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 まあそれは置き、五日間の強化3闇王戦を終えた俺達は、打ち上げをすることになった。といっても天風本家の北の対(たい)で絶品料理に舌鼓を打っただけなのだが、何がどうなったか俺は今生で初めて酔っぱらい、北の対に急遽泊まることになった。泊まるのは慣れているので構わないのだけど、それにしても俺はなぜ酔ったのか? 翼さんお手製の果物リキュールを、2リットルほど飲んだに過ぎないんだけどね。肝臓に訊いても「わからな~い」と返ってくるだけだし、念のため精密検査を後日受けたがどこもかしこも超絶健康だった。何気に精密検査を希望したことが大騒ぎになり、徹底した箝口令を敷いた上で総司令部付の病院に1日入院させられる羽目になったのである。アカシックレコードを精査しても俺が病気になる未来は皆無だったのだから、それを信じねばならなかったと後悔している。


 俺が精密検査を受けたのは、冬期休暇後のこと。

 よって、時間を少々巻き戻そう。

 昇と鷲と橙の勉強は、予想より順調に進んだ。予想を超えた一番の理由は、心身の回復力が疲労を上回ったから。そしてそれに最も貢献したのは、鸞と藤だったのである。

 冬期休暇初日、鸞と藤はお昼ご飯を食べ過ぎて動けなくなり昼寝した。たった1時間の昼寝だったが完全回復した鸞と藤は天風家の訓練に参加し、その後の食事会でまた動けなくなりヒイヒイ言いながら帰って来た。しかし入浴したら回復し、天風家での訓練と食事会がいかに楽しかったかを両親に活き活き話し、そして話しているうち舟をこぐようになり普段より早く寝てしまった。そんな息子を見ているだけで、親は胸が幸せで一杯になるという。そしてその幸せにより、鷲と橙の回復力は疲労を上回ったのである。

 また鷲一家と橙一家を包むその空気は、昇と奏にも多大な影響を及ぼした。奏は鸞と藤を我が子のように可愛がっていたし、昇は奏ほどではないにせよ、奏と鷲達が幸せなら自分も幸せになったからだ。その幸せに、奏との半年ぶりの再会がもたらした幸せも加わった結果、昇の回復力も疲労を上回ったのである。

 とはいえ、昇と鷲と橙の疲労が消滅することは無かった。「回復力が上回ったのだからそのぶん勉強するぜ!」という、脳筋理念に基づく脳の更なる酷使へ三人は舵を切ったからだ。それでも当初予想された、病的な神経衰弱に三人はならなかった。むしろ逆の活力みなぎる気配を三人はまとっていて、そしてそれは基地の生活が、青春時代を思い出させたからと俺達は考えている。

 男でないと解り難いだろうが、青春時代の男はバカを貴ぶ。男にとって「あいつはバカだ」は、ときとして最高の誉め言葉になるのだ。そしてそれを「回復力が上回ったのだからそのぶん勉強するぜ!」は思い出させた。脳筋理念に基づく脳の更なる酷使というアホなことをしている自分に、昇と鷲と橙は青春時代を重ねたんだね。

 青春時代を重ねたのは男組だけではなかった。基地に集まり皆でワイワイ暮らす日常は女組にも、戦士養成学校の寮生活を思い出させていた。女組は、年頃娘に戻ったが如くキャッキャしていたな。20歳の容姿なのでまったく違和感なく、まこと瑞々しく華やかになったのだ。それに、男組が影響されない訳がない。かくして昇と鷲と橙は、脳筋理念を地で行く青春小僧の三週間を、健康的に突っ走ったのである。

 そこには含まれなかったが、勇の話に移ろう。

 鸞と藤の探検の引率役は、名家巡りと強化3闇王戦で忙しくなった俺に代わり、勇が務めてくれた。お祭り男の気風の漂う勇と探検を重ねた鸞と藤は勇に懐くと共に、強い憧憬を勇に抱くようになった。その最大のきっかけは、探検の目的地の大岩で魅せた技術だったという。大岩には垂直に切り立つ高さ10メートルの崖があり、そしてその崖から勇は輝力も反重力も用いず飛び降り、棒一本だけで安全に着地したのである。

 10メートルの崖は、下から見上げても十分高く感じる。だが興味深いことに、上から見下ろしてもまったく同様に感じるということは絶対ない。上から見下ろすと、死の恐怖に足がすくむ高さになるのだ。勇はそこから、輝力も反重力も使わず飛び降りた。使ったのは、運河越え用の7メートルの棒だけ。崖の際に立った勇は棒の上端近くを握り、棒の下端を崖下の地面に向けた。棒の下端と地面までの距離は、4メートル半ほどだろう。然るに飛び降りたら、4メートル半ほど落下したところで棒の下端が地面に届く。すると勇は棒に沿って落下するが、棒をしっかり握り脚も絡めているため摩擦でグングン減速し、足が地面に着くころは怪我をしない速度になっているという寸法だ。この技は言葉で説明すると容易に思え、体を減速させるだけならさほど難しくないと言える。しかしそれを、10メートルの崖から落下しつつ行うとなると話は違ってくる。上から見下ろし、死の恐怖に身をすくませたなら尚更なのだ。大岩から帰って来た鸞と藤は、勇を英雄のように見つめていたな。

 言うまでもなく、勇は鸞と藤に自分と同じことをさせなかった。最初は高さ50センチから始めて、高さ2メートルをもって今の年齢における上限とした。まこと妥当な数値と言えるだろう。2メートルの崖でも目線は3メートルになり「「一回目は恐怖に膝が笑いました」」と、鸞と藤は男組にこっそり明かしていたな。

 ちなみに棒を使い崖を降りる技は、地球人の技術。スペインの某島の伝統技術で、前世の勇はその島出身の若者にこの技を教えてもらったとのことだった。島では8メートルが上限だったらしいが、戦士の身体能力なら10メートルも楽々とのこと。それを聞いた男組は一人も漏れず、闘志に身を燃やしたものだった。

 男組はこの辺にして、舞ちゃんと美雪に移ろう。

 舞ちゃんも鸞と藤をもちろん可愛がっていたけど、最も活き活きしていたのは料理を作っている時だった。それもそのはず、舞ちゃんの作る料理は皆に大絶賛されていたからね。特に鸞と藤が我を忘れて料理をかっ込む様子は、舞ちゃんに至福の時をもたらしたらしい。丹精込めて作った料理を、育ち盛りの男の子に「美味しい!」「最高!」と言ってもらえるのは、女の本能を直撃するそうなのである。舞ちゃんは至福の表情を浮かべ、そんな愛妻に勇も、負けないほど幸せそうにしていたな。

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