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 しかし「能力的にはまったく問題なかった」としたように、別の問題が生じていた。食事会の時間が近づいたら肉体の俺は天風半島を去らねばならず、そのさい翼さんの浮かべる寂しげな表情に、胸の痛みを覚えたのだ。けどその問題も、輝力分身を残していくことで解決した。寂しげな表情を、翼さんはしなくなったんだね。ただ残してきた輝力分身によると、輝力分身に代わったら一族の子供達を翼さんは故意に呼ぶため、二人っきりになることはむしろ無いという。その意図が俺にはまったく分からず、それどころか誰に相談したら良いかもまったく分からなかった俺は、胸の代わりに胃が少々痛んだものだった。


 そうこうするうち前半の名家巡りが終わり、総司令部の新訓練場で強化3闇王と連戦する日々が始まった。そしてそれは、ここ数十年間で最も予想外の出来事になった。なんと予想していた何倍も、楽しかったのである。

 楽しかった最大の理由は、広さにある。俺の普段の訓練場が100メートル四方なのに対し、この新訓練場は1500メートル四方もある。なんと22.5倍もの面積があるのだ。これだけ広いと移動速度を制限しなくてよく、思い描いたとおりの速度で敵を攻撃し、思い描いたとおりの速度で敵の攻撃を避けられる。これは裏を返すと普段の訓練場では、狭さに邪魔され思ったとおりに動けずストレスになっていたということ。それが無くなったのは、爽快の一言に尽きた。そしてその爽快さが、楽しかったという訳だ。

 また広さは、別の楽しさも生んだ。それは、様々な戦術を心置きなく試せるという自由。狭い訓練場では新しい戦術を思い付いても、狭さゆえに断念することが多かった。でもここなら、それを試すことが出来る。その自由も、楽しさの一つだったんだね。

 その自由には、翼さんとの試行錯誤も含まれた。思いついた戦術がうまくいかず負けたとしても、翼さんと話し合い問題点をあぶり出し、勝利を少しずつ手繰り寄せていく。その試行錯誤が実り勝った時の喜びは、やはり半端なかったのである。

 しかしその試行錯誤する相方が翼さんではなかったら、ここまで楽しくなかったはず。翼さん以外では能力不足により、試せない戦術が多々あったのである。ただしそれは他の人に言えず、それどころか新訓練場でも口にできず、話せたのは準四次元のみだった。とはいえ準四次元でも話題にしたのは一度しかなく、理由は嬉し泣きをする翼さんが可愛すぎたからだ。今でこそ己を制御できたが出会ったころの13歳の俺だったら、意志のアカシックレコードで体験した未来になっていたのだろうな。

 危険なほど自分を嫌いになりそうだ。話題を替えよう。

 新訓練場は、いわゆる屋内訓練場。一辺2キロ高さ200メートルの正方形の建物内に、1.5キロ四方の訓練場を設けたという感じだ。莫大な建設費になったのは間違いなく、小市民としては小便チビリそうになるのがホントのところ。しかし屋内の利点は計り知れず、誤解を恐れず率直に言うと、「人目を気にせず負けられること」が最大の利点だった。俺たち人類は、戦争に負けたら絶滅する。よって俺と翼さんは、人目があったら勝たねばならなかった。閃きを試す等の挑戦をなるべくせず、とにかく無難に戦わねばならなかった。それは考えようによっては、正しいのかもしれない。絶対に負けられないのだから、絶対に負けぬ訓練を続けるのは正しいかもしれない。だがその訓練では、成長の未来分岐がどんどん狭くなっていく。その狭まった自分では対応できない闇王が次の闇王だったら、果たしてどうなるのか? 対応できないのだから、敗北はほぼ確定なのである。

 では逆に、新たな挑戦をし続けたらどうなるのか? 成長の未来分岐が増えるため、対応できない闇王の出現確率はどんどん減っていく。仮に対応できなかったとしても、


  訓練で負けた経験


 が活きることになる。訓練で負けたらその原因を突き止め、俺達を敗北に追いやった闇王に勝てるよう自分を育てていく。それを呆れるほど繰り返した経験が、本物の戦闘で劣勢に立たされたとき役立つ。劣勢に立たされても勝ってきた経験が、「劣勢を跳ね返す不屈の心」と「劣勢を跳ね返す糸口を見つける能力」を育てるのだ。この「劣勢を跳ね返す糸口を見つけること」は多くの場合、敵に揺さぶりをかけることから始まる。最も効果的な揺さぶりは奇襲で、奇襲とは敵にとって初見の攻撃をすること。そしてその初見の攻撃は、成長の未来分岐が広いほど繰り出しやすくなる。「コレが通じないならアレを試してみよう」のアレが、豊富にあるってことだね。という訳で長くなったからまとめると、


  本番で勝つためには

  練習で負けねばならない


 ということ。それを、物理的な壁で覆われたこの新訓練場では思う存分できた。俺と翼さんは人目を憚ることなく負け、かつその全てを跳ね返し最終的に勝ってみせたのだ。そしてそれはやはり、問答無用で楽しいことだったのである。


「翔さん」「どうした?」「いろいろ吹っ切れて、いろいろ満たせました。私は今、幸せです」「翼さん」「はい」「半年ごとのこの日々を、楽しみにしているよ」「はい、私もです」


 次の戦争で、俺と翼さんが連携して戦う可能性は低い。翼さんは筆頭闇将と単独で戦い、俺は闇王と単独で戦うからだ。

 ただ、可能性は0ではない。俺との戦いで闇王の戦闘力を低下させ、そこに筆頭闇将を余力を残して倒した翼さんが加わり、闇王を連携して倒すこともあり得るからさ。

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