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のだけど、それ自体が俺の認識不足だったらしい。舞ちゃんと奏は、あっけらかんとこう続けたのである。「子供の能力を見誤るなんて」「私達も日常茶飯事です」と。
「互いをまっすぐ見て1対1の関係を築き」「それを介して子供を知り教育計画を立て」「計画が順調に進んでいようと」「予想外の成長を突如するのが子供です」「今は子供になっているだけで、無数の転生によって莫大な経験をしてきたのだから」「努力が実り、前世の自分を再獲得する瞬間が子供には突如訪れる」「それが本体族の特徴と割り切り」「舞お姉ちゃんと翼お姉ちゃんと私は保育士をしているのですね」
本体族の特徴と割り切ることと、子供の能力を見誤ることは違うと思うが、息吹の三聖母の子育て経験値は俺のそれを遥かに凌駕する。それを土台にした見解なのだから、ここは素直に受け入れよう。そう思ったら、肩の力みが取れた気がした。
という俺の心身の変化も、三聖母の掌の上だったのかもしれない。無駄な力みを手放した俺に、舞ちゃんと奏は保育士と教導官の役割の違いを説明した。
「寮生活を始めたばかりの3歳児に、住み込み保育士が選択する最良の関わり方と」「寮生活11年目の戦士養成学校の1年生に、教導官が選択する最良の関わり方は異なります」「住み込み教官なら私達と共通する面が半ばあっても」「関わる時間が2時間しかない教導官は、大きく異なる気構えで子供達を教育せねばなりません」「教導官は1対多数を前提に400人の生徒をグイグイ引っ張って、高みから眺める初めての景色を全員に見せてあげて欲しい」「保育士と教導官に共通する気構えももちろんあって、子供は予想外の成長を突如する、がそれです」「ああなるほど、私わかっちゃった」「舞お姉ちゃん、ぜひ教えて!」「教導官は生徒が不意に急成長しても、その生徒に会ったのはせいぜい2時間前だから急成長に気づかないの」「なるほど、教導官は気づかなくても、住み込みの校長や教官は気づいているってことね」「そうそう! そしてそれは鸞と藤にも当てはまって」「鸞と藤が急成長した瞬間に立ち会ったのに、それを『1対多数の関わりしか持たなかったせいで能力を見誤っていた』と、翔お兄ちゃんと勇お兄ちゃんは誤解してしまった」「うん、それで合っていると思う」「翔お兄ちゃんと勇お兄ちゃんはどう思う?」「「「まったくもって、そのとおりでございます~~!!」」」
俺と勇に釣られ、昇もテーブルに額を擦りつけた。そんな俺達に、舞ちゃんと奏はまこと素敵にコロコロ笑う。勇と昇は夫としてデレデレ顔になっていいけど、俺は違う顔をせねばならない。その悲しみがチクリと、心臓を刺した俺だった。
その痛みを和らげようとしてくれたのか、鷲達が鸞と藤の親として話し合いに加わってきた。鷲達は、俺と勇にこう述べたのだ。鸞と藤が動けなくなるほどバーベキューを食べたのは、探検を心底楽しみお腹がすいたからだが、お腹がすいた理由はもう一つある。それは、全力で挑んだから。俺の出した課題や問いかけに全力で挑んだから、鸞と藤はお腹がペコペコになった。その全力で挑んだことも含め、鸞と藤は探検が楽しくてならなかった。その結実として、
「あの子たちは、たった1時間で急成長を遂げたのだと思います」
鷲達は親としてそう述べたのである。いやはやまったく、子供とは偉大なものだ。成長期を終えて久しい大人に、これほどの成長の機会を与えてくれるのだからな。
俺はそれも含め、この素敵な時間を過ごさせてくれた創造主に感謝したのだった。
そうこうするうち午後1時半になった。天風家で午後2時から始まる訓練に鸞と藤が参加するなら、起きねばならぬ時間になったのだ。ということは、俺もそうなんだけどさ。
まあ俺のことなどどうでもいいので脇に置き、鸞と藤を起こす役には舞ちゃんが立候補した。その理由を舞ちゃんは、「この基地に着き飛行車を降りた時から頑張りどおしだった二人を、褒めてあげなきゃ」と話していたな。重ね重ね住み込み保育士は凄い。1年8カ月振りに会ったのに、鸞と藤が努力していることを一瞬で見破ったんだからね。
その舞ちゃんが、鸞と藤の枕元に膝を突く。そして鸞と藤の頭を撫で名を呼び、起きなさいと語り掛けた。意志力だけでは涙腺の結界を防げなかった俺はそのとき、左右の太ももを全力で抓っていた。40数年前、毎日当たり前のように見ていたママ先生が子供達を起こす所作と、舞ちゃんの所作が完璧に重なったのである。隣をチラ見したところ、勇も左右の太ももを全力で抓っていたな。
舞ちゃんに頭を撫でられ名を呼ばれた鸞と藤は、1年8カ月前に戻って目覚めたらしい。にぱっと笑い「「ママ先生!」」と呼びかけたのだ。しかし上体を起こしたところで現実に戻り、たいそう恥ずかしげな表情になった。幼年学校の頃の自分を親に見られたのだから当然だね。けど舞ちゃんは、そんなのお構いなしに二人を抱きしめる。そして、人が抱きうる最高の愛情と最高の誇らしさを融合させたかのような声で二人に語り掛けた。
「ここに着いてからずっと頑張っていた鸞と藤は、立派なお兄ちゃんだったよ。二人とも、ご飯を食べて昼寝して疲れは取れたかな?」「「はい、取れました」」「午後の訓練には出られそう?」「「もちろん出られます!」」「うん、いい子ね。さあお兄ちゃんたち、出発の準備をしておいで」「「はい、ママ先生!」」
鸞と藤は競い合うように靴を履き、トイレ目掛けて駆けて行った。その後ろ姿を見送り、舞ちゃんは満面の笑みで二人の寝具を片付け始める。その所作に、大切な子供に十分な昼寝をさせてくれた寝具への感謝をありありと見て取り、かつそれが40数年前の光景とピッタリ重なった俺と勇は、最早どう足掻こうと涙を堪えきれなくなっていた。




