとても大切にされるのは間違いなくとも、両夫妻が天風本家の人々に高評価された方が、昇と奏の待遇は良くなる。人とはそういうものであり、そして高評価に最も影響を及ぼすのは、翼さんなのだ。翼さんは人格に優れ妻達と良好な関係を築いているのだから昇と奏のためにも、夫達も翼さんと良好な関係を築くべきなのである。虎鉄と美夜の送別会を夜の砂浜で開いたとき達也さんと裕也さんは天風の男性陣と酒を楽しく飲んでいるので、男同士の付き合いも問題ないはずだしさ。
そんな深森霧島両夫妻に、厳密には鈴姉さんと小鳥姉さんに「年末年始は天風本家にお邪魔してもいい?」と訊かれた翼さんは、目を潤ませて喜んだという。鈴姉さんと小鳥姉さんに抱きしめられ背中をポンポンされているうち翼さんは本格的に泣いてしまったらしく、泣き止んだら女組三人でキャッキャしていたそうだから感謝しかない。昇と奏も両親達に感謝し、裕也さんがこっそり教えてくれたところによると奏に厚くお礼を言われた達也さんは、半月ほど浮かれていたという。父親にとって娘は、幾つになってもそういう存在なのだろうな。
深森霧島両夫妻が天風本家にやって来た日は、翼さんと並んで俺も両夫妻を出迎えた。天風家筆頭当主として両夫妻と挨拶を交わすなり女組は台所に向かったが、入れ替わるように天風の男達が酒瓶を抱えて来てくれたお陰で達也さんと裕也さんも楽しそうにしていた。俺も颯や蒼と飲んで騒げたし夕飯も超絶美味だったから、いうこと無かったな・・・・ん?
遅ればせながらピンと来たけど、俺を酔っぱらわせた果実リキュールを翼さんが作ったのは、姉達の滞在中だったのかもしれない。改めて振り返ると、鈴姉さんと小鳥姉さんと翼さんは不自然なほど台所に籠っていたしね。達也さんと裕也さんと俺が海釣りを楽しんでいる間は、母さんも来ていたのではないだろうか? 女組に「「「男性の皆さん、魚をたくさん釣ってきてね~」」」と毎回やたら機嫌よく送り出されていたのは、亜神級のアルコール耐性を有する俺を酔わせる神殺しの酒を、4人でワイワイ作っていたからなのかもしれない。まあでも楽しい思い出になったのなら、それが一番かな。




